泉鏡花集 黒壁
泉鏡花集 黒壁
 1年目の棹尾を飾るのが鏡花でした。この絵は、発売直後に目利きの友人から、このシリーズの白眉である、とおホメの言葉をいただきました(笑)。すごく大胆な絵柄ですよね、これは。

金井田 これは軒燈籠なんです。本来だったら手に持つものじゃないんですが、いかにも怪異とかかわっていそうなので。

 この「黒壁」は初期の習作に近いもので、全巻を代表する作品とは云いがたいのですが、各巻のサブタイトルを2文字で統一したかったので(笑)。夜道で妖しい女に行き逢うというイメージを、どう表現していただけるのかな、と思ったら、この手があったかと。この燈籠の図柄は、よく見ると蜘蛛になってて、こっちに蛾がいて。「黒壁」の語り手の不安な心理を、実に巧みに象徴していますよね。

金井田 この絵については、特徴的なことは、この燈籠の光を表しているパターンの丸が、ボタンだってことですね。ボタンをじゃらじゃらって落として、上から歯ブラシでしゃかしゃかって。

 ああー、そうなんだ!

金井田 でボタンをちょっとずらして、いくつも。

 ええー!?

金井田 そういうふうに遊んだなあ、という感じが。

 そういう技法は、よくおやりに?

金井田 ええまあ、わりと。

 それこそ、今ならパソコンで一瞬にやれそうなことを、あえて。

金井田 ねえ(笑)。でもまあ、エアブラシやパソコンだと、ものすごく美しく均一に出てしまうでしょう。

 想像もつきませんよね、そんなことだったとは。

金井田 これはわりと早い時期から燈籠にしようと思っていたのですが、帯があるから、燈籠を上のほうに入れなければならないでしょう。そうすると下が余っちゃう。それで、どうしようかと。最初は燈籠を土の上において、燈籠の光が土を這っている虫にかかる、下が平面であるという形をイメージしたんですが、それよりは空中にぶら下げたほうがおもしろいかな、と。女が運んでいる雰囲気だったんで。

 シンプルな色使いなのに、とってもインパクトがある。

金井田 これは赤い字がすごく印象的ですよね。

 「黒壁」だけでなく、この作品集全体が、闇の中でこういう明かりがほのかに揺らめくというイメージなので、そういう意味でも編者の思惑に直球ど真ん中という感じでした。