おびやかされる、

沖縄での美しく優しい生活。

幼い娘を抱えながら、

理不尽な暴力に直面してなお

その目の光を失わない著者の姿は、

連載中から大きな反響を呼んだ。

(初出=Webちくま2019年4月~2020年3月)

おびやかされる、沖縄での美しく優しい生活。幼い娘を抱えながら、理不尽な暴力に直面してなおその目の光を失わない著者の姿は、連載中から大きな反響を呼んだ。

お知らせ

装画・挿画 椎木彩子

痛みを抱えて生きるとは、

こういうことなのか。

言葉に表せない苦しみを聞きとるには、

こんなにも力がいるのか。

生きていることが面倒くさい日々が私にあったことは、若い女の子の調査の仕事をしていると、どこかで役に立っているように思う。(......)
あれからだいぶ時間がたった。新しい音楽はまだこない。
それでもインタビューの帰り道、女の子たちの声は音楽のようなものだと私は思う。だからいま私は、やっぱり新しい音楽を聞いている。
悲しみのようなものはたぶん、生きているかぎり消えない。
それでもだいぶ小さな傷になって私になじみ、私はひとの言葉を聞くことを仕事にした。

(「美味しいごはん」より)

書店員コメント

読み終えて、あぁと愕然とした。
私は何を読んでいたんだろう。
涙でぐしょぐしょになって、上間さんの抑制の効いた誠実な文章で綴られた
日常の大切な人と言葉に、自分の感情の揺れをのせていた。
遠く、安全なところから。

読み終えて、もう一度最初からページを開く。
沖縄で生きる人の息遣いが幾重にも聞こえてくる。これから何度も何度も読もう。
ずしりと胸を突かれました。
代官山 蔦屋書店 宮台由美子さん
上間陽子さんの「海をあげる」すごい本だった。
誠実でやさしさに溢れていて、最後に上間さんから渡されたもの、どうしたらいいだろう。
私たちの上空をずっと覆っている無力感、
昨日も今日も、逆らっても無駄だよと力を奪われ続けているように感じるけど。
打ちのめされないように鈍感になること?  
沖縄には、「普通」の生活をスタートする地点に行くまでに戦わなきゃいけないことが多すぎる…。
こんな長い夜をひとりで走ってたら力尽きてしまうから、
疲れた人は休んで、三交代制のシフトみたいに
みんなで少しずつ走れたらいいなと思う。

そうでなければ、やさしい人からつぶれてしまう。
ずっと大切にしたい一冊であり、 たくさんの美しさとともに
大きな釘を心に打ちつけられるような一冊でした。
自分の店でも、少しでも多くの人に手に取ってもらえたらと思います。
HMV&BOOKS HIBIYAコテージ 花田菜々子さん
とても素晴らしい本で、なかなか言葉が出ません。
まず文章の美しさに圧倒されました。
沖縄のことが大好きで、その歴史や政治的なことにも関心があるつもりでしたが、
本当にはなにもわかってないのだと思い知らされました。
ページをめくるごとに淡々と凛とした文章でつづられた
上間さんの想いが胸に降り積もっていき、最後まで読み終えたとき、
タイトルの意味を理解して呆然としました。
差し出されたものの途方もなさ、それに絶望する自分の無力が悔しい。
これから私はあらゆる時、何度も、このエッセイに描かれた風景や出来事を思い出すでしょう。
ささやかで尊い日常を送るあいだも、
そこに土足で入り込んでくる社会や権力を目にしたときも、
どうやってそれと対峙すべきか思い悩むときも、必ずこの本のことを思い出すでしょう。
間違いなく今年最上の、
どころか人生の大切な一冊となりました。

一人でも多くの方にこの本を届けたいです。
NET21今野西荻窪店 水越麻由子さん
消化できずに逃れられない葛藤と、現在進行形の深い溜め息に包まれた感情が折り重なり、
読んだ後も自分がいる場所に、ただただ立ち尽くすしかできなかった。
しかし、上間さんの掌から放たれた言葉はすぐ眼の前に確かに広げられている。
今度は私達がそれらに触れて
しっかりと握り返す番ではないだろうか。

この時代において、様々な人々が読まなければいけないエッセイが、ここに誕生した。
大盛堂書店 駅前店 山本亮さん
「海をあげる」。この言葉が、読み終える最後の最後に、
自分の生き方、罪深さをあぶり出す。

強い言葉でなくとも訴えかけることを教わりました。出会えてありがたい一冊でした。
ジュンク堂書店 近鉄あべのハルカス店 大江佐知子さん
自分にうちのめされる。自分が悲しい。何も知らない自分、声なき声を聴けない自分。
それはどう考えても間違っていると思っても、~したかったで通り過ぎてしまう。
そしてその本当の苦しみを深堀りしようとしない。
上間陽子さんの文章は、心に深く侵入してきて突き刺さり、何かあなたに感じることはないの?
することはないのか?  とつきつけてくる。
「海をあげる」。私はこの言葉に何を返せるのか?
何ができるのだろう。心が興奮と涙でいっぱいだ。

沖縄の海に土が入っていくのを想像したことがある?
それがどんな大きな震えをもたらすものか。
エッセイとして今伝えなければならないこと、迷いながらも書かなければいられないものは、
魂の奥まできた。優しくて強くて、なんて素敵なんだろう。
風花ちゃん(お子さん)に語ること、生きる姿を見て、形式的にしか判断しない社会、
声なき声を聴こうとしない社会、どんな家庭環境で育ち、どんな辛い過去を背負っても、
そんなことをしてはいけない、するべきではないという上辺だけの言葉があふれていることがむなしく、上辺だけの世界で自分は知ったかのようにぬくぬく抵抗していたつもりでいた。
自分が辛い。

この作品に出会って、声なき声を聴いた。本当に心から良かった。
この本はどうしても広めたい。多くの方に出会ってほしい。
そして、この声に耳を傾けてほしい。
ジュンク堂書店 滋賀草津店 山中真理さん
読んでいてまず思ったことは文章が綺麗。
世の中には様々な問題があり、その問題は身近にある。
ただその問題に気付くことができないことがあり、今の日本に足りないものは
身近にある問題について考えることではないか?  そう思いました。
「三月の子供」が心に残りました。
お互いの家庭の状況が分かったからと言ってお互いの子を預かってもらったり、
預かったりはなかなかできないし、
私自身いろいろと考えさせられるところでした。
MARUZEN&ジュンク堂書店 渋谷店 勝間準さん
言葉を失う位に絶望が身体を蝕んでいく程に、人々の優しさが身体を芯から温めてくれる。
様々な形の愛情が詰まったエッセイをありがとう。
文教堂 商品本部 青柳将人さん
心から嫌だと言葉にしても通じない世の中で、
この本で何かを感じることが出来るのではないかと思う。

微力ながらそれに自分が関われたら……自分が少し救われる思いになった。
今はこの本を売りたいと思っています。
銀座 蔦屋書店 佐藤歩さん
夜になったら眠る、朝になったら起きる、ごはんを作って食べ、水を飲む。
こんな当たり前のことを奪われた人たちがいる。わたしが暮らすこの国で、
わたしが生きるいまこの時、暴力と無関心にずっとさらされている人たちがいる。
「私は、どこに逃げたらいいかわからない。」
読み進めるたびに、
考えぬかれたまっすぐな言葉が胸の奥にとどく。

いまだからこそ、たくさんの人に読んでほしい。
奪われた人たちの声を聞いて、応えてほしい。
HMV&BOOKS OKINAWA 中目太郎さん
同じ日本でも状況が違う沖縄をすごく近い目線で見ることができ、
辺野古問題に直面する中、それぞれが何を思い、何を抱えて生きているのか、
こちらの想像力を掻き立てるものでした。
海に土砂が投入され、生き物たちがどんどん犠牲になっていく。
海に住む生き物たちだけではなく周辺住民、もっと広く捉えると沖縄に住む人たちが
ゆっくりと頭から土砂をかけられ、暗闇におとされていくようで、
そのような状況に追い込んだ人はすごく自分勝手で残酷だと思いました。
そういう残酷な状況をずっと孤独に抱えてきた沖縄の半分でも支えて
声を上げないといけない。もっと大きな声を。
そんな切実な願いと憤りを感じました。
ジュンク堂書店 名古屋栄店 近藤梨乃さん
「海をあげる」。その海は上からの、外からの言葉が投げ入れた土砂で赤く濁った海。
“AIにこころはあるのか” 、そんな問いも虚ろに響く無機質な言葉で傷つけられた海。
“水でふくらんだ娘のまるいおなか” に愛おしさを。
“「海に土をいれたら、魚は死む?  ヤドカリは死む?」” 娘の問いに悲しみを。
“友達の作ってくれた無敵の粕汁” に温かさを。
“娘に教えるぶっかけうどん” に温かさを。
“祖父が、小さいまま死んでしまった妹がいるニライカナイ” を遠くに近くに。
“波の音、海の音と娘の寝息” に安らぎと不安を。
一緒に食べて笑って泣いて、日々の営みから紡がれた言葉。
一緒に寄り添って、あなたの荷物を絶対に半分持つ、そんな感情の共鳴が生み出す言葉。
上間さんが紡いだ言葉は、静かに少しずつ、でもしっかりと滲みわたっていく。
そして沖縄の海は青く澄んでいく。
やがていつか、この本を思い出すとき、
タイトルは「アリエルの海をあげる」と響くように。
京都大学生協 書籍部ルネ 山下貴史さん
装画・挿画 椎木彩子
装画・挿画 椎木彩子

目次

  • 美味しいごはん
  • ふたりの花泥棒
  • きれいな水
  • ひとりで生きる
  • 波の音やら海の音
  • 優しいひと
  • 三月の子ども
  • 私の花
  • 何も響かない
  • 空を駆ける
  • アリエルの王国
  • 海をあげる
  • 調査記録
  • あとがき

 ねえ、風花。海のなかの王妃や姫君が、あの海にいる魚やカメを、どこか遠くに連れ出してくれたらいいのにね。赤くにごったあの海を、もう一度青の王国にしてくれたらいいのにね。

「アリエルの王国」より 装画・挿画 椎木彩子

 でもね、風花。大人たちはみんな知っている。護岸に囲まれたあの海で、魚やサンゴはゆっくり死に絶えていくしかないことを。卵を孕んだウミガメが、擁壁に阻まれて砂浜にたどりつけずに海のなかを漂うようになることを。私たちがなんど祈っても、どこからも王妃や姫君が現れてくれなかったことを。だから私たちはひととおり泣いたら、手にしているものはほんのわずかだと思い知らされるあの海に、何度もひとりで立たなくてはならないことを。そこには同じような思いのひとが今日もいて、もしかしたらそれはやっぱり、地上の王国であるのかもしれないことを。

 だから、風花。風花もいつか、王国を探して遠くに行くよ。海の向こう、空の彼方、風花の王国がどこかにあるよ。光る海から来た輝くあなた、どこかでだれかが王妃の到着を待っているよ。

 (「アリエルの王国」より)

上間陽子

上間陽子(うえま・ようこ)

1972年、沖縄県生まれ。琉球大学教育学研究科教授。普天間基地の近くに住む。 1990年代から2014年にかけて東京で、以降は沖縄で未成年の少女たちの支援・調査に携わる。2016年夏、うるま市の元海兵隊員・軍属による殺人事件をきっかけに沖縄の性暴力について書くことを決め、翌年『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版、2017)を刊行。ほかに「若者たちの離家と家族形成」『危機のなかの若者たち 教育とキャリアに関する5年間の追跡調査』(乾彰夫・本田由紀・中村高 康編、東京大学出版会、2017)、「貧困問題と女性」『女性の生きづらさ その痛みを語る』(信田さよ子編、日本評論社、2020)、「排除II――ひとりで生きる」『地元を生きる 沖縄的共同性の社会学』(岸政彦、打越正行、上原健太郎、上間陽子、ナカニシヤ出版、 2020)など。現在は沖縄で、若年出産をした女性の調査を続けている。

海をあげる 上間 陽子 著

海をあげる 上間 陽子 著

上間 陽子

海をあげる

四六仮フランス装/256頁/ISBN:978-4-480-81558-3/
定価:本体1600円+税 ブックデザイン:鈴木成一デザイン室