写真:岸政彦

岸政彦監修 『東京の生活史』プロジェクトのお知らせ

2020年7月、
岸政彦さん監修によるプロジェクト『東京の生活史』をはじめます。

これは、東京にいるひと/いたひとの人生についての
大きなインタビュー集をつくるという企画で、
2021年の刊行をめざしています。

今後は、何かありましたらホームページでお知らせいたします。

どうぞ、楽しみにお待ちくだされば幸いです。

――筑摩書房編集部

 それまでも何度か東京には遊びに行っていましたが、18歳の受験のときにはじめてひとりで東京を訪れたときのことが忘れられません。どこだったか場所も忘れた、小さな安いビジネスホテルの部屋で、真夜中に窓を開けると、星空のような街の水平線に新宿の高層ビルの灯りがきらきらと瞬いていました。
 よく、東京にはリアリティがないとか、虚構の街だとか、記号の海だとか、そういう気取った言い方があります。でも、この歳になってもいまだに、東京を訪れるたびに感じるのは、その実在感です。ああ、東京タワーって、ほんとにあったんだ。新宿アルタって、ほんとにあるんだ。渋谷のスクランブル交差点って、実在するんだ。
 有名なところだけでなく、小さな商店街の一本裏の、小さな家やアパートが並ぶ路地も、たしかにそこに実在する東京です。
 記号やバーチャルではない、実在する東京。ほんとうにそこにある、ただの、普通の東京。
 もちろんその全貌を、一挙に理解することはできません。でも、私たちはすくなくとも、たまたま出会ったその小さな欠片を切り取って、手のひらの上に並べることはできます。

 『東京の生活史』いよいよ正式にスタートします。これは、私自身が監修し、一般から公募した「聞き手」によって集められた「東京出身のひと」「東京在住のひと」「東京にやってきたひと」などの膨大な生活史を、ただ並べるだけの本です。解説も、説明もありません。ただそこには、人びとの人生の語りがあるだけの本になります。目標は80人から100人、二段組でおよそ800から1000ページ(!)を予定しています。

 本書の趣旨・コンセプト・意義について、説明会と面談をおこないます(日程や形式は未定)。まずはお気軽に、下記事務局までご連絡ください。ご質問なども歓迎します。経費や印税などの実務的なことについてもご説明する予定です。
 説明会と面談のあと、インタビュー調査の理論・方法・倫理などについて、がっつり「研修」をおこないます(こちらも日程は未定です)。なお、制作上の都合で、応募された方全員にお願いできないかもしれませんが、どうかご理解ください。

 みなさまからのご応募、楽しみにお待ちしています。

岸政彦
募集要項
締切 2020年7月20日募集期間は終了しました
資格・所属などは一切問いません。

「真面目に、静かに、謙虚に、他者の語りに耳を傾けることができる方」を
募集します。
(事前に拙著『街の人生』を読んでおいていただけるとうれしいです)

プロジェクト責任者

岸政彦(きし・まさひこ)

1967年生まれ。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。社会学。専門は沖縄、生活史、社会調査方法論。主な著作に『同化と他者化──戦後沖縄の本土就職者たち』、『街の人生』、『断片的なものの社会学』(紀伊國屋じんぶん大賞2016受賞)、『質的社会調査の方法──他者の合理性の理解社会学』、『ビニール傘』(第156回芥川賞候補、第30回三島賞候補)、『はじめての沖縄』、『マンゴーと手榴弾』、『図書室』(第32回三島賞候補)など。

「東京の生活史」制作日誌

長期にわたるプロジェクト「東京の生活史」を始めるにあたって、
担当編集者による日々の制作日誌を公開します。

東京のひがしにある出版社で、1冊の本をつくるまでの記録です。
7月
2020.07.01(水)

コロナの影響もあり当初の予定からは遅れてしまったが、ようやくプロジェクトの告知日になった。調べてみると、会社に企画を通したのが昨年の12月で、半年以上時間が空いてしまったことになる。

昼過ぎ、会社のツイッターアカウントで正式な告知を出してもらう。早々に最初の応募メールが来て、すこしホッとする。

13時半からの会議のあとメールをチェックすると、応募が10通ほど届いていた。「え、なんでハンター試験にヒソカが……」的な驚きを覚える方からの応募もあった。

保育園の迎えがあるので早めに会社を出ないといけないのだが、それまでに、応募いただいた方にお礼と受け取りましたという連絡を入れておく。残りは明日。それぞれのメールに切迫感があって、ちょっと気圧される。

宣伝課が気を利かせて、リリースを打ってくれた。さっそくメディアからヒアリングの依頼。ありがたい。反響の大きさに、ちょっと高揚感があった。

2020.07.02(木)

起きると応募がたくさん来ていて、震えあがる。30通超えた。

今日は在宅勤務で、朝から応募者へお返事。同時並行で、エクセルの一覧にしていく。

語り手はこちらが用意するのではなく、聞き手自身が語り手を見つけてくる。この条件がちょっと伝わりにくかったということで、ホームページの修正、告知。

聞き手が具体的に「このひとに話を聞きたい」と思うとき、そこにはなにか知りたいことやそのひとを選んだ動機がある。自分でも、なんて当たり前のことをとすこし呆れてしまうが、応募のメールを読んでいて気がついた、新鮮な驚きだった。聞き手を公募することのおもしろさがすこしわかった気がする。

午後、電話でヒアリング。

2020.07.03(金)

怖くなってきたので、応募数を数えるのはいったんやめる。エゴサもなるべくやめる。ただ、このペースだと、100を超えるのはほぼ確実。

午前中、宣伝課の濱中さんと打ち合わせ。反響の大きさに二人で驚く。濱中さんは同期で、よく相談に乗ってくれる。

聞き手と語り手の関係のおもしろさや、今後の展開の仕方についてもざっと話をした。本づくりが長丁場になるので、制作日誌も公開しようという話に。とにかく、いまはこのプロジェクトに興味をもってもらうのがいちばん。

取材依頼が一件。ありがたい。

2020.07.06(月)

在宅。土日のあいだも、けっこうな数の応募があった。お返事して、エクセルにまとめていく。目次のイメージも、すこしずつ固めていかないといけない。

2020.07.07(火)

応募はすこし落ち着いてきた。濱中さんに昨日までに書いたぶんの日誌を見せて、反応を聞く。基本はこのまま書いていいということなので、書いていく。宣伝計画が宣伝課のボスに褒められたそうで、こちらもうれしい。

2020.07.10(金)

応募の数が100を超えた。今日が締切までの折り返し日なので、再度会社のツイッターで告知してもらう。

いただいた応募のメールを読んでいると、聞き手の方のお話もおもしろいなと思ってしまうことがよくある。これも不思議な話で、どうしてそのひとの人生が、その来歴やエピソードによっておもしろく見えてしまったりするんだろうか。人生がおもしろい、とはなんだろうか。

子どものころ聞いた「人生いろいろあるよ」は、なんて無責任な大人の言い方だろうと思っていた。でも、たしかにそういうことなのかもしれないとも思う。

2020.07.21(火)

20日締切ということで、週末から目に見えて応募数が増えている。最終日は、100通超えたんじゃないか。で、集計してみると、応募の総数は500弱になった。見込みが甘かった。

だれかの話を聞き取りたいと思っているひとが、こんなにたくさんいる。なんだか希望のもてる話だと思った。おもしろいことに、女性と思われる方からの応募が多い。感覚的には7:3くらいだろうか。こういうところにも、ジェンダーが表れているのかもしれない。

しかし、これどうするのと途方に暮れる気持ちもちょっとある。おもしろくなる手応えはあるのだが、どう落としこんでいけばいいのか。この本をつくるうえでいくつかのポイントがあるはずだが、人選が肝であるのはまちがいない。

考え出すと、けっこうおそろしい。ひとまず無心で、ひたすら受け取ったというお返事とエクセル入力。仮目次もつくってみる。

2020.07.27(月)

週末にBuzzFeedの記事が出た。企画がはじまってすぐに、こうしてとりあげていただけるのはありがたい。岸さんがいま東京で一番好きな街は「浜松町」。

応募者リストの整理が済み、仮目次もひとまずできた。ただ、詰めないといけないことも、山積みになっている。もともと考えていたスケジュールからずれこんできているが、近々岸さんと選考をはじめることにする。

2020.07.30(木)

今日は在宅で、午後から岸さんとzoomで打ち合わせと選考会。「柴山さん、肥えたな」と関西弁らしいあいさつ。「はい、ちょっと肥えました」。東京だと「太ったね」とか「丸くなった」という表現になってきついが、関西弁は嫌味なところがなくてうらやましい。これからの進め方、こまごま詰める必要があるところを確認して、いざ選考。

事前にお渡しした応募者のリストと仮目次をみながら、一人ずつ話をしていく。夕方まで、休憩をはさみつつの4時間で、zoomを落としたあとは頭がくらくらした。1/3も終わってない。しかし、へとへと。

選考の基準は、第一に「語り手が具体的で実現可能性があること」として決めていく。おもしろいのは岸さんとの意見がだいたい一致するところで、不思議な気もするし、そういうものだという気もする。もっとおもしろいのは意見がわかれたときで、これはもろに考え方が出る。

8月
2020.08.07(金)

今日は在宅で、夜から岸さんとzoomでまた選考会。岸さんお一人でも見てくださっていたそうだが、やはり二人で話しながら進めたほうがいい。

もう夜なので、岸さんはだいぶヘトヘト。そんななか、お付き合いくださった。

「柴山さん、カラオケとか行く?」

「あんまり行かないですね。なんでですか」

「いやあ、別に。疲れとんのかな」

疲れてると思います。カラオケ、ぜんぜん行ってない。明日また続きをやることにして解散。一気にやる。

2020.08.08(土)

すべての応募についての検討が一巡した段階で、予定の100人を大幅にオーバーして200人くらい。会社に提出した企画書を確認してみると、「(多くても)50人くらいか」と書いてあった。「くらいか」とはなんだと、ちょっと自分にムッとする。ぜんぜん読みちがえている。

予算など制作の都合を考えると、まだまだ絞りこむ必要がある。リストと仮目次をつくりなおして、もういちど頭から二人で見ていくことになった。

2020.08.10(月)

暫定のリストと仮目次が完成、岸さんへ。応募者の方に、選考に時間がかかっている旨一報しておいた。

2020.8.12(水)

岸さんとzoomで打ち合わせ。いま200人くらいまで絞れているのだが、ここからはけっこうギリギリのところ。「しぼりきった雑巾をさらにしぼる」とは岸さんの言い方だが、ほんとうにそう。もう一滴も出ませんというところまで来てる気がする。

おもしろいのは、岸さんから、こういうカバーにしたいとかそういう話題が出てくる。物体としての本を考えるところがちょっと編集者ぽい。A5判上製(角背で決まりだろうと思っている)1000ページは未知の領域。

筑摩書房はかつて「全集の筑摩」と呼ばれることもあったそう。なかには1巻が1000ページを超えるものもある。会社の倉庫や書棚に置いてあるが、見ていると居ずまいを正されるような気持ちがする。

2020.08.20(木)

終わった! 長かった選考もようやくこれでひと段落。当初の「上限100人」という前提をなしにして、150人の方に聞き手をお願いすることになった(結果的には、抽選にせざるをえなかった)。そのぶん一人ひとりの文字数の上限が厳しくなることになるが、これはもう仕方ない。ちなみに、ブルデューの『世界の悲惨』には52人、ターケルの『死について!』には63人、『仕事(ワーキング)!』には133人の語り手が出てくる。

選考はほんとうにたいへんだったが、岸さんもしんどそうだった。「書いてあるのは、人生やからな」と何度も何度も言っていた。

説明会の日程も決めた。来週、応募者の方に結果を通知する。おおまかなスケジュールや、説明会までに用意するものなど打ち合わせて終了。今日は休肝日にしようと思っていたが、解放感があって思わず飲んでしまった。

2020.08.24(月)

応募者へ送るメール文面のチェック。社内の校閲のひとにも頼んで、見てもらう。あとはひたすらメール。丁寧にお返事をくださる方も多く、ありがたい。

2020.08.25(火)

午前中、昨日間に合わなかった方にメールをお送りして、ひとまずおしまい。日誌をまとめていて、「選考会を3回やりました」と応募者の方へのメールに書いたのが間違いだったとわかった。選考会は計4回だった。

宣伝の濱中さんに頼んで、選考終了の告知。すると、そのあと取材の打診があった。今後どういうふうに対応すればいいかも含めて相談。

9月
2020.09.01(火)

取材の依頼、一件。先週に濱中さんの流してくれたリリースが効いている。多分、応募者の数や概要もすこしずつわかってきたのがよかったのだと思う。

一日在宅で、岸さんと今週末に控えた説明会の打ち合わせを細々とする。語り手に書いてもらう承諾書など用意する書類や、研修の日取り、実際にフローチャートのたたきだいを見てもらいつつ、必要なものを確認。やること多い。

2020.09.02(水)

昼過ぎ、週末の説明会のリマインド。なんだかんだ100人くらい参加できそうで、ホッとする。曜日や時間の設定がすごくむずかしい。研修日も同じように2回設けるつもりだが、なるべく全員が参加できるといい。本当は実際に顔を合わせて飲み食いする機会でもあればよかったのだが。

朝日新聞の夕刊に小さく紹介記事が出ていた。ありがたい。「インタビュー集は2021年に筑摩書房から刊行される予定だ。」こういうふうに書かれると、緊張する。まだ出てない本の記事はけっこう珍しい。単行本はしょっちゅう刊行が遅れるので、きちっとスケジュールを切らないといけない。外堀はだいぶ埋まった。

トントン進んでいく感じを出したい。だれないというか、スッと出た感じ。それで売り上げも変わってくると思う。難航しまくって、2022年ではたぶんダメな気がしている。

2020.09.06(日)

今日は午後から説明会。なかなか緊張している。

15分くらい前に岸さんのzoomの会議室に入ると、すでに待機されている方も。雑談しつつ、最終確認。岸さん、最後の最後までスライドを直してくださった。連絡事項も多いので、何を言わないといけないのかがけっこう漏れる。

120人超の参加があり、回線が重たくなるので岸さんと自分以外はみんなミュートで画面なし。印税や原稿料の部分はちょっと緊張したが、とくに問い合わせもないので、ひとまず納得いただいたと考えることにする。zoomの機能でリアクションができるらしく、みんな拍手したりとなんだかんだ盛り上がる感じ。岸さんは、真剣かつ軽妙に話していく。

スライドは1時間くらいで終わり、あとは質疑応答。ひっきりなしに質問が出てくるので、それにひとつひとつ答えていく。初版部数の想定は?と聞かれて笑った。まあ、それは気になるところだろうし、こちらとしても、この部数と値段で成立するのかどこかで怖い部分は残っている。いまの数字を正直に答えたが、これはもう聞き手の方のがんばり次第というところもある。

SNSに書いてもいいですか?という質問もあり、みなさん気を遣っていたんだなと思った。もちろん大歓迎なので、プライバシーとかに気をつけつつどんどん書いていただきたい。終わると、たくさんの方がツイッターなどに「東京の生活史」のことを書いていた。

語り手の選定に関わる質問や、実作業についての質問も多かった。詳しくは研修で、と思うが、個別に対応したほうがいいことも多そうなので、とにかく困ったら相談とだけ伝えた。

ほぼ2時間で終わり。zoomを落とすと、どっと疲れた。たぶん岸さんはこの10倍くらい疲れたと思う。ありがとうございました。

2020.09.10(木)

制作の平井さんと進め方について話す。印刷所に五月雨で入稿していくのは現実的でないということで、DTPをこちらでやることになった。

今回の装丁は鈴木成一さんにお願いする予定だが、果たして流し込みや赤字の反映までやってくれるかどうか。実際、ゲラにする前にテキストのチェックはするので、ほとんどゲラの赤字はなさそうではある。

となると、当初考えていた予算も変わってくる。平井さんに聞くと、なんとか吸収できると思うとのこと。まあ、印刷所の作業分がデザイナーさんに行くので、そのぶん払うだけなのだが、それぞれ相場感はあるので、あとは調整。

2020.09.11(金)

今週は、取材の依頼が2件。関連した打ち合わせが1件。そろそろ、プロジェクトの紹介ではなく、刊行のタイミングで宣伝になるものをじっくりつくるようなかたちに持っていきたい。説明会の録画などお渡ししつつ、今後の相談をいくつか。

先行して、編集前のインタビュー原稿が一本届いた。プロジェクト告知の前に行われた常連の眼鏡屋さんの店主へのインタビューで、読んでみると、これがおもしろい。「人生だなあ」という月並みな感想しか出てこないが、そういう感慨にも似た一言以外、なかなかパッと出てこない。温かいお風呂に入ったときに「ああー」と言うのと多分ちょっと似ている。

来週には、取材希望の方との打ち合わせがある。ここがけっこう頭を悩ますところで、どのインタビューにカメラを入れるのか、この調整が難しくなると思う。そもそも聞き手のひとを直接には知らないので情報もすくないし、それぞれの立場からの思惑もあるから、なかなかすんなりとはいかないかもしれない。とはいえ、研修を終えたらすぐにもインタビューを、という方もいる。あまりぼんやりしてる時間はないのだが。

2020.09.14(月)

金曜からなるべくメールを見ないようにしていたが、案の定、けっこうな問い合わせが来ている。岸さんとも共有したほうがいいものは別途メモしつつ、こちらで答えられるものには返事をしていく。研修の出欠チェック、岸さんと10分ほど取材対応など相談。見ていると、語り手の選定で迷ってる方が多い。全体のバランスを気にしてくださる方もいるが、そこは別に気にしなくても大丈夫。

夕方、宣伝課の二人、尾竹さんと濱中さんと打ち合わせ。ひとまず素材は残せるだけ残しておくことになった。たとえばiPhoneだか携帯のカメラを置いて、インタビューの動画を撮影しておいてもらうとか(もちろん、聞き手と語り手の同意が前提)。150人全員というわけにはいかないだろうが、それでもものすごい量のデータになる。どうやって使うかはひとまず置いといて、とにかく記録に残しておかないと残るものも残らない。

最後はマンパワーと言いたいところだが、マンパワーも足りない。困った。趣意書というか企画概要を説明した書類もつくらないといけない。どうにかうまく仕事を振れないか考えるが、全体を把握してる人間は絶対に必要なので、あとは個別のことになる。濱中さんに、宣伝関係のものは振って、あとはなんだ。

2020.09.16(水)

取材希望の方と打ち合わせ。

双方の希望など簡単に確認したあと、岸さんにもzoomで参加してもらう。岸さん、しゃべるしゃべる。しゃべっていくうちにアイデアが出てきて、まだ調整しないといけないことも多いが、期待したい。

2020.09.17(木)

翌週に控えた研修に向けての打ち合わせ。資料は岸さんのほうで用意してくださるので、細かい伝達事項や配布する書類、メディアの対応の仕方など確認する。

話していて、やっぱり自分の考えは編集者的なんだなと思った。たとえば、いま締め切りは3月末としているのだが、そこにいっぺんに原稿がくると非常に困る。岸さんは、原稿もらったうえで自分のペースで入稿していけばええやんと言うが、どうも自分は、手を触れていない原稿があることに耐えられない。これは、とにかく原稿を編集者のもとでとめないという、前職で教わったことが染みついているのだと思う。ただ、DTPのひと、校閲などほかの作業を考えるといっぺんにはきついので、無理を言って、二段階の締め切りを設けることにさせてもらった。

それと、それぞれの聞き手による編集の問題も気がかりだ。2時間もインタビューすれば、単純に文字に起こして4万字前後の原稿ができあがる。それを8500字にするというのは、けっこう大変なんじゃないかと思う。残すべき箇所の8割くらいは、だいたいのひとが見れば共通してわかるとは思う(これはこれですごい不思議)。残りの2割とか、ディテールの残しかたにそのひとのセンスがおそらく出る。とはいえ、8割自分で編集できたらいいほうで、経験のない人間が4万字の原稿を目にしたとき、どうやって編集していいのかわからないとなるのが普通なんじゃないか、とも思う。

とにかく心配ばかりしていて、自分の小心が恨めしい。岸さんは慣れてるのか、段取りしたら、あとはその場のアドリブやでという。そうもいかないから、こうなっているのだが。

2020.09.22(火)

第1回の研修。

直前に、岸さんと資料の確認。配布資料はとても充実していて、これだけでお金がとれる(実際、朝カルで講義したりしてるので、とってる)。締め切りの問題をどうしたものか考えていたが、調査計画書の提出から3カ月後とすればいいと思いついた。岸さんに提案してみるが、だいたい年度末でいいのでは、とのことで、このへんは編集者ならではの心配なのかもしれない。録画の問題も、どうしたものか。インタビューを記録する媒体は、多ければ多いほどいい(あとになって宣伝に使えたりする)。できそうなひとには、無理のない範囲でお願いしてみる、というのが落とし所だと思うが。

研修は、途中で休憩をはさみつつ、3時間の長丁場になった。締切についての説明で、すこしだけ話をさせてもらった。自分だけでなくDTPや校閲などの作業を考えると、とにかく提出を分散してもらうのがありがたい。

質問を募ると、たくさん具体的な質問が出てくる。研修の内容を先取りした鋭いものから(差別表現の扱いについて)、そこは気がつかなかったというものまで(虚言癖があるひとのインタビューの可否について)。岸さんは、質問ひとつひとつをおもしろがりつつ、考えながら丁寧に回答されていた。差別表現は、出版とも直結する問題で簡単ではない。単純にある言葉を禁止するのがいいわけがないが、その言葉の使われている文脈や歴史などを知らずになんでもかんでもありにするのもまたちがうと思う。原稿を読んで、そのたびに判断していくしかない。

積極的に質問が出るなか、質問しにくいことや、何を質問していいかわからないひとも一定数いるのでは、とも思う(とくに、いま自分が未経験の立場だとして、今回のような聞きとりをできるか大いに不安がある)。実際、問い合わせのメールなどはけっこう届いているし、実際に進めていくなかで不安になったりわからなくなったりすることもあるかもしれない。と考えていて、たとえば毎週何曜だかの20時〜22時くらいに、zoomを立ち上げっぱなしにしておいて、「相談室」的なものをもうけてもいいかもと閃いた。1週間に2時間であればたいした負担ではないし、むしろトラブルを未然に防ぐという意味で有効かもしれない。そこまでサポートする必要はないとも思うが、やはりそれぞれの原稿がよくなるよう動きたくなるし、詰まるところ150人全員が著者でもある。

2020.09.23(水)

さっそく調査計画書が数通届く。どれも、おもしろそう。これを見ると、いよいよ始まるんだなという感じがして、胸が躍る。

2020.09.25(金)

今朝は、「渋谷でラジオ」の「渋谷で読書会」という番組にお呼ばれ。赤坂にある本屋「双子のライオン堂」の竹田信弥さんがパーソナリティをつとめるラジオで、柏書房の竹田純さんからご紹介いただいた。

「東京の生活史」の話題を振ってくださったので、これまでの経緯やおもしろいところなどを話す。何月から始まったのか一瞬忘れる。つい最近はじまった気もするし、ずっとやっている気もする。お二人の反応がうれしい。zoomということもあり、家で友人と話してる気持ちだった。楽しかったです、また呼んでください。

そのあと雨のなか会社へ。問い合わせのメールも何通か届いていた。実際にアポをとる段になって、いろいろと困っていたりするようだ。やっぱり相談室やってみようか。

インタビュー終わりました、と報告のメールがあった。動画も撮れたようで、スクリーンショットを送ってくれた。なんだかとてもいい写真で、うれしくなる。

鈴木成一デザイン室で『東京の生活史』の装丁に関して打ち合わせ。岸さんのご指名でもあるが、自分としても、この企画をお願いするなら鈴木さん以外考えられないなと思っていた。鈴木さんは、『断片的なものの社会学』のデザインもされている。

鈴木さん、この企画に興味津々らしく、前のめりで話を聞いてくださった。概要を説明しているそばから、「すげえな」「究極のノンフィクションだな」と感嘆の連発。流石にちょっと照れてくる。タイトルのつけかたやリードの有無など決まってないことも多いので、フォーマット(本文のレイアウト)を2、3種類組んで見せてもらうことになった。ちょっと余裕をみて、10月中に決められればいいかなというスケジュール。「8500字×150人で、だいたい130万字の本です。2段組で、『大江健三郎全集』より詰め込んでください」と伝えると、苦笑いされていた。

ここから本題というか、進行の仕方をいろいろと検討した結果、全組みをお願いできませんかと聞いてみる。1000ページ全組みとは何考えてんだという感じだが(実際、最初にお伝えしたときのあんぐりした表情は忘れがたい)、印刷所との出し入れの事情や、語り手の確認が済んだものを入稿するので赤字はほとんど入らない(と予想しているし、そうならないようにしないといけない)ことをお伝えする。

謝礼なんですが…と口ごもると、グッと鈴木さんの目つきが鋭くなるので、ああどうしよう、予定した金額の上限を先に言ってしまおうかちょっとだけ値切ろうか一瞬考えて、めんどくさいので○○万で予算いっぱいなんですが…と言ってみる。「筑摩史上最高額の謝礼だな」と皮肉が返ってくるが、ひとまず受けていただけた。これですこし気が楽になった。1000ページなら100ページごとに見開きで写真を入れるかというアイデアも出て、岸さんに撮っていただくのがいいということに。写真、ぜひ入れたい。

2020.09.28(月)

今日は2回目の研修。前回と、参加者は同じで70人くらい。内容的にはだいたい同じだが、やはり質問が具体的でおもしろい。「依頼の際インタビューの時間を何分くらいと伝えるか」「トイレに立つタイミングは?」「いつICレコーダーを机の上に置くか」など。

読者は聞き手に感情移入して読んでいるという話は、前回していなかったと思う。言われてみればたしかにそうで、聞き手の台詞がつらつらあると、どこか萎えてしまう。聞き手の立場を追体験しているのが、邪魔されている感じがするのかもしれない。

各回ともちょうど3時間の長丁場、これで研修はおしまい。これからは実際のインタビューがそれぞれはじまることになる。やっていくなかで、困って、相談したいと思うこともあるかもしれない。先の日誌に書いた「相談室」についてご相談すると岸さんも乗り気で、隔週くらいの頻度で相談室を開くことになった。

10月
2020.10.05(月)

相談室、初回。参加者は10名弱で、思ったより少なめ。そのぶん一人ひとりの相談に丁寧にこたえることができたので、結果的には良かった。

岸さんの「そういうひとだったら、こういうことを聞いたほうがいい」という返答が具体的で、聞いてるひともうなずいていた。あとは、地味に「この語り手に連絡とるにはどうしたらいいか」の話もおもしろかった。

2020.10.14(水)

午前中、メディアの方と電話で打ち合わせ。社内での企画の進捗を聞く。大きい会社となると、企画決定ひとつとってもなかなか大変そうだ。番組以外での展開の仕方についても企画に盛り込みたいとのことで、こちらからもアイデアを出しつつ、30分ほど話した。

すこし整理できた。使い方は慎重にならないといけないが、こちらの手持ちの材料は、インタビュー原稿と音声、そして(撮れれば)動画の3つ。聞き手の方が揃えてくれる。これをどういうふうに活かしていくか。それとは別に、こちらが動いて何をつくるか。

鈴木さんの事務所のスタッフから、本文レイアウト(フォーマット)が届く。本文の級数が12Qのものと、11.8Qのものの2種類。後者はだいぶギリギリで、ルビを振ることを考えるとあまり現実的ではないと書かれていた。

早速プリントアウトして確認。この瞬間がわりと好きで、画面で見ているものと打ち出したものとで、印象は変わる。どちらもきれいで惚れ惚れする。鈴木さんの本文組みはとても端正。

8000字だとこれくらい、1万字だとこれくらいと目安もついたので、あらためて全体のページ数を検討。1000ページを基本と考えると、一人1万字でもなんとかなりそう。岸さんに、その旨も含めて、レイアウトを送る。懸案のリード部分だが、ちょっとまだ決めかねている。名前、年齢、出生地(あるいは育った場所)くらいあるといいとは思うが。潔くなくしたほうが、徹底した感じになるのはわかっているのだが、読み手への負担が大きくなるような気もする。

2020.10.20(火)

在宅。調査計画、30通ほどになった。「これからインタビューです!」とか「明日、決まりました!」と言いつつ、計画を送ってくる方が多くて、ちょっと笑ってしまう。多分、自分もそのタイプだ。

濱中さんから日誌の締め切りについてリマインドがあって、今月あんまり書いてないことに気づく。

2020.10.24(土)

夜は、『地元を生きる』(ナカニシヤ出版刊)の刊行記念トークを、オンラインで視聴。岸政彦さん、上原健太郎さん、打越正行さん、上間陽子さん。この4人が揃っているところを見るのは初めてで、おもしろかった。ぜんぜん時間が足りない感じ。「東京の生活史」の話題にも、チラッと触れてくださった(主に、リードをどうするかで)。もはやネタになりつつある。

2020.10.26(月)

週末、5通ほど調査計画が送られてくる。月曜の朝は、だいたいそれのお返事にあてている。

一件、4万字ほどのテープ起こしの原稿が送られてきたのでざっと読む。帰国子女の教え子さんに話をうかがっていて、なかなかおもしろい。この、「おもしろい」という感覚は、いったいなんだろうなと、毎回考えてしまう。

調査計画は、現時点で35。今月初めのメールで10月中に50届けばうれしいと書いたが、果たして。

11月
2020.11.13(金)

メディアの方から、進捗の報告。これはひょっとすると、いいかもしれない。

2020.11.16(月)

定例の月一相談会。前回より盛況で、30人ほどの参加があった。

ざっと質問事項のメモをとった。

「写真を見ながら喋るのは、どうか?」「外国の方に話を聞いたとき、どう文字起こしすればいいか? 相手の言語を残してもいいか」「インタビューが2回に渡った場合、どう編集すればいいか」「1回目に聞くこと、2回目に聞くこと」「聞きとりの場所の設定の仕方」「終わりのタイミングの見極め方法」

質問が具体的でおもしろい。聞き手それぞれが考えながら聞きとりを進めていて、このプロセスじたいにおもしろさのあるプロジェクトなんだなと思う。

調査計画もまあまあ順調で、相談会のあとに何通か届いた。質問も出ていたから、みんな、書き方がわからないのかもしれない。とくに決まったものがあるわけでもないのだが。

2020.11.18(水)

社の版権担当者と簡単に打ち合わせ。エージェントに売り込んで、海外翻訳の道筋を探ってみることにした。印象としては、海外の方にもわかりやすく、関心を惹きそう。

2020.11.20(金)

代官山蔦屋での『地元を生きる』『海をあげる』刊行記念イベント、おもしろかった。人文系のイベントとしては参加者が過去最多とのことで、注目の高さがうかがえる。簡単にメモをとった。

加害と被害の話を同時に書けないと上間さんが言っていて、それについて岸さんが「同時に書けないのが、社会」と返していた。これはすごく大事な話をしていると思う。自分の頭ではまだうまく理解できていないが、「東京の生活史」でも、ここはポイントになってくると感じる。同時に書けないものを、なんとかちがうかたちで書こうとしているのかもしれない。わからない。

またまた岸さんだが、「定型的な語りの個性」もおもしろい話だと思った。生活史の原稿を読んでいて思うが、ひとつの「あるある話」が展開されている側面がある。たとえば地方から集団就職で東京に出てきて〜みたいな。それじたいは「定型的」とも言える内容を含んでいるが、その語りはやっぱりそのひとそのものだなという感触を持っている。ノンフィクションを読んでいて取材対象者の顔が浮かんでこないなというときがあるが、そういうときは本当に「定型的な語り」として書いてしまっているんだろう。語りの実在が疑われるとき、それは定型化する?

調査の楽しさをみんなで話しているのも印象的だった。「みんな、面白くてこれしかできないから、調査してる」

インタビューを終えた聞き手の方からは、その経験の楽しさや新鮮さが、ちょっとした興奮とともに伝えられることも多い。やっぱり、おもしろいんだなと思う。

2020.11.27(金)

今日は夜に信田さよ子さん+上間陽子さんの『海をあげる』刊行記念トークイベントがある。初顔合わせだが、果たして。申し込みは300人を超えたみたいで、うれしい。

そのまえに、青山ブックセンターの控室を借りて、岸さん、メディアの方と打ち合わせ。企画が正式に通る算段がついたとのことで、今後の進め方などを確認する。放送のタイミングから本の発売日もほぼ決めた。オリンピックの時期には書店に関連書籍があふれると思うが、『東京の生活史』に匹敵するものはそうそうないはずなので、気にしないことにする。

12月
2020.12.03(木)

調査計画は、70くらい。宣伝課から、聞き手のインタビューをしてみたいという打診があったので、ちょっと相談。かかる時間との相談になるが、インタビューをしてみてどうだったか、なんでこのプロジェクトに応募してきたのかなど、本の背景が聞ければおもしろいと思う。

2020.12.04(金)

発売日もだいたい決めたので、制作部に進行表を切ってもらう。1000ページ超えるとなると、製本の時間がふだんより多くかかるんじゃないかと思うが、どうだろう(通常の倍の日数とってあるそう)。

逆算して、ちょっと焦った。いま半分くらい調査計画が出ていて、ということはあと半分くらい出ていない。年明けから実査はじめたとして、3月末の提出までけっこう時間ないよ!

2020.12.13(日)

今日は相談会。その前に、岸さんと共有事項について話す。おもに、メディアの取材状況と、リードについて。「リードなんですが、なくてもいいと思っています」と言うと、親指立ててグーっとやっている。岸さん、説得する気満々だったらしく(ずっと揉めていた)、箇条書きで、なぜリードが必要ないかを書いてくださっていた。お手間をおかけしてしまった。

基本的にはつけたほうがいいと思っていたが、何本か提出原稿がそろってきて、タイトルは語り手の台詞を抜き出してくるかたちなのだが、それだけでも十分差があって、リードなしでもいけるなと考えをあらためた。

相談会も35人くらいと盛況。もう常連となった顔ぶれもある。「(笑)とするかしないかの基準は?」という質問がおもしろかった。岸さんの回答は、「声出して笑ったら」というものだった。こういうディテールはセンスでやってるように見えて、なんだかんだ技術としても共有できることが多いと思う。具体的な質問は、無意識にやっていることを言語化してることがある。あと、その場で画面を共有して岸さんが原稿を直すという、ライブ・エディティングみたいなこともやっていた。「ここの聞き手の質問は削れるわ」「こことここはつなげちゃっても意味は変わらん」すごい早さで作業している。が、地味だ。

2020.12.15(火)

年末に向けて、調査計画や第1次原稿の提出が増えている感じがする(木金とお休みをとったので、メールを開いてなかったのも大きい)。ということで、ぜんぜん間に合ってないなりに、返事を書いていく。

第1次、気合の入ったものだと複数回のインタビューもあって、字数にして4万超えるものもざら。読むこちらも、実はけっこうたいへん。

2020.12.21(月)

調査計画、もうすぐ90。昼、参加しているライターさんと別件で打ち合わせもかねてごはん。調査計画出してくださいねと言うと、インタビューの前に出すんでしたっけ?と言うので、これはわりと共有されてないかもなと思う。年末にもう一度、進行の仕方についてメールを出しておいたほうがいいかもしれない。

2020.12.22(火)

鈴木成一デザイン室のスタッフさんに、原稿を4本入稿した。読むのが楽しみです、とお返事があってうれしい。おもしろいですよ!

2021年1月
2021.01.05(火)

仕事はじめ。今年はいよいよ刊行の年になるが、年末からコロナでなかなか不穏な幕開け。実際の聞きとりにも影響が出てきている。

年末年始は会社のメールを見てなかったので、お返事だけで1日かかってしまったが、まだ終わってない。調査計画の提出もまあまあ順調。第一次原稿の提出も多い。ベタ起こしに近いものだが、十分おもしろい。

ゲラも動かしはじめた。どうやったらうまく管理できるか。ひとまずは鈴木さんのところのスタッフさんとGoogleのシートを共有して、入稿から校了まで、それぞれのゲラの進捗を記録するようにした。

2021.01.07(木)

緊急事態宣言。スケジュール、ずらしたくないが……。

2021.01.12(火)

ようやく、調査計画が100に。なかなか壮観。週末にメールがどさどさ来ていて、細かな相談から調査計画、入稿原稿までさまざま。読んでいくと、やはりおもしろい。ここでしか聞き取られなかった話がある気がする。

2021.01.13(水)

メディアの方と打ち合わせ。番組の構成の方向についての相談だった。

テレビの場合、聞きたいことを聞くに行くというのが一般的だが(戦争を体験したひとに戦争の話を聞きに行くとか)、今回の生活史の場合、いわば逆をやっている(人生について聞く)。なので、番組のつくり方も、生活史のスタイルに沿っていくのがいいんじゃないかというお話だった。なかなか挑戦的だと思うが、どうなるんだろう。

2021.01.15(金)

相談会、延期。岸さんの姪っ子の卒業公演とかぶってしまったそうだ。人生には、大事なものがたくさんある。

2021.01.16(土)

相談会、新年一発目。40人弱の参加で、なかなか盛況。その前に、今後の撮影の仕方について、岸さん、メディアの方と打ち合わせ。

質問を聞くに、みなさんほとんどが編集の仕方で迷っている様子。そういうことまで考えつかなかったなあという質問もあり、おもしろい。ふだん言語化せずにやっていることが実際どういうことなのか、相手に説明するためにはあるていど自分でもわかっていないといけない。

2021.01.19(火)

参加できなかったひと向けに、相談会の動画をアップロード。地味に時間がかかる。アーカイブを残すことがすっかり習慣化しつつあるが、以前ある本屋さんでイベントがあったとき、アーカイブの配信には慎重だというお考えを聞いた。それにより、実際の場に足を運ぶ機会が失われてしまうのではないか、という危惧があるということで、それにはなかなか納得させられた。それぞれ事情はあるから仕方ない部分があるとはいえ、一度それが習慣化されてしまうとなかなか引き返せなくもなるので、なるべくなら同じ時間同じ場所を共有するほうを大事にしたいと思う。

午前中、静かな編集部で原稿整理をして、2本入稿。眼鏡屋さんと保育士さんの語り。どちらもおもしろい。それぞれ、聞き手と語り手の関係性が見えてくるのもいいなあと思った。こういうとき、仕事が楽しい。

2021.01.20(水)

校閲のひととお昼。生活史の原稿を見てくれている。

「読んでくるうちに、そのひとが浮かび上がってくる感じが楽しい」と言っていた。あー!と思った。どういうことかというと、こちらは調査計画で、聞き手がどういう語り手に話を聞いているかの前情報が入っている。性別とか年齢とか職業とか。なので、厳密にはまっさらな状態で原稿を読んでいるわけではない。

対して、校閲やこれを買って読んでくれる読者は、そういうものがない状態で読むことになるから、いくつくらいのひとかなとか、何の仕事だろうとか、想像しつつ読むことになる。これはけっこう読んでいる感覚としてちがうんじゃないか。いまさら気づいたの、という感じだが、いまさら気づいた。

2021.01.22(金)

岸さん、聞き手の方と3人でオンラインの打ち合わせ。いま第一稿があがってきている段階で、なかなかセンシティブな原稿の扱いについて話す。今後の編集の方針を共有できたのでよかった。

「いままで生活史やってきて、初めてのケースやわ」と、どこか岸さんもうれしそうだった。

2021.01.25(月)

宣伝の濱中さんからもうすぐ今月の日誌アップですよとリマインドが来て、焦った。思いついたときに書いているので、あー1週間くらい書いてなかったと後悔する。会社に出てれば、帰りの電車とか、決まったルーティンのなかで書けるかもしれないが、在宅だとそういう時間がなくて、うまくできない。

出社。机の上に「東京の生活史」のゲラが並んでいるが、「あれ、これどこまで確認済んでるっけ」とすこし混乱した。これまでの経験上、「あとでやろう」と思っていると、忘れてしまう。なので、いま出ているゲラにしても、原稿が来たら1日2日でデザイナーさんに送るようにしているのだが、出したゲラを校閲に回し、聞き手に回し、赤字を統合してデザイナーさんに戻し、赤字が直ったのを確認して岸さんに送り、という一連のプロセスが各原稿単位で動いているので、しっちゃかめっちゃかになりつつある。

ちまちました話になるが、いまゲラは、デザイナーさんに組んでもらったPDFをB4横原寸で出力している(B4サイズのゲラがいちばんゲラを読んでる感覚がある。文庫や新書はA4でゲラが出てくるので、気分的にだいぶちがう)。右上に初校の「初」の字を書いて四角で囲って、その下に聞き手の確認が済んだら「聞」の字、編集部の確認が済んだら柴山の「し」の字を書いて、デザイナーさんに戻す。初校を戻したら、クリップを外して右上をホッチキスでとめる。赤字の反映が済んで再校が出たら、右上に再校の「再」の字を書いて、赤字の突き合わせをしたものに「つ」と書いておく。で、それが混在して机の上に重ねられていたので、朝からちょっとパニックになった。まあ、重ねたのは自分なんだが。

お昼休みにバーっと書いたら、ほんとにどうでもいいことを書いてしまった。

2021.01.30(土)

相談会。30人くらい。14000字くらいの原稿がどうしても削れないということで、実際に岸さんが目の前で削るライブエディティング。

以下、メモ。

「一般論を言ってるところは削る」→「太平洋戦争っていうのはね〜」みたいなこと。男性に多い傾向。ただ、単純に削っていいのか悩ましいとも。

「日本語と外国語がまじったインタビューについて」→おもしろかった。基本は翻訳するが、その言い方を残したいところは残す。

2021年2月
2021.02.01(月)

朝、思い立って調査計画未提出の方を洗い出し、個別にメール。選考通過以降、メールのやりとりがないひともちらほらいて、若干心配だが、みんないい大人なので、きっとちゃんとやってくれるだろうと信じるほかない。

2021.02.03(水)

調査計画、ドドッと届く。なかには、すでに実査を終えて、提出忘れていましたという方もちらほら。調査計画の提出じたいはそれほど重要ではなく、事故防止というか、不安材料がこの段階であるなら解決するべく話すためのもの、という位置づけだと思う。

2021.02.08(月)

調査計画が出ていないのが、事情を聞いてるひとをのぞけば8名ほど。ううん。

2021.02.12(金)

相談会、30人くらい。

質問の具体的な仕方について、けっこうつっこんだ話をしている。自分のインタビューが不十分だと思った、ということをどう考えるか。聞くべきことが聞けてない、という感覚。あるあるだと思う。

以下、相談会を聞きながら書いていたメモ(の一部)。

「固有名の処理の仕方は3つ。隠す、変える、ずらす。」→地味に役立つ話。「渋谷で育って〜」であれば「〇〇で育って〜」か「松戸で育って〜」(元の文脈と切り離す)か「新宿で育って〜」(元の文脈、この場合は繁華街、を活かす)というかんじかな。

2021.02.16(火)

岸さんからメッセンジャー。「原稿読んでた。めちゃめちゃ素晴らしい」ですよね!

聞き手のチェックを終えたゲラは、赤字を反映して再校を出し、岸さんに送っている。いま20本超えるくらい。

生活史でお酒飲めると以前岸さんが言っていた。ちょっとわかる。一本一本、良さを話したくなる。

2021.02.18(木)

岸さんから、「これで20本」になったとメール。まあまあ順調、なのかな。

読んでいると、得体のしれないおもしろさのようなものがあって、それがどういうものなのか岸さんがメールに書かれていた。なるほどなあと納得。

「全体として、あの下町の小さい本屋さんの、84歳ぐらいのおばあちゃんの話とかもそうだけど、

・話が途中で始まって途中で終わってる

・語り手の属性がよくわからない

・聞き手との関係性もよくわからない

・語り手の人生の「コース」もよくわからない

から、なんていうか不思議なことに、

・読めば読むほど「ここに書いてないことのほうが多いんだな」っていうことが伝わってくる

という、不思議なテクストの集合だよね。

非常に不思議なことをやっていて、大量の言葉を投入しながらも、結果的には「ここに書いていないこと」のほうがはるかに膨大であるということをメタレベルで伝える、という本になってます」

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『東京の生活史』プロジェクト事務局
柴山浩紀(筑摩書房編集部)
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