浪速のスーパーティーチャー守本の授業実践例

第二章 小説

1 『待ち伏せ』 ティム・オブライエン/村上春樹 訳

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④ 平和教材として――戦争をどう描くか

 戦争を扱った作品を教室で取り上げるのには少し工夫がいります。生徒は戦争を歴史として捉えてしまい、自分とは無縁の過去の話としてしまうことがあるからです。戦争の悲惨さも非人間性も昔話の中の出来事になってしまうと、実感どころではなくなります。生徒にいかにして自分の問題として、今の問題として戦争を実感させるかという工夫がいるのです。そういう意味では、生徒の現実から遠くなった戦争を過去のものではなく今の視点で描いている作品が教材として必要だと思います。例えば石原吉郎の一連の仕事などはそれにあてはまるのでしょうが、独特の「重さ」と「難解さ」で、どうも敬遠されがちですね。

 そういう意味では、この『待ち伏せ』という小説は、戦争を真っ正面から今の問題、自分の問題として捉えようとしています。そこには、村上春樹の訳の影響もあるのでしょうが、平易で親しみやすい文体によって、主人公の今の苦悩が鮮やかに描き出され、生徒がその苦悩を実感することを手助けしてくれます。

 自分は戦争で何を見たのか、あるいは戦争は自分の何を変えたのか、ということを検証し続ける主人公の姿勢は、いわゆる自分探しであると同時に、戦争の意味を自分に関わる今の問題として問い続けるということでもあるのです。

 戦争をその悲惨さと非人間性によって描く作品もあるでしょうし、戦争の歴史的な意味を語る作品もあるのでしょうが、戦争をこのような視点で描く作品も授業では必要なのではないでしょうか。

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