森鴎外集 鼠坂
森鴎外集 鼠坂
 鴎外は前々から編訳本である『諸国物語』を、「鼠坂」をはじめとするオリジナルな怪談小説と並べて紹介してみたかったんですよ。鴎外は漱石に比べてとっつき悪い印象がありますが、でも『諸国物語』は翻訳なので清新な感覚の文体だし、それに触発されるようにして自分でも怪談小説を書いているのでね。ただこの「鼠坂」に関しては、どんな絵で来られるのか、「片腕」とは逆に予測不能で。これは文京区の鼠坂を意識されて?

金井田 いえ。わりと暗くて骨太でという雰囲気の作品なので、これは話の印象で描くしかないなと。いちおう道具立ては入れたんですけど、あえて本来の鼠坂ではない。

 私はむかし、あの辺のアパートに住んでいたことがあるんです。夕暮れの空に、土手の上のお屋敷の樹木が枝を伸ばしているこの感じ、強烈な既視感がありましたよ。

金井田 じつは私は大学が茗荷谷で、あの辺なんです。だから東さんと同じような体験があって、ああ坂道って坂の上と下でまったく景色が違うもんだなと思ったり。坂道って、小暗い感じというか、当然、日の光をちょっと遮断しますから、ちょっと不安をあおるような要素はありますよね。

 よく見ると不思議な色の空ですよね。古色がかったセピアのような。

金井田 最初の頃は、タイトルバックと反対色なんですよ。

 ああ、そうなんですか。

金井田 それでかなりがんばってきたんですが、途中からそういう制約もなしに(笑)。