三島由紀夫集 雛の宿
 柳田をやるのであれば、ぜひ一緒に出したかったのが、三島の巻なんです。

金井田 それはなぜ?

 三島は「小説とはなにか」というエッセイの中で、柳田の『遠野物語』を取りあげて、とてもシンボリックに称揚しているので、どうせなら両者をコラボにして出したかった。このふたつを合わせて読むと、怪談に関してすごく理解を深められるんじゃないかと思ったんです。最初の「百物語怪談会」も含めて、2007年の3冊というのは、通して読んでいただければ、おのずから怪談文芸入門にもなるという、隠しテーマがあったわけです。

――「英霊の声」が怪談である、というのもね。

 意外に思う人も多いでしょうし、中には怒る人もいるかもしれませんよね。でも解説にも書いたように、三島の怪談好き、オカルト好きは、たんなる文豪の酔狂などではなく、彼の作家的本質に直結している。そういう私なりの理解があるので、ともすると政治的にしか読まれない「英霊の声」にも別の面があるんだよ、ということを示したかったんですね。とはいえ、本巻のサブタイトルに選んだのは、「雛の宿」なんですが。この年は3文字しばりだったんで(笑)。

金井田 最初は「月澹荘」でしたよね。あれも描きたかったんですが。

 絵になりますよね、あれは。ただ、5文字は長すぎると、山田さんに怒られて(笑)。でも結果、このタイトルでよかったですよ。これも意表を突く絵柄で、びっくりしました。

金井田 これは、実体ではなくガラスに映った男と並んでいる雌雛というのを描きたかったんです。で、モル・ダムールというのは、悪い恋、要するに恋わずらいという意味。ちょっとデパートのロゴふうにしてみました。

 背景の、不思議な旗のたなびく塔もいい感じで。そして原画では、タイトルに隠れる部分に雄雛が描かれているんですよね。

金井田 それは、はじめから隠れるつもりで描いてあるんです。

 雄雛が隠れて、こっちに男の鏡像があるのがポイントですよね。あの作品自体、とてもエロティックで謎めいた話なんですよね。俗っぽい発想で描くなら、女の子とか裸の女体とかにいきそうなのに、それをあえて、まったく違う方向から描いてあって。学生さんのこの独特の服装にしても、ちょっと古風な時代色を感じさせる。

金井田 三島はほんとうにモダンというか、とてもおしゃれな感じなんで。

 あれは一種の青春文学ですよね、青春の疼きみたいな。実は三島って、今の「萌え~」とか言ってるオタクな人たちの偉大なる先駆者じゃないかというのが、持論でして(笑)。巻頭の「朝顔」なんて明らかに妹萌えの話ですよね。これと「雛の宿」を並べると、かなり危ない感じがしませんか!?