小川未明集 幽霊船
小川未明集 幽霊船
 これはもうラフを見た瞬間に、「す、凄い……」と。これに色がついたら、もうどうなっちゃうんだろう、と思って楽しみにしていたら、実際に期待通りで、すばらしかった。これはどういうイメージだったんですか。

金井田 これは浮世絵の雰囲気なんです。浮世絵って空を表現するときに上だけぼかすんです。それを入れたくて、空をかなりの分量をとって、そのほかをシンプルにするという方向で。打瀬船という手漕ぎ船です。大正時代、網で漁をする漁師さんが一人で漕いで網を入れて、回ってきて引っ張るというかたちで使われていたものらしく、ゆうれいせん、ではなく、ゆうれいぶね、ということで、和船なわけです。

 なるほど。「幽霊船」は未明の中でも初期の作品で、微妙に細部がアイマイだったりするのですが、島影とか波のところとか、光の微妙な感じとか、雰囲気があっていいですよねえ。

―― 最初、帯で陸地が隠れてしまうのがどうなんだろうと思っていたんですが。

 逆に、よかったんじゃないですか。

金井田 それははじめから、そのつもりでいたので。

 空を往く船のイメージで、帯を取ると陸地がある。「童話だけじゃない」と帯で宣言してますが、童話的な未明のイメージも同時に入っていて、両方の読者が反応してくれるかなという感じがありますよね。2008年のラインナップを決めるにあたって、読者アンケートを私のブログでとったんですが、未明が圧倒的な人気だったんですよ。

金井田 未明も怪談という括りの作家ではなかったので、読みたいというのはわかりますね。

 しかも未明は極端に作品が多くて、童話は今でも読めますが、小説は読めるものが少ない。だからこれは、本当に貴重な1冊になると思います。