著作権者・著作権継承者の皆様へ

Googleブック検索和解について。

拝啓

陽春の候、ますます御健勝のことと、お慶び申し上げます。
さて、先般より、米Google社と米国作家組合および米国出版社協会会員社との和解につきまして、新聞等で様々に報じられております。日本の著作者および出版社にも影響が及ぶこの和解に、皆様多大な関心と疑問をお持ちのことと存じます。つきましては状況をご説明するとともに、筑摩書房としての考え方をお伝えする必要があると存じまして、現在小社より著作物を書籍として刊行させていただいております著作権者ならびに著作権管理者の皆様に、本書面をお送りすることにいたしました。

これまでの経緯

Googleとは、米国に本社を置くIT産業を代表する企業であり、インターネットに不可欠な検索サービスの市場では世界の過半を有する巨大複合企業です。2004年以降、Googleは米欧を中心に主要な大学等の図書館と提携し、各館が所蔵する書籍のデジタル化を進めてきました。既に700万冊以上の書籍がデジタル化されており、それらは巨大なデータベースに格納された上で、作品の内容がインターネットを通じて、全文検索・閲覧できるサービスとしてGoogleから提供されています。
Googleの一連の行為は著作者や著作権者、出版社等の権利者に何の通知もないまま、無許諾で行われました。こうしたやり方を多くの著作者や出版社が違法であると抗議し、デジタル化作業を即座に中止するよう求めました。しかしGoogleは自らの行為をフェアユースの範疇だとして継続しました。2005年秋、米国の作家組合と出版社協会の支持を受けた主要出版社はGoogleに対して著作権侵害で訴訟を提起しました。そして昨年10月、Googleと作家組合・主要出版社の両当事者間に和解が成立したとの発表がなされました。現在、和解案は裁判所による暫定承認の段階にありますが、本年6月11日から開催される裁判所の公聴会を経て正式に認められる運びとなっています。

和解の概要

この和解案は英文で144ページ、付属議定書を加えると300ページを超える膨大なものですが、その骨子は以下のとおりです。すなわち、2009年1月5日以前に刊行された書籍についてGoogleは今後もデジタル化を継続し、それを用いて非独占的に「個人や団体への本文オンライン販売」「無償の一部閲覧や数行の抜粋表示」などのさまざまな利用ができる。一方で、
①Googleは本年5月5日までにデジタル化した書籍に対しては請求に応じて対価――主要作品に60ドル、完全挿入物(巻末解説等)に15ドル、部分挿入物(部分転載等)に5ドル――を支払う。
②今後、Googleが運営する「書籍データを利用したサービス」で生じた全収益の63%を権利者に分配する。
③Googleは権利者からの申し出により、個別の書籍のデジタル化の差止やデータベースからの削除、本文の表示利用の除外に応じる。
とするものです。

日本の著作者や出版社への影響

Googleと提携している図書館には、英語文献に止まらず世界中の書籍が所蔵されており、日本の出版物も数多く含まれています。もちろんこれらの書籍はそれぞれ当該国の著作権法によって保護されています。また世界のほとんどの国が、著作権の保護に関する「内国民待遇」を規定した国際条約であるベルヌ条約を批准していることで、米国内においても米国の著作権法によりこれらの書籍が同様に尊重され保護されています。つまり、日本の著作者と出版社も、米国内では米国の出版物の権利者と同等の権利を持つ、共通の利害関係者ということになります。
また今回の訴訟がグループ・アクション(集団訴訟)として扱われたため、訴訟に参加している当事者と利害の共通する関係者は、訴訟に直接関与していなくても自動的に効力が及ぶことになります。今回の和解はあくまでも米国の企業が米国内で行ったことに対して、米国で行われた裁判の結果として合意されたものに過ぎません。しかしながら、内国民待遇を規定したベルヌ条約と集団訴訟という米国内の訴訟制度の組み合わせの結果として、出版物に関する世界中のほとんどの権利者がこの和解の影響を被ることとなってしまいました。

権利者がとることのできる選択肢

この和解案に対し、権利者がとることのできる選択肢は大きく分けて2つあります。
①和解を拒否する。
②和解に参加する。
和解を拒否する場合には本年5月5日までに和解管理者に対して「拒否する」旨の通知をしなければなりません。それまでに何もしなければ、自動的に「参加する」ことになります。また、和解のいずれかの条件に不満がある場合は5月5日までに、和解管理者が定めた弁護人を通じて、異議の申し立てを行うことも可能ですが、取り扱いは裁判所に委ねられており、いかなる判断が下されたとしても決定には従ったうえで「参加する」という結果になります。
なお、1冊あたり60ドルの“解決金”の受取、あるいは個別の書籍のデジタル化の差止やデータベースからの削除は、和解への参加が前提となっており、それぞれ2010年1月5日、2011年4月5日が手続きの期限とされています。個別の書籍を本文の表示利用から除外させる要求、あるいはその復活には期限は設けられていません。
和解を拒否した場合のみ、Googleに対して法的手段に訴えることができますが、それぞれが自己の責任で別途、訴訟の提起等を行う必要があります。

筑摩書房の考え方

現在のところ、小社刊行の書籍も既に2000冊を超える点数がGoogleによってデジタル化されていることが判明しています。精力的に調査を継続しているところですが、筑摩書房としては今回のこの和解に対して、あえて拒否の通知は行わない所存です。たしかにこれまでのGoogleのやり方には承服しがたいものがあり、和解の内容も決して最善のものとはいえません。しかしながら、和解を拒否することで蚊帳の外に出てしまい、結果としてあらゆる交渉の窓口を閉ざしてしまうよりも、全地球規模で広がるデジタル化、ネットワーク化の渦中にあって、著作者と出版社が続けてきた活動を広くアピールし、今日まで築き上げてきた権利を守ること。新しい技術や変化に臆することなく、次代を見据えた出版の新たな可能性に前向きに取り組む。そうした活動を続けていく中で、出版界全体のさらなる発展に資することを目指すべきだと考え、そのためにも和解に参加した上で、事態を好転させるように務めることが重要であると判断したためです。
具体的な方針および詳細に関する判断は本年7月以降に下される裁判所による和解内容の最終決定の後になりますが、2011年4月5日までとされている個別の書籍のデジタル化の差止やデータベースからの削除要求、あるいは時期を問わず本文の表示利用からの除外要求に関しては、できるかぎり行使していきたいと考えています。
もっとも、今回の和解はGoogleによるデジタル化をアメリカ国内に限定しており、インターネットでの利用も、アメリカ国内のみに限定されています。仮に日本国内から自由に利用できるということであれば日本における書籍出版、電子出版に広範な影響が及ぶことになりますが、当面はそれほど大きなものではないと考えられます。
しかし、元来インターネットというものが国境を飛び越えた性質を持ち、Googleに代表されるITビジネスはすべての情報をネットに取り込み、提供することを指向するものであることを考えると、近い将来出版界に大きな影響を及ぼすような提案が、日本においても持ち込まれてくる可能性は否定できません。
小社はこれまで著者の皆様から著作物を任せていただき、熱意と責任をもって出版活動を行ってまいりました。今回のようなデジタル利用やネットビジネスの展開に対しても、筑摩書房としての意志・対応を明確に表明することにより、今後もその姿勢は保ちたいと思います。

今後のご連絡等について

先に申し上げましたように、筑摩書房としては本年5月5日までにGoogleに対して「和解を拒否する」旨の申し出を行うことなく、自動的に「和解に参加する」ことを考えています。著作権者の皆様も同じように「和解に参加する」とされる場合は問題ありませんが、もし「和解を拒否する」旨をGoogleに申し出ようとお考えの方がおられましたら、担当編集者あるいは小社編集情報室までお申し出ください。著作権管理・法務担当の者を交えてご相談させていただきたく存じます。

敬具
2009年4月吉日
株式会社筑摩書房
代表取締役社長 菊池明郎

ご自身の著作がGoogleによってデジタル化されているか否かの確認方法について

著作権者の皆様の著作が、Googleによってデジタル化されているか否かを確認する方法は、現在のところ、インターネットを利用して各人が自ら調べるほか、方法がありません。

(調査方法)
和解管理者による日本語サイト「Googleブック検索和解」にアクセスする。
http://www.googlebooksettlement.com/

トップ画面の【書籍および挿入物について申し立てを行う】をクリック
(この段階で申し立てを行うわけではありませんが、この選択肢を選んでください)。
ここでアカウント(Googleに対してこちら側のメールアドレスなどを登録する手続です)を作成します(著者または著者の相続人にチェックを入れます)。数時間から1日でGoogleからログイン用のコードがメールで送られてきます。

送られてきたコードを用いてログインします。
次に、画面上の「申し立てフォーム」を選び、右下の「検索して申し立てを行う」をクリックします。
「書籍および挿入物を検索して権利の申し立てを行うためのツール」というページが表示されますので、
「書籍を検索」にチェックを入れて「次へ」をクリックします。
次に「書籍の検索」ページが表示されます。

ここで、著者名などを入力して検索すると、該当する書籍がGoogleによってデジタル化される予定となっているのか、
また既にデジタル化作業が行われているのか、といった状況を確認することができます。
入力は日本語(漢字表記)とローマ字表記の両方で行ってください。Googleのデータベースは現在のところ、
日本語書籍の表記方法が統一されていない模様です。
なお、ローマ字表記は音引きに関して、母音字の上に¯や^(上傍線)をつけているようです。
母音の上に引く傍線の入力方法ですが、Windowsをご利用の方はIMEツールバーからIMEパッドを呼び出して「文字一覧」でUnicodeを選択します。この中の“ラテン拡張A”で探すと「Ō ō Ô ô」等があります。

本件に関してご質問やご相談がございましたら、小社編集情報室までご連絡ください。

筑摩書房 Tel:03-5687-2671 Fax:03-5687-1585
E-mail:googlebook@chikumashobo.co.jp