万葉樵話――万葉こぼれ話

第十回 古典を学ぶ意味

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人間中心の考えに反省を

 ここで、冒頭に記したことに戻れば、いまの私たちは人間、つまり自分を中心に置いてあらゆる物事を考えるので、その結果、自然の中にどしどし踏み込んでそこを荒らし、必要とあらば、何もかもそこから持ち去ってしまうような愚を繰り返している。その結果、いたるところで環境破壊が起こり、そこから深刻な問題がさまざまに生じている。時には、手痛いしっぺ返しを受けることさえある。それゆえ、ここで、古代の人びとの自然を恐れる敬虔な気持ち、自然を謙虚に敬う気持ちをもっと考えてよいのではあるまいか。古典を読み、古い時代の人びとの考えを知ることは、いまの時代の人間中心の考え――人間が一番偉いのだ、自然は人間のためにあるのだという考えに、反省を迫る意味をつよくもつように思う。それが、古典を学ぶ意味の一つではないかと、私は考えている。いまの私たちの世界の捉え方が唯一絶対であるという根拠など、どこにもないのだから。

(おわり)
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