素人の乱って?

松本「素人の乱」は、高円寺にあって、リサイクルショップ、古着屋、カフェ、イベントスペースとかがあります。さびれた商店街のなかにとりあえず入って、安く貸してもらってやっています。商店街の人たちも、「若い者でも呼べば、なんとか活性化するんじゃないか」ということで、結構仲良くて、地域のおじいちゃん、おばあちゃんとも混じりながら居ついているという感じです。そして時々デモとか何か騒ぎを起こす。

雨宮私が人に言うときは、松本さんの経歴から話しますね。それが一番わかりやすいと思います。「法政の貧乏くささを守る会」という人たちがいて、大学を出たあとは「貧乏人大反乱集団」をやってると聞けば、だいたいどういう感じかわかりますよね。それから、「俺のチャリを返せデモ」(★1)とか「家賃をタダにしろデモ」(★2)とかをやりつつ、リサイクルショップもやっていて、訳のわからない人たちが溜まっている場所、コミュニティ。そういう言い方をします。相手がどこまで理解するか、ものすごく妄想が膨らんで、何かとんでもない村みたいなものを想像したり(笑)。 私が出た素人の乱の「家賃デモ」は、プラカードがほんとにくだらなくて「築30年」とか「四畳半」とかいうプラカードで、「画鋲を刺させろ」とかの要求で、「一揆」というのぼりを掲げてた。出発すると人がバンバン入ってきて、台の上にコタツがある移動式の居間があって、松本さんがそこに座って一升瓶を持ってアジっているという、こんなマヌケな絵が21世紀の日本にあるのかみたいな……(笑)。

★1 2005年8月20日。放置自転車撤去反対のデモ。

★2 2006年9月。

鶴見「家賃をタダにしろ」という主張も、実はこの『貧乏人の逆襲!』を読むと、土地所有制度のことと関係があって、もともと土地は誰のものでもないのに、勝手に「俺のものだ」とぶん取った奴が人に貸しているのはおかしいじゃないかと。すごく深い話になってるから、松本君はちゃんと考えているんじゃないかと思った。

松本一応、土地を誰かが持ってるから家賃が高いんだと思って、「家賃をタダにしろ」と言ったら、ちゃんと研究してる人に「君たちはよくわかってる」と言われて(笑)。

雨宮やってることが、知らないうちに世界基準というのが面白いですよね。狙ってないのに。

左から、鶴見氏、松本氏、雨宮氏。

貧乏人の逆襲を読んで

鶴見本すごくよかったです。第1章の金を使わない生活の方法にしても、第2章のリサイクルとか、地域でモノを回していくこととか、自治にしても、第3章の貧乏人の反乱にしても、金持ち連中に食い物にされているところを取り返していくようなことで一貫してるところがすごいと思う。まるで最初に理論を学んで、「こうすれば資本主義をやっつけられる」とか考えて、これらのことを全部やってるみたいだけど、この本を読むと、単に小さい頃からこういうことをずっとやってたと。

雨宮「天然」というのが、あり得ないですよね(笑)。 私も本(『雨宮処凛の闘争ダイアリー』)にも書いたけど、本当にこの本は死ぬほど面白かった。貧乏人がどうやって「ボッタクリ社会」に抵抗して大反乱を起こしながら生きてくか、具体的な方法が詰まってますね。松本さん自身がそうやって生きてるし。

鶴見松本君の言う「タダで生きる」っていうのはめちゃくちゃ革命的なことですよ。人が水を飲むとか、衣食住やすべてのことで人から金を取ろうとしてる企業に対して、松本君の主張ややってることは完全に敵対していると思う。企業は人が生きるためのあらゆるところにビジネスチャンスがあると思ってて、どうやったらうまく金を取れるか企んでるから。

松本とりあえずヤツらは全部から金を取ろうとしますからね。税金はやたら高くて、衣食住とか普段の生活からも金を取って、仕事でも当然金を取って、遊びでも金を取る。

鶴見ちょっと休むのでも、喫茶店とか入らされて、金取られて……。朝起きてから寝るまで全部、何でもかんでも金を取られる。だから、みんなが金を使わないで生きるようになったら、金儲けしようとしているヤツらをすごく困らせることになる。

松本無駄な消費社会に巻き込まれないということが一番打撃を食らわすことができますよね。リサイクル業もそうかもしれないけど。

雨宮そういう意味では、このまえの5月3日の新宿メーデーもそうですけど、あんなに面白いデモにタダで参加できるというのはすごいことですよね。あれだけの2時間を経験しようと思ったら、5000円ぐらい取られそうですよね。でももちろん全部タダだし。

新しいメーデーのデモ

雨宮私は5月1日は福岡の「フリーター/貧民メーデー」に参加して出られませんでしたが、その日の高円寺のデモはどうでしたか?

松本いよいよ拍車がかかってとんでもなくなってきたというか、もうデモじゃなくなってきましたね。一応、いつも高円寺でデモをやるときは、「俺のチャリを返せデモ」とか、「反PSE法デモ」(★3)とか、そんな感じでやっていて、いつもどおり音楽をかけながらメチャクチャやっています。今回も音楽をかけながらやりましたけど、一応、全国のメーデーに呼応してやる意味もあった。でも、よくよく考えたら、あんまり働いている人が近所にいない。働くにしても、週3日とかテキトーな人が多いから切迫感を持って要求することがない。でも、うちらの生き方というのは正しいと主張したい部分もあるから、祝日の祭りみたいな感じになっちゃう。この高円寺のメーデーのタイトルは、「米騒動90周年」とか、「ロクに働かないヤツらのメーデー」とか「労働にあまり興味がないヤツらのメーデー」とか「高円寺マヌケメーデー」とか、告知する場所によって名前が違ったんですよ。世の中がひっくり返ったらメーデーって祝日になるでしょ? たぶん。そういうノリですね。

★3 2006年3月のPSE法に反対するデモ。PSE法は中古家電やヴィンテージ楽器が売買できなくなるというもの。

5月1日の高円寺「素人の乱」のメーデーでアジる松本氏。

鶴見途中でダンスパフォーマンス集団のBABY-Qが入ってきて、「なんだ、なんだ」と思っているうちに踊りだしたりして、いろいろ仕掛けが凝らしてあったのが面白かった。あと、DJの選曲がすごくよかった。

雨宮鶴見さんは、いつからメーデーなどに参加しているんですか。

鶴見去年ぐらいから。「素人の乱」のデモに出るのは今回が初めてで、おととしぐらいから、自分でも「世の中、これじゃまずい」と。経済とか、格差社会的な問題でヤバいと思って、自分でも友人とラジオやトークイベントをやったりし始めて、いろいろイベントにも行くようになっていったら、至る所に雨宮さんや松本君が出ていると。そういうのが去年ぐらいで、よく顔を合わせるようになった。

松本高円寺の選挙(★4)のときも、結構来てくれましたね。

★4 2007年4月、松本哉氏は杉並区議選に出馬した。「革命後の世界を先に作る」と語り、「選挙活動」としてバンドのライブやDJイベント、舞踏などを行い、高円寺の駅頭は祭りの場と化した。

鶴見そうそう。素人の乱がやった騒ぎで最初に行ったのは、高円寺の選挙。いきなりショックだった(笑)。

松本選挙は気持ちよかったですね。あれは最高ですね。群衆がいっぱいいて。混乱をきたすのが気持ちいいですよ。秩序はよくないですよ。選挙制度自体もそうだし、予定調和というか「なんとなく、こんなものでしょう」という感じが世の中あまりにも多くて、それが一番の弊害だから、一回それを壊しながら、自分たちのやりたいことをやっていくというのがいいですね。「ざまあみろ」という感じですね。

雨宮そうですね。ところで、一読者としての質問ですが、それまで鶴見さんは何をしていたんですか。

鶴見俺は『完全自殺マニュアル』の著者なんだけど、なぜ「自由と生存のメーデー」のデモとかに出ているのかというと、松本君のこの『貧乏人の逆襲!』にも関係してくるけど、企業の奴隷になっているような生き方から降りて、もっと気楽に生きようというような本でもあったんですよ。そのあと、企業がこういうふうに人を使い捨てるようになってきて、本当は降りてもちゃんと生きられなきゃおかしいのに。雨宮さんの『生きさせろ!』に詳しいけど、企業の奴隷になっても死ぬ、辞めても死ぬなんて、そんなのには文句を言わなきゃおかしい。そのほうが、もっと生きやすい社会になるわけだから、結局は、生きづらくない社会、世の中を目指していたので、そういうデモなんかにも参加すべきだと思った。松本君がこの『貧乏人の逆襲!』の「はじめに」で、「我々は結局囚人なんだから、脱獄しかない」ということを書いていたけど、似たようなことを俺もたまたま書いていて、「俺たちは囚人か?」と思わせるような世の中に楯突きたいというのが気持ちとしてはあったわけです。でも松本君には敵がちゃんとわかってる。敵が、その辺のヤツらをみんな金儲けのための食い物にするようなヤツらだと俺が思い至ったのは最近だった。

「素人の乱」メーデーデモに、舞踏集団BABY-Qが乱入!

「素人の乱」メーデーデモ参加中の鶴見氏。他には「硫化窒素」「経団連」などのプ ラカードが。

この鼎談のロングバージョンが小社のPR誌「ちくま」8月号(8月1日発売)に掲載されます。
(筑摩書房HPでも8月以降立ち読みできるようになります)

*この本の刊行イベントが都内各地で次のように行なわれます。

★6月20日 20時から 高円寺の「茶房 高円寺書林」にて。
毛利嘉孝氏と松本哉氏両氏著書出版記念トーク。1ドリンク500円 "http://www.geocities.jp/fuzainoisu/shorin.top.html"
東京都杉並区高円寺北3ー34ー2 電話:03ー6768ー2412


6月21日 17時~20時 墨田区の現代美術製作所主催。
"http://www15.ocn.ne.jp/~g-caf/"
電話03-5630-3216 松本哉トークライブと映画「素人の乱」上映 500円


6月24日 19時半~ Naked Loft(新宿)。
"http://www.loft-prj.co.jp/naked/"