筑摩書房 創業70周年記念企画 筑摩選書

刊行開始! 一挙6点刊行

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刊行開始!一挙6点刊行


内田樹 武道的思考 狩野博幸 江戸絵画の不都合な真実
玄侑宗久 荘子と遊ぶ――禅的思考の源流 小谷野敦 現代文学論争
古澤満 不均衡進化論 リービ英雄 我的日本語――The World in Japanese

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■2010年12月3点刊行
■以降、2011年1月より毎月2点刊行

ご注文・お問い合わせは、筑摩書房サービスセンターにて承ります。
〒331-8507 さいたま市北区櫛引町2-604 (048(651)0053 FAX.048(666)4648

*造本・体裁 四六判・並製・カバー装
*組み方 〈13Q〉43字×18行(774字/頁)・〈13.5Q〉40字×16行(640字/頁)
*予定ページ数=250頁〜350頁 *価格帯=1300~1900円
*装丁=神田昇和 *アイコン・デザイン=川口澄子(水登舎)

創刊のことば

 いま、私たちはおびただしい情報に取り巻かれています。刺激に溢れる変化の時代、情報の多くは高速で通り過ぎて行きます。人びとは常に新しいものを求め、その傾向は日ごと加速されているようです。
 高速化・加速化の影響は、書籍の世界にも及んでいます。ここ数年のベストセラーを見ると、圧倒的に軽量性および実効性が歓迎されているようです。知識もまた、情報のように、高速で消費される時代なのかもしれません。
 しかし、高速化・加速化の時代こそ、立ち止まって考えることが切実に求められているのではないでしょうか。知識の断片は、自ら考えることを助けてはくれません。じっくり思考を深めるためには、知識の蓄積としての叡智が必要です。そして、それを提供することが、今も昔も書籍の役割なのではないか――。
 間口は狭くとも奥行きの深い総合的な知恵。現代と古典をきり結ぶ柔軟な知性。それを「選書」という古くて新しい器に盛りつけ、本そのものの力を信じている読者に届けたいと、筑摩書房は考えます。

 自分で考えるようになると、哲学の大切さに気づく。哲学とは、だれかがこういった、というようなことではない。要するに自分で考えることの根本なのである。
 自分で考えなくたって、生きるには困らない。世間の常識というのがあって、おおかたはそれに従っていればいい。でもあれこれ苦労しながら生きているうちに、考えることの大切さにだんだんと気づく。
 筑摩選書が、その役に立つはずである。だれかが考えたことを読んで、あれこれ思う。それが考える訓練になる。自分の思いがはっきりしてくる。そうなると、なんと生きるのが楽になる。哲学は頭が痛くなるだけのものではない。本当は生きることが軽やかになるものなのである。

 地球科学から漢方科学まで、ホッブスから吉本隆明まで、甲骨文字から前衛書道まで、テロリズムから鬱病まで。こういう話題や事件や思想を本格的に、かつ読みごたえのある本にするには、新書ではまにあわない。単行本では孤立してしまう。ぜひとも選書がほしい。
 かつて筑摩叢書という名シリーズがあった。ぼくは唐木順三を貪るように次々に読んだ。その読書体験はその本の姿そのままに、いまなおぼくの糧になっている。そういう選書にしてほしい。
 媚びを売らず、詫びを入れず、黴くさくなく。けれどもサビを効かし、ときにはラビのごとくに。

 たとえば、私の専門分野について言えば、こんな記述がどんな教科書にも書いてある。
「細胞の中には、ミトコンドリア、ゴルジ体などの細胞内小器官がある。」
 たった一行で終わってしまう科学的事実。しかし、この一行の内側には、今やまったく見えなくなってしまった時間の流れと軸が隠されている。この一行の裏側には、現在すっかり漂白されてしまった熱と切実さがひそんでいる。誰が、いつ、なぜそれをそんな名前で呼んだのか。ミトとは糸くずのような、という意味の術語である。あるいは、一〇〇年以上も前、イタリアの医学者カミッロ・ゴルジは、どうしてそれほどまで辛辣に論敵を攻撃し、自分の信念を守りぬくことができたのだろうか。私が、ほんとうに知りたかったのはそういうことだった。
 選書が選んでいるもの。それはおそらく著者である。自分が学んできたその気づきの時間軸を、穏やかな、しかし熱を帯びた言葉で語ることのできる、そんな著者を選書は選ぶ。
 選書が選んでいるもの。それはおそらく読者でもある。自分が学ぼうとしているそのことがらの時間軸を、平明な、しかし切実な言葉で知りたいと願う、そんな読者を選書は選ぶ。