「よりよく生きるための経済学入門」若田部昌澄 栗原裕一郎

第16講 経済学で一番大事なことは金本位制が教えてくれた、あるいは10分でわかる世界経済史

栗原 ユーロが崩壊したって速報が2月6日の早朝にツイッター上で駆けめぐりましたね(笑)。
若田部 ああ、あれね。あとからちょっとだけ見た。
栗原 作家でミュージシャンの辻仁成って今フランスに住んでいるんですが、「フランス国営放送、民放ともにフランスの各局が、ユーロ離脱、ユーロ崩壊を報じています。ユーロは今日から一ユーロ、一フランとなるとのこと」とツイートして、それが瞬く間に広がって大騒ぎに。ユーロ崩壊のシミュレーション番組を現実の報道と勘違いしたそうなんですが、さすがに鵜呑みにする人はそんなにいなくて、辻が平謝りに謝って落着したという、まあ、笑い話なんですけど……
若田部 オーソン・ウェルズの伝説的ラジオ番組「火星人襲来」だね(笑)。
栗原 彼もそう言って忌々しがっていました(笑)。フランスのその番組を見ることはできなかったんですけど、でも、シミュレーションをリアルな報道と早とちりしても不思議じゃないくらいにはユーロ危機って切迫してますよね?
若田部 緊張していた昨年末に比べると今は小康状態といったところだけれど、危機の原因は本質的には何も解消していないから、依然として逼迫した状況だね。
栗原 ギリシャの債務超過が一番のボトルネックらしいというのは報道からわかるんですけど、べつに大国でもないギリシャの危機がどうしてユーロ全体にまで及んでしまうのかというのがよくわかんないんですよね。
若田部 それはもう、ユーロという多国にまたがる単一通貨システムが本質的にはらんでいる問題と言うしかないんだよね。1999年にユーロが発足したときから、クルーグマンなんかは「やばい」って反対していた(『世界大不況からの脱出』三上義一訳、早川書房、2009年)。
栗原 ユーロが崩壊するとどうなりますか。2008年の金融危機より深刻な事態になるんでしょうか?
若田部 どの国がどう離脱するかによってシナリオはいろいろありうる。けれども、このままの状態が続くと危機はさらにひどくなる。むしろ一部の国が離脱したり、場合によってはユーロそのものが解体したほうがよい結果になるかもしれないね。今の問題は、ユーロから起きているところが大きいのだから。こういうことを理解するには、金本位制とか国際通貨制度について学ばなくてはならない、というのが今回の話だ。
 さて、通貨制度の領域は簡単な理屈がすごくきれいにわかるところだ。「トリレンマ」って言うんだけどね。
栗原 ジレンマの次のトリレンマですか。
若田部 そう。「ジ(di)」というのは二つ、「トリ(tri)」というのは三つという意味で、トリレンマというのは三つのことが同時には成り立たないということね。まずは定義を書いてみようか。

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