ちくまの教科書 > 鈴木日出男先生を悼む
去る2013年10月3日、小社国語教科書編集委員を長きにわたって務めていただいた鈴木日出男先生が逝去されました。6月には小社より『伊勢物語評解』が刊行され、その後も続刊の御原稿なども頂戴しており、お元気にお過ごしのことと疑いもせずにいただけに、突然の悲報にただただ驚くばかりです。このところ岩波書店はじめ、立て続けに御著書を出版され、精力的にご活躍中でしが、『伊勢物語評解』が遺著となってしまいました。鈴木先生の訃報に際して、筑摩書房国語教科書の編集委員を一緒に努めていただいた高田祐彦先生から追悼文を頂戴いたしましたので、ここに掲載し、鈴木先生の御冥福をお祈りしたいと存じます。

鈴木日出男先生を悼む

 去る十月三日、鈴木日出男先生は不帰の客となられた。前夜、筑摩の編集者の方から先生がかなり危ないと知らせを受けた私は、授業を終えるのももどかしくご入院先へ駆けつけた。すでにお話をできる状態ではなく、ベッドに横たわる先生のお姿をわずかな時間見つめるだけで、同じように駆けつけて来られた先生の教え子の方々と病院を後にしたのであった。その晩、先生は息を引き取られた。九月下旬に、一昨年あたりから長引いていた腰痛の精密検査に入ったところ、もう病魔は先生の全身に回っていたとのことで、先生ご自身も自らのお最期を覚悟する間もない急逝であった。

 先生の学問については、いまさら喋々するまでもないと思われる。大著『古代和歌史論』『源氏物語虚構論(ともに東京大学出版会)をはじめ、『源氏物語歳時記』『王の歌』(ともに筑摩書房)など、上代から中古にかけての著作が目白押しであり、『源氏物語』の注釈も大きな足跡として記念されよう。昨年から今年にかけては、『連想の文体(岩波書店)伊勢物語評解(筑摩書房)源氏物語引歌綜覧(風間書房)を立て続けに上梓して、その研究はいよいよ衰えを知らなかった。

 その一方、国語教育への情熱も深く、筑摩の古文の分野では、益田勝実、秋山虔両先生の実績を引き継ぐ形で、教科書づくりを領導してこられた。現在の古文部門のほとんどは、先生が実質的に固められたといってよいだろう。教科書を作り、指導書を書くことが自分にとってはとても大きな勉強だった、と先生からうかがったことがある。筑摩の教科書づくりをとおして、先生の中で研究と教育はみごとに両立していたのだといえよう。

 個人的なことを記せば、先生には、大学院の学生時代から学問の手ほどきを受け、学者として、また教育者として大切な心構えを折にふれて教わってきた。そのような中、十年ほど前に教科書の編集委員に加わるようにとのお話があり、力不足もはなはだしい私は尻込みしたのであったが、「筑摩はチームワークのいいところだから」と説得され、お引き受けすることになった。編集会議では若輩の議論に耳を傾けておられることが多かったが、時には情熱を持って新たな教材を入れるよう主張されたり、構成や記述について、貴重な見識を示して下さることがあり、そのたしかな指針は後進の大きなよりどころであった。

 先生を喪ったことは、筑摩の教科書にとって大きな痛手であり、先生の築かれた筑摩の古文をさらに後代に受け渡してゆくことは難事業であるが、多くの方々と手を携えて、その行く手を切りひらいてゆきたい。

青山学院大学教授

高田 祐彦

鈴木日出男 すずき ひでお

1938~2013年。青森県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。東京学芸大学助教授、成城大学教授、東京大学教授、成蹊大学教授を歴任。東京大学名誉教授。専攻は古代日本文学。『古代和歌詩論』(東京大学出版会)で、第13回角川源義賞受賞(平成3年)。

著書に、『新編日本古典文学全集「源氏物語(1~6)」』(共著 小学館)、『新日本古典文学大系「源氏物語(1~5)」』(共著、岩波書店)、『古代和歌の世界』(ちくま新書)、『王の歌――近代歌謡論』(筑摩書房)、『万葉集入門』(岩波ジュニア新書)、『源氏物語歳時記』(ちくま学芸文庫)、『源氏物語虚構論』(東京大学出版会)、『源氏物語引歌総覧』(風間書房)、『連想の文体――王朝文学史序説』(岩波書店)、『伊勢物語評解』(筑摩書房)などがある。

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