家(チベ)の歴史を書く 朴沙羅

朴沙羅<span>(ぱく・さら)</span>

「私の家族は、いつどうやって、なぜ日本に来たのだろう」「個人の人生を、どうしたら歴史として残せるのだろう」

語りの記録を歴史へと繋ぐ、10年越しの試み。家族への親愛と歴史への洞察に満ちた、ある家の記録。

ガルシア=マルケスが一族の歴史を書き表したくて『百年の孤独』を発明したように、朴沙羅は自らの一家の歴史を表すのに、独自の魅力的な言語を見出した。

── 星野智幸(小説家)

か細く小さな声で語られた、「歴史の中の人生」の、驚くべき物語。若き俊英による「生活史」の決定版。

── 岸政彦(社会学者)

家(チベ)の歴史を書く 朴沙羅

朴沙羅

家(チベ)の歴史を書く 朴沙羅

ブックデザイン 鈴木成一デザイン室
装画 平井利和
四六判/320頁/ISBN:978-4-480-81848-5
定価:本体1800円+税
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本書への反響

著者は、そのややこしい記録を、加工も最低限に、相槌や感嘆詞も残し、聞き手の「あとで悔やまれるような」質問も隠さず読者に提示している。私は、たまに重複や飛躍に足を取られて転んでしまったけれど、著者は絆創膏など用意せず、読者を走らせる。すると、いつしかこの軽い痛みのなかで体が軽くなり、整理され洗練された薄味の文章が物足りなくなってくる。歴史ってそんな簡単に整理できない、できなくて当たり前なのだ。
藤原辰史さん(京都大学人文科学研究所准教授、農業史)

一昨年に叔父が亡くなり、昨年は祖母が、今年に入って祖父が亡くなった。
たとえば叔父が駅前でかならずお土産に買ってきた偽ナボナのような菓子の味や、祖母がずっと使っていた『りぼん』の付録の一条ゆかりの缶ケースや、祖父が私の子に買い与えた変な声で鳴くウサギの玩具の手触りが、鮮明に頭をよぎることがある。

それらは無意味で瑣末でどうでもいい、人前でも歴史の上でも今後も語られることはない。語られなければそれらは存在しないのと同じことであり、当たり前にそこにあったものが、知らないうちに忘れられている。人がひとり生きて死ぬということの途方もなさに、私は幾度でも呆然とする。

同じように私、という存在について考えるとき、「存在」とは確かさを導くための言葉なのに、蓋をあけてみると「存在」を構成する要素があまりに不確かで愕然とする。
私を構成する要素とは、そのときどきの揺れうごく感情であり、触れた温かさの記憶である。それは目に見えず、手にとることもできない。私は私がここに存在するということを、曖昧でおぼろげな指でしかなぞることができない。

著者は済州島にルーツを持つ、在日コリアンである自分の家族のことを書こうとして、長いことうまくいかずに逡巡する。メインテーマである家族への聞き取りのみならず、「どうすれば家(チベ)の歴史が書けるのか」という逡巡の過程も見せながら、やがて自分なりの書き方を見つける。この開示された過程がめっぽう面白い。

記憶によって書くことが可能になる歴史がある、と私は信じている。

(「おわりに」297ページ)

という終盤の一行は鮮烈だった。

事実と回想は別個のものである。記憶はときに個人の物語になってしまう。
しかし、そこから導きだされるものもあると、著者はこの本で明らかにした。その場で語られないことや、その思い出し方が示す「歴史」があるかもしれない、という気づきは、私のいなくなった家族や自分の存在を考えるときの、あのあてのなさに意味を与えた。

この本に書かれた家(チベ)の歴史は私のものではないし、共通点もない。なのに、私はここに書かれた家族を、自分の家族と同じような近しさで読んだ。そして同時にまだ語られていない数多の家族と、数多の記憶のことを思った。この本をきっかけに、さまざまな家の記憶が意味を持ち、語られはじめるかもしれない。それもまた家の歴史となる。一冊の本の意味とは、その連なりのなかに生まれるものでもある。

大塚真祐子さん(三省堂書店 神保町本店)

著者
プロフィール

朴沙羅(ぱく・さら)

1984年生まれ。専攻は歴史社会学。立命館大学国際関係学部准教授を経て神戸大学大学院国際文化学研究科講師。単著に『外国人をつくりだす――戦後日本における「密航」と入国管理制度の運用』(ナカニシヤ出版)、編著に『最強の社会調査入門』(ナカニシヤ出版)、訳書にポルテッリ『オーラルヒストリーとは何か』(水声社)。