東 「片腕」の場合は1巻目ですし、果たしてどんな絵柄が出てくるのかなと思った反面、これはもう強烈に女の片腕のイメージなので、それ以外に無いだろうなあ、と。
金井田 おっしゃるように道具立ては動かしようが無いので。たまたまうちに泰山木がありまして花が咲いていて、大好きな花なのでよく眺めていたんですよ。ちょっと艶かしいでしょう、泰山木って。ああいいなと思って、だからそれをコップに入れてみました。
東 手が生けられているんですよね。おおー、こう来たか、と(笑)。あと、この指輪ね。小道具がなかなかシンボリックで。
金井田 気がついていただいて。だって本文に書いてあるもん、みたいな。
東 つまんでいるのは花びらですか。
金井田 めしべです。
東 なるほど。あえて語り手である男の要素を排して、一種の静物としての腕を、花と絡めていらっしゃる。
金井田 花はそもそも性的なものですよね。語り口がとても性を感じさせる描写だったので。
東 パッと見た印象として、蝋燭のようでもあるし、あるいは西洋魔術で使われる「死人の手」とかね、ああいう死とか呪術的なものを連想させるイメージがあります。
金井田 そうですね。ファティマの手とか。
東 川端の小説と同様、エロスとタナトスが交錯していて、無気味さとエロティックな感じがこもごもに。あえて色彩も抑えてあるのも、ああ、なるほど、と得心しました。