【第1章より】

梅田 脳の創造性の根幹にかかわることと同じことが、いまネットの世界で起こりはじめている、と。

茂木 そうです。「偶有性」は脳にとって、とても重要な栄養なんです。人間の脳はつねに偶有的なできごとを探しまわっている、と言うこともできます。インターネットが好きかどうか、ネット世界の変化を受け入れるかどうかということは、偶有性に対する態度と密接に結びついている。この変化を嫌う人は、偶有性に満ちたネットがいやなのだろうと思いますが、他方で予想できないものが好きな人には、ネット以上の遊び場はない。自分がブログを書いたら、どんな人がコメントをつけるか、どんな人がトラックバックをつけるかわからない。そんな不確実さにあふれた世界なのですから。

梅田 朝起きて、まず何をするか。いちばんやりたいこと、いちばんせざるを得ないところからやりますよね。そうすると最近、メールよりブログのコメントやトラックバックのほうが気になります。そっちのほうが、何が起きているかわからないから面白い。まさに偶有性ですね。自分のブログを自分の分身のように考えると、とくに頻繁に更新している時期には、分身に異常が発生していないかを見にいくみたいな感覚があります。メールは想像のつく範囲の人からしか来ないですから。

茂木 だから、ネットはセレンディピティ(偶然の出会い)を促進するエンジンでもあると思う。もちろん、本屋でたまたま立ち読みしていて思いがけず何かに出会うということもあるけれど、インターネットはセレンディピティのダイナミクスを加速化している。紙媒体はゆっくりなのに対して、ウェブははるかに高速です。

梅田 人と人との出会い、人と何かの出会いというのが、つい数年前までは、物理的な制約でがんじがらめになっていたわけです。それが、物理的な制約を超えて、ネットによって、自分が面白いと思っていることと全く同じことを考えている人がここにいた、というような出会いがある。そういう経験の質というのかな、これを心から感じている人と、そういうことは全く経験もしたことないし、考えたこともないという人の間には、すごく大きなギャップができてしまっている

  • ちくま新書フェア
  • 筑摩書房の脳の本