万城目学インタビュー 『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』について話しましょう インタビュアー=松田哲夫

 天性のストーリーテラー・万城目学さんの最新作『かのこちゃんと
マドレーヌ夫人』が刊行されました。ささやかな日常にひそむきらきらのワンダーが、猫や女の子の目線で丁寧に描き出されています。万城目ワールドの新しい物語世界が存分に味わえる作品です。
 本書の刊行に際して、万城目さんに、本書にこめた思い、小学生時代の記憶、取材秘話から次回作のことなどをうかがいました。
(ちくまプリマー新書編集部)

主人公の存在感にしたがって書く

―― 万城目さんは、このたび新作『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』を発表されました。この作品は、いかにも万城目さんらしいお話で、万城目ワールドではあるんです。だけど今までみたいに大きな出来事が起きるわけではない。デビュー作の『鴨川ホルモー』 から1作ずつ作風が変化してきているんですが、今回はかなり大きく作り方が変わったような気がするんですが。

万城目 今までみたいに、大きな舞台背景があって、そこで人があれやこれや活躍する物語を組み立てられたら、書く側はすごく安心なんですね。登場人物が未熟で、あんまり定まってなくても、比較的安心して書き始められるんですよ。道のほうが先に舗装されてるみたいな感じで。今回はそういうものがなかったんで、心配でしたね。これまでのように打ち上げ花火のような面白味がないと、面白く感じてもらえないんじゃないかみたいな不安も、書きながらありました。

―― 今までの作品みたいに、とんでもない世界が突然現れるというふうにはしたくなかったんですか。

万城目 そうですね、たまにそういうアイディアもふってわいてくるんですけれども、抑制しつつ……。構想時は、もっと変な非日常の要素を入れてもいいかな、と思っていたんですが、いざ書き始めると、かのこちゃんという主人公の女の子の性格が意外にしっかりとしているというか、跳ね回ってるけど地に足がついた感じなんですね。ふわふわとどこかへ行ってしまうような、そういう感じの子どもではなかったので、最後までかのこちゃんの存在感にしたがって書いていきました。かのこちゃんと猫のマドレーヌ夫人との関係も、書く前はお互いどういうふうな距離の持ち方なのかわからなかったんですけど、いざ書くと意外としっくりしていって。

―― 大きなことは起きないんだけども、ちょっとした会話なり動作なりがほほえみを誘って、なんともいい雰囲気を作っていくんですね。考えてみれば『ホルモー』にしても、ホルモーに突入するまでは学生たちの自堕落な生活みたいなものを描いていくんですが、会話なり日常描写みたいなものに、ある種の品がありましたよね。中身は、決して上品とは言い難いものなんですけど(笑)。

万城目 そういってもらえるとうれしいです(笑)。

―― 万城目さんの作品って文章に品格があるんです。そういう品格と面白さをどう両立させるか、みたいなことをお考えになっているようですが。

万城目 ありますね。あんまり汚い言葉とかは使いたくないですし。

かのこちゃんとマドレーヌ夫人 万城目学 著

「ホルモー」「鹿男」「トヨトミ」の輪を飛び出して、万城目学が紡ぎ出す、新たな物語の世界!

元気な小学一年生・かのこちゃんと優雅な猫・マドレーヌ夫人。その毎日は、思いがけない出来事の連続で、不思議や驚きに充ち満ちている。書き下ろし長編小説。