これが“世界基準の教養”日本の読者のためだけに語り下ろした完全日本語オリジナル

現実を的確に分析し、時代の先を読む思考をいかにして手に入れるか。ソ連崩壊、リーマン・ショック、イギリスのEU離脱などを予見した世界的知識人が、その秘訣を伝授する。「世界初の書」がここに誕生。
コロナ禍の不確実な時代を生き抜くための知恵が本書には満載されている。全ての人に手にしてほしい。――作家・元外務省主任分析官 佐藤優
なぜ人びとは社会が視えないのか。トッド氏は社会の真実を突きつける。知の行き詰まりを感じたら読みなさい。 ――社会学者 橋爪大三郎
分野を越えて独特の思想を生み出し続ける秘訣とは。現代の知性が語る、思考の楽しさを伝える珠玉のガイド。 ――経済学者 安田洋祐
危機の時代を見通す真の思考法

調子の狂ってしまったこの現実世界で何が起こっているかを見通し、それがこれからどうなっていくかを考えること──これこそが現代の私たちに最も求められているものであり、いわゆるAI(人工知能)には代替できない人間らしい知的な営みでもあると思います。それがつまり、「思考する」ということなのです。

(「日本の皆さんへ」より)
これから世界はどこへ向かうのか?

さまざまな「予測」の根底にあるのが、トッド氏が長年の歴史研究を通して培ってきた思考法であり、それに裏打ちされた独自の分析眼です。いっけん突拍子もないものにみえる「予測」が、どのような分析から導き出された論理的帰結なのかを明かしていきます。

予測のプロセス

これから世界はどこへ向かうのか?
(エマニュエル・トッドが「予測」するポスト・コロナの世界)

日本に関してはどうでしょう。このまま表面的にはうまく収束を迎えることができるかもしれませんが、そうした場合、内部で人々のある程度の満足感が得られることにより、これまでよりもさらに、高齢者を救うことよりも子どもを産むことのほうが大切であるという事実を見えなくさせてしまう可能性はあるでしょう。そうして、思想的にまどろんだような状態がますます強化されるのではないでしょうか。もちろん、このような傾向はすでに日本ではみられるものです。

(本文より)
目次

日本の皆さんへ

序章 思考の出発点

困難な時代/思考を可能にする土台/なぜ哲学は役に立たないか/混沌から法則を見いだす/思考とは手仕事/考えるのではなく、学ぶ/能力はだれもが平等/思考のフレーム/処理能力としての知性/記憶力という知性/創造的知性/機能不全に注目する

1 入力 脳をデータバンク化せよ

自分のなかに図書館をつくる/研究者とは旅人である/仕事にヒエラルキーはない/趣味の読書、仕事の読書/市民としての読書/研究は楽しくなくてはいけない/注に注目せよ/分野横断的に読む/カニ歩きの読書(二つの軸の交錯点、もう一つの補助線、準備としての読書、 新たに学んだことを掘り下げる、元のテーマに立ち返る、隙間を埋める読書、着地点の見当をつける)/結論づける勇気

2 対象 社会とは人間である

社会から覆いを取り去る/社会を維持するための幻想/文学による探求/精神分析による観察/合理主義と経験主義/歴史に語らせる/すべては歴史である

3 創造 着想は事実から生まれる

「発見」とは何か/データ蓄積から着想へ/無意識での攪拌プロセス/アイディアにどう向き合うか/データの意味に気づく力/「普通である」という異常/思いつきをかたちにする/アイディアを妨げるもの/グループシンクの社会/リサーチから発見へ/自分の発見に驚く/予想外のデータを歓迎する/自信がなければ何も生まれない/誰かに評価してもらうこと

4 視点 ルーティンの外に出る

虚偽意識に囚われた人々/現実を直視する条件/英語で読む利点/アウトサイダーであれ/外の世界へと出る経験/外在性のつくり方/古典を読む意義/比較という方法/別の世界を想定する/機能しすぎる知性はいけない/別のかたちで刺激を与える

5 分析 現実をどう切り取るか

アナール学派の弱点/社会を観察する目/今現在から逃れること/分析の時間的尺度/過去から未来を考える/歴史学、統計学との出会い/歴史統計学の考え方/データの背後には人がいる/現実にはいくつもの描き方がある/相関係数から読み解く/機械のように検証する/統計学的想像力

6 出力 書くことと話すこと

社会への発言/怒りに基づく介入/書くことは苦手/友人を説得するように/書きながら考えない/ディクテーションという方法/章立てはチェックリスト

7 倫理 批判にどう対峙するか

学術界からの反感/思想というバイアス/同調圧力に抗う/価値観ではなく知性の戦いを/学者としての私、市民としての私/研究結果に忠実であれ/フォーマット化される知性/複数の自己/最悪の事態を予期できないわけ/批判を受けるという特権

8 未来 予測とは芸術的な行為である

ウイルスが明るみに出したもの/家族構造との関係性/現実には服従せよ/進行中の危機を思考する/歴史という補助線/ポスト・コロナを予測する/思考から予測へ――三つのフェーズ/芸術的行為としての予測

日本のみなさんにこうして直接語ることがいかに喜ばしいことか、そしていかに光栄なことなのか、改めて申し上げたいと思います。この本で自分を振り返ってみれば、一見乱雑なことも実は創造力につながる道なのだということを再認識しました。 そしてこのささやかな気づきがこの本を通して日本のみなさんに伝わったとすれば、これ以上うれしいことはありません。

── エマニュエル・トッド
エマニュエル・トッド

エマニュエル・トッド

1951年フランス生まれ。歴史人口学者。パリ政治学院修了、ケンブリッジ大学歴史学博士。家族制度や識字率、出生率などにもとづき、現代政治や国際社会を独自の視点から分析、ソ連崩壊やリーマン・ショック、イギリスのEU離脱などを予見したことで広く知られる。おもな邦訳書に、世界的ベストセラーとなった『帝国以後──アメリカ・システムの崩壊』のほか、『世界の多様性──家族構造と近代性』『最後の転落──ソ連崩壊のシナリオ』(以上、藤原書店)、『シャルリとは誰か?──人種差別と没落する西欧』(文春新書)などがある。

大野舞 (おおの・まい)

1983年生まれ。フランス・バカロレア取得。慶應義塾大学総合政策学部卒業、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。パリ大学東アジア人文科学研究科博士課程所属。おもな訳書に、エマニュエル・トッド『大分断──教育がもたらす新たな階級化社会』(PHP新書)がある。

エマニュエル・トッドの思考地図 エマニュエル・トッド 著 大野舞 訳

エマニュエル・トッド 大野舞

エマニュエル・トッドの
思考地図

独自の分析眼をもとに数々の予測を的中させてきたトッド。その思考の全プロセスを日本人だけに初公開。世界水準の知がここにある。未来を生き抜くための必読書。

四六判並製/240頁/本体1500 円+税/ISBN:978-4-480-84753-9

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