吉屋信子集 生霊
吉屋信子集 生霊
 次は吉屋信子の巻でしたが……。

金井田 これは面白かったですねえ。

 おお、そうですか。

金井田 はい。だって、吉屋信子で怪談を読もうとは思わないですもの。でもその気持ちで読んでみると、また深読みができたりしてじつに面白いです。

 吉屋さんの怪談は独特で、いわゆるお化け話ではなくて、いかにも現実にありそうな話なんだけど、それがいつの間にか、あの世とこの世の境目をさまよい出しちゃうような、地に足のついたリアルな存在感がある。そしてこの絵も……リアルなようでいて、よく見るとまったく写実じゃないんですよね。どのへんがポイントですか。

金井田 高原の寂寥感と男の孤独ですね。それでどうも、影を描いてしまいました。雪なのに。

 「片腕」の絵にも影がありましたよね。

金井田 影って構成しやすいんですよ、実体と影の関係で。

 しかも、くわえ煙草で煙が立ち上っているのが影とも対比になっている。

金井田 煙という不定形のものは、なにか霊的なものを感じさせますよね。

 作品自体にもね、暖炉の煙とか、荼毘の煙とかのイメージがあって。あとは、雪の表現が、独特というか。

金井田 雪のパターンをふたつ作ってよいほうを採用しました。途中で描き直したんです。枝の前に雪が降るのとか、近くの雪が大きいとか、その辺を変えたような気がしますね。

 とても不思議な絵なんですよね。「鼠坂」はかっちりしたパースペクティブで構成されているけど、こっちはパースペクティブそのものが欠落していて。どこから空なのかわからないし、木は葉っぱにも見えるし。