写真:岸政彦

岸政彦監修 『東京の生活史』プロジェクトのお知らせ

2020年7月、
岸政彦さん監修によるプロジェクト『東京の生活史』をはじめます。

これは、東京にいるひと/いたひとの人生についての
大きなインタビュー集をつくるという企画で、
2021年の刊行をめざしています。

今後は、何かありましたらホームページでお知らせいたします。

どうぞ、楽しみにお待ちくだされば幸いです。

――筑摩書房編集部

 それまでも何度か東京には遊びに行っていましたが、18歳の受験のときにはじめてひとりで東京を訪れたときのことが忘れられません。どこだったか場所も忘れた、小さな安いビジネスホテルの部屋で、真夜中に窓を開けると、星空のような街の水平線に新宿の高層ビルの灯りがきらきらと瞬いていました。
 よく、東京にはリアリティがないとか、虚構の街だとか、記号の海だとか、そういう気取った言い方があります。でも、この歳になってもいまだに、東京を訪れるたびに感じるのは、その実在感です。ああ、東京タワーって、ほんとにあったんだ。新宿アルタって、ほんとにあるんだ。渋谷のスクランブル交差点って、実在するんだ。
 有名なところだけでなく、小さな商店街の一本裏の、小さな家やアパートが並ぶ路地も、たしかにそこに実在する東京です。
 記号やバーチャルではない、実在する東京。ほんとうにそこにある、ただの、普通の東京。
 もちろんその全貌を、一挙に理解することはできません。でも、私たちはすくなくとも、たまたま出会ったその小さな欠片を切り取って、手のひらの上に並べることはできます。

 『東京の生活史』いよいよ正式にスタートします。これは、私自身が監修し、一般から公募した「聞き手」によって集められた「東京出身のひと」「東京在住のひと」「東京にやってきたひと」などの膨大な生活史を、ただ並べるだけの本です。解説も、説明もありません。ただそこには、人びとの人生の語りがあるだけの本になります。目標は80人から100人、二段組でおよそ800から1000ページ(!)を予定しています。

 本書の趣旨・コンセプト・意義について、説明会と面談をおこないます(日程や形式は未定)。まずはお気軽に、下記事務局までご連絡ください。ご質問なども歓迎します。経費や印税などの実務的なことについてもご説明する予定です。
 説明会と面談のあと、インタビュー調査の理論・方法・倫理などについて、がっつり「研修」をおこないます(こちらも日程は未定です)。なお、制作上の都合で、応募された方全員にお願いできないかもしれませんが、どうかご理解ください。

 みなさまからのご応募、楽しみにお待ちしています。

岸政彦
募集要項
締切 2020年7月20日募集期間は終了しました
資格・所属などは一切問いません。

「真面目に、静かに、謙虚に、他者の語りに耳を傾けることができる方」を
募集します。
(事前に拙著『街の人生』を読んでおいていただけるとうれしいです)

プロジェクト責任者

岸政彦(きし・まさひこ)

1967年生まれ。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。社会学。専門は沖縄、生活史、社会調査方法論。主な著作に『同化と他者化──戦後沖縄の本土就職者たち』、『街の人生』、『断片的なものの社会学』(紀伊國屋じんぶん大賞2016受賞)、『質的社会調査の方法──他者の合理性の理解社会学』、『ビニール傘』(第156回芥川賞候補、第30回三島賞候補)、『はじめての沖縄』、『マンゴーと手榴弾』、『図書室』(第32回三島賞候補)など。

「東京の生活史」制作日誌

長期にわたるプロジェクト「東京の生活史」を始めるにあたって、
担当編集者による日々の制作日誌を公開します。

東京のひがしにある出版社で、1冊の本をつくるまでの記録です。
7月
2020.07.01(水)

コロナの影響もあり当初の予定からは遅れてしまったが、ようやくプロジェクトの告知日になった。調べてみると、会社に企画を通したのが昨年の12月で、半年以上時間が空いてしまったことになる。

昼過ぎ、会社のツイッターアカウントで正式な告知を出してもらう。早々に最初の応募メールが来て、すこしホッとする。

13時半からの会議のあとメールをチェックすると、応募が10通ほど届いていた。「え、なんでハンター試験にヒソカが……」的な驚きを覚える方からの応募もあった。

保育園の迎えがあるので早めに会社を出ないといけないのだが、それまでに、応募いただいた方にお礼と受け取りましたという連絡を入れておく。残りは明日。それぞれのメールに切迫感があって、ちょっと気圧される。

宣伝課が気を利かせて、リリースを打ってくれた。さっそくメディアからヒアリングの依頼。ありがたい。反響の大きさに、ちょっと高揚感があった。

2020.07.02(木)

起きると応募がたくさん来ていて、震えあがる。30通超えた。

今日は在宅勤務で、朝から応募者へお返事。同時並行で、エクセルの一覧にしていく。

語り手はこちらが用意するのではなく、聞き手自身が語り手を見つけてくる。この条件がちょっと伝わりにくかったということで、ホームページの修正、告知。

聞き手が具体的に「このひとに話を聞きたい」と思うとき、そこにはなにか知りたいことやそのひとを選んだ動機がある。自分でも、なんて当たり前のことをとすこし呆れてしまうが、応募のメールを読んでいて気がついた、新鮮な驚きだった。聞き手を公募することのおもしろさがすこしわかった気がする。

午後、電話でヒアリング。

2020.07.03(金)

怖くなってきたので、応募数を数えるのはいったんやめる。エゴサもなるべくやめる。ただ、このペースだと、100を超えるのはほぼ確実。

午前中、宣伝課の濱中さんと打ち合わせ。反響の大きさに二人で驚く。濱中さんは同期で、よく相談に乗ってくれる。

聞き手と語り手の関係のおもしろさや、今後の展開の仕方についてもざっと話をした。本づくりが長丁場になるので、制作日誌も公開しようという話に。とにかく、いまはこのプロジェクトに興味をもってもらうのがいちばん。

取材依頼が一件。ありがたい。

2020.07.06(月)

在宅。土日のあいだも、けっこうな数の応募があった。お返事して、エクセルにまとめていく。目次のイメージも、すこしずつ固めていかないといけない。

2020.07.07(火)

応募はすこし落ち着いてきた。濱中さんに昨日までに書いたぶんの日誌を見せて、反応を聞く。基本はこのまま書いていいということなので、書いていく。宣伝計画が宣伝課のボスに褒められたそうで、こちらもうれしい。

2020.07.10(金)

応募の数が100を超えた。今日が締切までの折り返し日なので、再度会社のツイッターで告知してもらう。

いただいた応募のメールを読んでいると、聞き手の方のお話もおもしろいなと思ってしまうことがよくある。これも不思議な話で、どうしてそのひとの人生が、その来歴やエピソードによっておもしろく見えてしまったりするんだろうか。人生がおもしろい、とはなんだろうか。

子どものころ聞いた「人生いろいろあるよ」は、なんて無責任な大人の言い方だろうと思っていた。でも、たしかにそういうことなのかもしれないとも思う。

2020.07.21(火)

20日締切ということで、週末から目に見えて応募数が増えている。最終日は、100通超えたんじゃないか。で、集計してみると、応募の総数は500弱になった。見込みが甘かった。

だれかの話を聞き取りたいと思っているひとが、こんなにたくさんいる。なんだか希望のもてる話だと思った。おもしろいことに、女性と思われる方からの応募が多い。感覚的には7:3くらいだろうか。こういうところにも、ジェンダーが表れているのかもしれない。

しかし、これどうするのと途方に暮れる気持ちもちょっとある。おもしろくなる手応えはあるのだが、どう落としこんでいけばいいのか。この本をつくるうえでいくつかのポイントがあるはずだが、人選が肝であるのはまちがいない。

考え出すと、けっこうおそろしい。ひとまず無心で、ひたすら受け取ったというお返事とエクセル入力。仮目次もつくってみる。

2020.07.27(月)

週末にBuzzFeedの記事が出た。企画がはじまってすぐに、こうしてとりあげていただけるのはありがたい。岸さんがいま東京で一番好きな街は「浜松町」。

応募者リストの整理が済み、仮目次もひとまずできた。ただ、詰めないといけないことも、山積みになっている。もともと考えていたスケジュールからずれこんできているが、近々岸さんと選考をはじめることにする。

2020.07.30(木)

今日は在宅で、午後から岸さんとzoomで打ち合わせと選考会。「柴山さん、肥えたな」と関西弁らしいあいさつ。「はい、ちょっと肥えました」。東京だと「太ったね」とか「丸くなった」という表現になってきついが、関西弁は嫌味なところがなくてうらやましい。これからの進め方、こまごま詰める必要があるところを確認して、いざ選考。

事前にお渡しした応募者のリストと仮目次をみながら、一人ずつ話をしていく。夕方まで、休憩をはさみつつの4時間で、zoomを落としたあとは頭がくらくらした。1/3も終わってない。しかし、へとへと。

選考の基準は、第一に「語り手が具体的で実現可能性があること」として決めていく。おもしろいのは岸さんとの意見がだいたい一致するところで、不思議な気もするし、そういうものだという気もする。もっとおもしろいのは意見がわかれたときで、これはもろに考え方が出る。

8月
2020.08.07(金)

今日は在宅で、夜から岸さんとzoomでまた選考会。岸さんお一人でも見てくださっていたそうだが、やはり二人で話しながら進めたほうがいい。

もう夜なので、岸さんはだいぶヘトヘト。そんななか、お付き合いくださった。

「柴山さん、カラオケとか行く?」

「あんまり行かないですね。なんでですか」

「いやあ、別に。疲れとんのかな」

疲れてると思います。カラオケ、ぜんぜん行ってない。明日また続きをやることにして解散。一気にやる。

2020.08.08(土)

すべての応募についての検討が一巡した段階で、予定の100人を大幅にオーバーして200人くらい。会社に提出した企画書を確認してみると、「(多くても)50人くらいか」と書いてあった。「くらいか」とはなんだと、ちょっと自分にムッとする。ぜんぜん読みちがえている。

予算など制作の都合を考えると、まだまだ絞りこむ必要がある。リストと仮目次をつくりなおして、もういちど頭から二人で見ていくことになった。

2020.08.10(月)

暫定のリストと仮目次が完成、岸さんへ。応募者の方に、選考に時間がかかっている旨一報しておいた。

2020.8.12(水)

岸さんとzoomで打ち合わせ。いま200人くらいまで絞れているのだが、ここからはけっこうギリギリのところ。「しぼりきった雑巾をさらにしぼる」とは岸さんの言い方だが、ほんとうにそう。もう一滴も出ませんというところまで来てる気がする。

おもしろいのは、岸さんから、こういうカバーにしたいとかそういう話題が出てくる。物体としての本を考えるところがちょっと編集者ぽい。A5判上製(角背で決まりだろうと思っている)1000ページは未知の領域。

筑摩書房はかつて「全集の筑摩」と呼ばれることもあったそう。なかには1巻が1000ページを超えるものもある。会社の倉庫や書棚に置いてあるが、見ていると居ずまいを正されるような気持ちがする。

2020.08.20(木)

終わった! 長かった選考もようやくこれでひと段落。当初の「上限100人」という前提をなしにして、150人の方に聞き手をお願いすることになった(結果的には、抽選にせざるをえなかった)。そのぶん一人ひとりの文字数の上限が厳しくなることになるが、これはもう仕方ない。ちなみに、ブルデューの『世界の悲惨』には52人、ターケルの『死について!』には63人、『仕事(ワーキング)!』には133人の語り手が出てくる。

選考はほんとうにたいへんだったが、岸さんもしんどそうだった。「書いてあるのは、人生やからな」と何度も何度も言っていた。

説明会の日程も決めた。来週、応募者の方に結果を通知する。おおまかなスケジュールや、説明会までに用意するものなど打ち合わせて終了。今日は休肝日にしようと思っていたが、解放感があって思わず飲んでしまった。

2020.08.24(月)

応募者へ送るメール文面のチェック。社内の校閲のひとにも頼んで、見てもらう。あとはひたすらメール。丁寧にお返事をくださる方も多く、ありがたい。

2020.08.25(火)

午前中、昨日間に合わなかった方にメールをお送りして、ひとまずおしまい。日誌をまとめていて、「選考会を3回やりました」と応募者の方へのメールに書いたのが間違いだったとわかった。選考会は計4回だった。

宣伝の濱中さんに頼んで、選考終了の告知。すると、そのあと取材の打診があった。今後どういうふうに対応すればいいかも含めて相談。

お知らせ

問い合わせ
『東京の生活史』プロジェクト事務局
柴山浩紀(筑摩書房編集部)
shibayamah@chikumashobo.co.jp
本件へのお問い合わせはメールのみの対応とさせていただきます。
電話・FAXなどには対応いたしません。
また、応募の結果に関するお問い合わせはご遠慮ください。