東 これはまったくオリジナルで、怪談実話のアンソロジーを編んでみました。趣味と実益を兼ねて(笑)昔の怪談特集をしている雑誌をコツコツ蒐集しているものですから、ようやくその成果が1冊にまとまった、と。これはいかがでしたか。
金井田 これはですね、相互の話にすごく関連性があるじゃないですか。それがとても新鮮でした。
東 今の若い人たちに人気がある、いわゆる実話怪談というのは、要するに再現ドラマなんですよね。体験者の直話じゃなくて、それを取材した書き手が再構成してアウトプットしてる。だからそこには微妙にフィクションが介在していて、語り手が語っているそのままじゃないわけです。それが逆に面白さでもあるんですが。それに対して、本書の場合は、ほとんどが作家自身の体験談なんですね。それなのに、ふたりの作家が同じ現象に遭遇して同じ条件で書いても、けっこう微妙に違っていたり、あるいは田中河内介の話などは、みんな言ってることが違う。そういう不思議さやバラエティを楽しんでもらえたら、と。
金井田 なんというか、生々しいですよね。聞き書きからいろいろ角を磨かれてブラッシュアップされたのではなくて、なんかでろっと出してきたという感じ。
東 そういうところが、怪談実話の醍醐味なんですよねー。
金井田 また語り口が、すごく手だれなので。
東 それで、さて今回はどんな絵が出てくるかなあと待ち構えておりましたら、またアッと驚くものが(笑)。
金井田 ヤツデです。ヤツデは隠花植物で、暗いところに生えているよなあみたいなのが目にとまって。
東 たしかにヤツデって、怪談的な雰囲気がありますよね。古い家の、北向きの暗いところにあってね。日常よく見かけるんだけれども、かたつむりが這ってたりして、ちょっと無気味な感じでもある。ヤツデの実って、じっさいこんな感じなんですか。
金井田 これは花なんですけど、なんというか打ち上げ花火が開いたみたいな雰囲気の、集合花がこういうふうに咲くんです。
東 最初から作家たちの肖像を使ってみようという発想だったんですか。
金井田 はい、そうです。
東 肖像の人選は、どのように?
金井田 そうですね。まあぱっと見てわかる人というのが第一なんですけど、百けん(門がまえに月)は自分でもやっている作家なので入れておこうと。あとはまあ、顔の特徴のある方を。
東 後ろ向きなのが、片山廣子ですか?
金井田 そうです。片山さんは画像がほんと少なくて、だから後ろ向きに。
東 雰囲気、よく出てますよ。遠藤周作やハーンもそっくりですよね。
金井田 菊五郎も正面を向いているんですけど、ハゲ頭でこんなにきれいな顔ってあるのかな、と思いますね。いちいちのつくりものが、鼻とか目とかすごくきれいです。
東 巻頭の山下清の絵とも、さりげなく呼応している感じがありますね。