「第6回 輝く!ブランチBOOK大賞」


<2007年BOOK界 様々なムーブメントが!>
①「自己改革本」の大ブーム ②ケータイ小説の大ヒット ③「カラ兄」などの古典名作復活


<第6回 輝く!ブランチBOOK大賞>


小林 今年で6回目を迎えました「ブランチBOOK大賞」、審査委員長は今年もたくさんの面白い本を紹介してくださいましたブックマスター、筑摩書房の松田哲夫さんです。
松田 はい。今年も、たくさんの本に楽しませてもらったのですが、その中からより抜きの作品や作家を表彰させていただきます。


<新人賞>
☆梅佳代『うめめ』『男子』(リトルモア)他



つい見過ごしがちな日常の中のハッとする瞬間を切り取った写真集。「笑える写真集」として大評判になりました。浅草仲見世で賞状を授与し、インタビューしました。
「あなたの写真集『うめめ』『男子』『うめ版』は人間のおかしさ、愛らしさを見事にとらえ、私たちを超笑わせてくれました。絶好のシャッターチャンスを決して逃さないあなたに敬意を表し、王様のブランチはBOOK大賞新人賞を贈りここに表彰します」(表彰状)
谷原 松田さん、新人賞に梅佳代さんを選ばれた理由というのは。
松田 こんなに笑えた写真集というのは滅多にないと思うんです。何度見ても笑っちゃうんですよね。それに、それぞれの人が、「この人、どんな人生を送っているんだろう」っていろいろ考えさせられたりして、そういう意味ではストーリー性もあるし、本当に楽しい写真集でしたね。


<優香賞>
☆松浦寿輝『川の光』(中央公論新社)



都市に流れる川に住むネズミの一家の冒険物語。いのちといのちが繋がっていく姿が活き活きと描かれていて、優香ちゃんは感動したそうです。
「いつもおきれいな優香さんの賞をいただいて、本当に嬉しく思います。優香さんはじめ、ネズミ一家の必死の大冒険の物語を楽しんでくださった読者の皆さんみんなに、この機会をかりて改めて心からお礼申し上げます。 松浦寿輝」(松浦さんからのメッセージ)
優香 松浦さん、どうもありがとうございます。この本は、読み終わりたくないというぐらい、読み続けていたい、その続きがもっと見たいと思えるような本でした。だいたい、動物がメインのお話って、人間が悪く描かれがちです。最初のきっかけも、人間が、ネズミたちの住む場所を追いやってしまうということだったんですけども、でも、この子たちがおうちを探して冒険していくなかで、人間の子供に助けてもらうところがあって、そこが、すごくいいなあ、温かくなるなあと思いました。ぜひ、子供から大人まで、みんなに読んで欲しいと思います。


<谷原章介賞>
☆荒俣宏『アラマタ大事典』(講談社)



学校では教えてくれないけれど、知れば知るほど面白い303のヘンな話。この本は谷原さんの好奇心と知識欲をいたく刺激したようです。賞状を渡し、インタビューしました。
「あなたはその計り知れない豊富な知識を「アラマタ大事典」に惜しげもなく注ぎこみ谷原審査員を驚愕せしめました。よって王様のブランチは谷原章介賞を贈りここに表彰します」(表彰状)
谷原 荒俣さん、ありがとうございました。今回は、小説ではなくて雑学事典のような特殊な本なんですけども、僕自身も読んで楽しかったし、ためになった。子供に与えても、子供が興味を持って読めると思うんですよ。このなかで大好きな話が「おやつの話」で、なんで「おやつ」って言うんだろうと思ったら、昔の日本では朝晩しかご飯を食べなかったんですって。ちょうどおなかがすくのが、昔の時間でいう「八つ時」にそれを食べるんで、「おやつ」ということになったという。ふだん何気なく言っている言葉とか見ているものとかで、知らないことっていっぱいあるんですね。これからも、いろんなことに興味を持って見たいきたいと思わせてくれる本だと思い、今回これを選ばせていただきました。


<大賞>
☆角田光代『八日目の蝉』(中央公論新社)



今年、5冊の傑作小説集を刊行した角田さん、中でも『八日目の蝉』は、「母親」とは何か、「家族」とは何かを切なく問いかけてくる、緊迫の長編サスペンスでした。角田さんの仕事場を訪れ、ぼくが賞状を授与し、インタビューしました。
「あなたは今年人間心理の機微を捉えた優れた小説集五冊を刊行されました。中でも『八日目の蝉』は極めつきのサスペンス小説であると同時に、親子のあり方を改めて私たちに問いかけてくれました。よっって王様のブランチはBOOK大賞新人賞を贈りここに表彰致します」(表彰状)
松田 『八日目の蝉』は今年一番圧倒された素晴らしい小説でした。ちょうど電車の中で読んでいて、涙があふれ出してきて、すごく気まずい思いをしながら読んでいました。
N この『八日目の蝉』は角田さんがあまり手がけなかった犯罪小説であると同時に、出産、育児というテーマにも独自の視点で取り組んでいます。そこには、角田さんのどんな思いが込められていたんでしょうか。)
角田 出産については、自分も年齢を経てきて、周囲の人が、出産した人はしているし、していない人はしていないし、でも出産について悩んでいる人もいる。自分も世代的に出産に近いところにいたんですよね。なので、同世代の女性を書くときに、出産を扱わないと不自然である……産むにしろ産まないにしろ、その問題を書かないのは不自然かなあと思って、わりとそのテーマは重点的に書いたなあっていう気がします。犯罪に関しては、わりといままで、日常の非常に小さいことを書くのが、私は得意だったんですけど、ずーっと日常の小さいところを書いていても、何か自分の枠組みのようなものが出来てしまうんじゃないかっていうのがあって、単純に日常の対極にあるものという意味で犯罪というものを考えて……。
N 今回、テーマを決め込まずに、夢中で書き進めていた角田さんは、ある時、自分が一番書きたかったものに気づいたといいます。)
角田 書き終わってしばらくしてから、自分が一番書きたかったものって何なのかなっていうと、人間の強さとかたくましさみたいなことをを書きたかったんだと、ある時気づいて、たぶん、人はこうあるんじゃないかっていうことなのかなあと思って……。


松田 『八日目の蝉』というのは、サスペンスも凄い、グイグイ引き込まれますし、犯罪みたいに、本当に深いものを問いかけてくるんですけども、最後にはすごく感動的なあったかい物語になっていくという理想的な作品なんじゃないかなって思いますね。本当に何度でも読み返したいっていう気がします。
優香 私もこの作品を読みまして、本当に衝撃的だし面白かったです。