とりつくしま 発刊記念対談 穂村弘+東直子 あなたはなにを、とりつくしまにしますか?

──お二人に、書店員さんたちのアンケートの中から印象に残った「とりつくしま」を選んでいただきました。

劇場の舞台 芝居が好きだから。成功を挫折を熱狂を静寂を喜びや悔しさ、充実を客席でなく同じ場所で感じたい。すごい芝居って脚本家の本を照明や音楽や役者の身体を使って、客席まで巻きこんで初めて成立する、同じもののふたつとない異空間だから快感だと思います。それに自分の応援している役者がちょい役からどんどんいい役になっていくのを見られたらすごく嬉しいだろうし(本音・煩悩の塊)。
(紀伊國屋書店 新宿本店 平野千恵子

京都タワー 家族、友人、知人の様子を見ることができるし、京都の全景を眺めて過せたら仙人気分を味わえるかなーと思いました。京都大好き京都府民なのです。滅多なことがない限り取り壊されることもないし。死んだあとの未練とかはまだ考えられないなー。未練を残さずに成仏したいもんです(笑)。
(三省堂書店 京都駅店 中澤めぐみ

大切な人たちにとっての今年の初雪 暗く寒い冬の日も、初雪の日だけはなぜか心が晴れるから。大切な人たちにとっての明るさを感じる存在として、少しの間だけまた一緒にいられたらそれでいいと思いました。愛着のあるものだと存在できる喜びはあるけど、存在し続けなければいけない苦しみもあると思うので、惜しい気もしますが遠慮しておきます。
(ブックファースト 梅田店 北林亜希子

冷蔵庫 家族をずっと眺めていたい。なによりもちび達の大好物が「牛乳」から「オレンジジュース」に、「コーラ」に変わっていく様子を見守ってゆきたい。今はスカスカの冷蔵庫だけど、ちび達の成長にあわせて食べ物をどっさり確保していく幸せったら父親の幸せと同じではないでしょうか。おいしくなる様に念じながら冷やします。早く大きくなれよと念じるのも忘れません。嫁のお買物リストも落としません。一生懸命に食べ物を抱え続けながら、夜はさみしくて「ヴーン」とうなりながら、家族をずっと見守っていきます。
(紀伊國屋書店 本町店 百々典孝

夫のメガネ ないと困るものだし、毎日使うから。いずれ余裕が出来たとき、よからぬものを見ようとしたら気合でレンズを粉砕。一瞬のうちに伊達メガネ化する。
(ジュンク堂書店 広島店 嘉屋由記子

竹竿 大気になりたい、というのは冗談として、わたしの場合だと竹竿でしょうか。うちのだんなは釣り好きで自分で切ってきた竹でお手製の竿を何本か持っています。ちぬ(黒鯛)の落とし込み用、あまご等の渓流用を手に仕事の合間で潮を見て出かける釣りを本当に楽しみにしています。釣った魚をもう一緒に食べることが出来なくなってもたまに一緒に釣りに行けたらいいかな。竹竿ならいつか朽ち果てるし、それがいいですね。
(紀伊國屋書店 広島店 藤井美樹

イラスト:後藤グミ

穂村弘(ほむら・ひろし)
1962年札幌市生まれ。歌人。歌集に『シンジケート』『ラインマーカーズ』『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』など。エッセイ集に『世界音痴』『現実入門』『にょっ記』『もしもし、運命の人ですか。』など。

東直子(ひがし・なおこ)
東直子さんのHP「直久」はこちら=http://www.ne.jp/asahi/tanka/naoq/

岡田里(おかた・さとの)
装画。岡田里さんのHPはこちら=http://www.h5.dion.ne.jp/~satono/