浪速のスーパーティーチャー守本の授業実践例

第一章 詩

2 「二十億光年の孤独」 谷川俊太郎

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 この詩のヒミツは、「なぜ、くしゃみ?」です。しかし、普通に読み進めても、なかなかその答えに到達できません。何かひらめきのようなものが必要です。ひらめけば、すぽっと生徒に伝わるのですが、それを授業で実践するには工夫が必要になります。

① 心情の変化を見る

 この詩の心情の変化について、生徒はいささか苦戦します。「暗か明か」といったら、詩人は火星人のことをあれこれ推測していて、どこか楽しげで、明るそうだと感じる生徒もいるぐらいです。

 しかし、まず、ここで押さえるべきことは、「ときどき火星に仲間を欲しがったりする」です。なぜ、人類(地球人)は、火星に仲間を欲しがるのか、ということなのです。その答えは題が示すように、当然「孤独」だからです。孤独なとき、家族や友人ではなく、火星人に思いを馳せるというのが、この詩の面白さの一つですね。

 この詩人の孤独は、社会の中や人間集団の中の孤独に根ざすものというより、生あるものとしてこの世界(宇宙)に生まれたもの、あるいは投げ出されたものが本質的に持つ孤独なのでしょう。いわゆる実存による不安・孤独です。したがって詩人が火星人の生活を仮想するのは、この宇宙に生まれた孤独な者として、同じ宇宙で、同じ孤独を持つ者への呼びかけのようなものなのです。この孤独に悩む者は自分だけでないはずだという願望にも似た推測が、この詩が書かれた時代では、宇宙人といえば蛸のような火星人を連想させるという、比較的ポピュラーな火星人の生活を仮想させたのだと思います。

 ということで、最初の心情は、この宇宙に生きる不安と孤独感という「暗」なのですが、そこには、日本的なウエットな感傷はなく、ユーモアさえも感じられます。これこそ、この詩人の特長です。

 詩人は、孤独・不安を表現しながら、感傷に過ぎず、それほど深刻でもなく、それとは正反対のユーモアさえも漂わせることにより「生」のただずまいのひとつを見せようとしているのです。孤独や不安といっても、人間はいつもそれにしばられて、四六時中、眉をひそめて苦悶して生きているわけではありません。まさに「眠り起きそして働き、ときどき」ふっと感じるわけです。「ときどき」その寂しさゆえに、同じ孤独に悩む仲間を求め、こんなことを想像しているのです。そんなに深刻ではないが、しかし、心の奥底にあり、ときどき顔を出す心情というニュアンスがとてもうまく表現されていますね。

 三連から五連にしても、万有引力やビッグバンなどの物理的な世界と、心理的な実存の不安との関係を表現しながら、それらが宇宙に生きる者すべてに共通するということをさらっと示しています。そこには、ユーモアさえも感じます。切実なことをユーモア含めて表現することで、かえってそれが伝わりやすいという表現の面白さも、生徒に伝えたいところです。

 では、この、深刻ではないが、本質的な不安や孤独の心情はどう変化したのでしょうか。

二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした

 この最後の詩句に心情の変化が表されています。そして、この心情こそが、この詩のヒミツを解き明かすカギなのです。

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