「国語が苦手」「現代文は勉強しなくてもわかっている」「メールや書類作成の文章力を向上させたい」日本語の教養を身につけたい全ての人へ

 本書は半世紀近くにわたって読み継がれた現代文教本です。
 「文章を読む」とは、書かれた言葉の何を拾い上げ、それらをどう関係づけることなのか――。数々の小説や評論を題材に、重要な箇所をどのように見分けるかを、実演を織り交ぜながら徹底的に解説。
 「文学的な文章」「論理的な文章」の2パートに分かれ、高校教科書の定番教材も多数収録。読者は目の前にある文章について、内容や表現だけでなく、その表現を選んだ書き手の感性や想像力までもつかめるようになるでしょう。

解説:読書猿

「よみがえる至高の現代文教本」

ベストセラー『独学大全』(ダイヤモンド社)の「国語」のパートで本書を大々的に取り上げ、
今回復刊の火付け役にもなった読書猿さんによる解説を全文お読みいただけます。

 「国語なんてものを、まだ学ばないといけないのか」と思ったことがある。
 確か中学に上がった頃、「日本語で書かれたものなら、もう何だって読める」と思い込んでいた。
 普段、いや生まれてからずっと、使い続けているこの言葉を、わざわざ時間を割いてまで学校で教える意味が分からなかった。
 「あとは各自勝手に好きな本を読めばいいじゃないか」とも思っていた。実際、日本語の読み書き能力を高めるのに、それ以外の方法は思いつかなかった。
 ここでいう「日本語」とは、現代の日本語、つまり現代文のことである。
 これが古文や外国語なら、単語も文法も分からないことだらけで、改めて学ぶ意義がある、と感じた。そして、この「学ぶ意義」は、そのまま学び方に直結する。つまり古文や英語を勉強するというのは、未知の単語を覚え文法を理解していくことに違いない、と無邪気にそう思っていたのだ。
 こうした考えのまま、現代文という科目を振り返ってみると、途方にくれることになる。単語は知っている、文法は言われるまでもない。だったらこれ以上、何をどうやって学べばいいのか、と。
 これら「学ぶ意味がない」と「学び方が分からない」は、科目としての現代文に常に投げかけられる批判だが、両者は根っこのところでつながっている。我々の多くは、普段使っている、だから慣れ親しんでいると信じていながら、現代文の学び方すら分かっていない。それはつまり、何ができれば現代文を理解できたことになるのか、目の前に置かれた文章の何に注意を払い、何をどこまで読み取ればいいのか、といったことについて、まともな答えを持ち合わせていないということだ。ある文章を自分が本当に読めているのか、それすら知る術を持っていないのだ。
 問題はそれだけにとどまらない。古文にしろ外国語にしろ、単語も文法も当然に分かった上で、つまり現代文と同じ条件の下で、内容や表現を理解することに多くを割けるレベルに至ってこそ、その言語運用能力ははじめて実用レベルとなる。現代文において、学び方が分からない、読めているかどうか判断がつかないのであれば、他の言語についても言わずもがなである。
 つまり現代文を学ぶことは、あらゆる言語学習がいずれ到達すべきこの水準を先取りする機会であり、単語も文法も分かるという条件の下で、言葉を実用レベルで使う/実践的に扱うとは一体どういうことなのかを体験する機会なのである。
 以上は、単に科目としての現代文についてのみ、当てはまる話ではない。そもそも現代文が教科として生き残っているのは、そして受験科目として問われるのは、現代文を読み書きする能力が、合格者のその後の人生に確実に必要となるからだ。例えば、現代文の読み書きを苦手とする大学生は、少なくない文献や資料を読み解き、レポートを始めとする書く課題を大量に課せられれば窮地に陥るだろう。
 学校を出た後も、現代文の読み書き能力は有用かつ不可欠である。何故なら、我々の文明自体がそうであるのだが、ある程度以上の、つまり個人的な才覚だけでは運営できない規模の大きな組織を維持していくためには、膨大な書類を生み出し処理し蓄積していくことが必要であるからだ。
 それでは、我々が自覚している以上に必要かつ有用な読み書き能力を、科目としての現代文を超えて、一般名詞としての現代文を運用する技術を高めるには、どうすればいいか。
 少なくとも、ここに一冊、そのために最適な教本が存在する。今より遥かに多くの時間が国語科の授業に費やされた時代に、難関大学で出題者側であったのみならず、我が国の国語政策にも関与したトップレベルの二人の日本語研究者(国語学者)が著した『現代文解釈の基礎』がそれである。

 本書の著者の二人は京都大学出身、いずれも同校で長年教鞭をとった国語学者であり、渡辺は遠藤の教え子にあたる。
 遠藤嘉基は明治三十八年熊本市に生まれ、同市の第五高等学校から京都帝国大学文学部へ進み、成城高等学校教授、大阪外国語学校講師を経て、京都大学へ戻り、定年退官するまでこの大学で教えた。教授となった後、国立国語研究所所員を兼任、国語審議会委員も務めた。専門の国語学では、上代語および平安時代の漢文に付された訓点語研究で知られる。昭和二十九年には「訓点語学会」を設立し、会長を務めた。著書に『訓点資料と訓点語の研究』『日本霊異記訓釈攷』『国語教育の諸問題』があり、阿川弘之の小説「雲の墓標」に出てくる「E先生」のモデルであるといわれている。
 渡辺実は、大正十五年、京都市に生まれ、同市の京都第一中学校から第三高等学校へと進み、昭和二十年四月京都帝国大学文学部入学。終戦直前の入学であり、渡辺は勤労動員の先で自分と同じく国文専攻三名で夜の時間に源氏物語を読むことに決め、遠藤に宛てて疑問点を書き送り回答してもらったことや、終戦後、学生たちの自主的な勉強会の場所に、遠藤が自身の研究室を提供してくれたこと、また大学院卒業の頃、遠藤から国立国語学研究所の所員にならないかと誘いをうけたことなど、想い出を書き残している。その後、渡辺は大阪女子大学を経て京都大学教養部へ助教授として戻り、ここで教えた後、上智大学へと移っている。単著に『国語構文論』『国語文法論』『国語意味論 関連論文集』『国語表現論』等の大著がある。
 遠藤と渡辺の師弟コンビが生み出した学習参考書には『現代文解釈の基礎』に先立って、次のようなものがある。
 二人はまず昭和三十五年に「世に行なわれている現代文解釈の方法にあきたらず」、中央図書出版社の「着眼と考え方」シリーズの一冊として『現代文解釈の方法』という学習参考書を世に出した。この書では、現代文のマスターには、内容的意味の把握だけでなく、その内容がどのように表現されているか、言い換えれば、何故他ならぬその言葉で表現されなければならなかったのか、その意味を理解する表現的意味の把握、そして最後に内容的意味と表現的意味両方の理解を総合することが必要だとして、それぞれに対応した三段階のコースで用意している。近年の受験国語の現代文と比べれば、目指すべき読解水準は相当に高いと感じるが、この基本方針は、以下に紹介する参考書にも継承された。
 次に二人は「『現代文解釈の方法』を出してみると、これと表裏をなす『現代語辞典』というようなものが必要である」と考え、「現代文解釈のうえに役だつところの、辞典をかねた、いわば〈事典〉とでもいうべき種類のもの」を、「高校生をも含めた 一般むきを対象」に『新編現代文事典』を昭和三十六年に公刊している。なお、題名に「新編」とあるのは、『現代文事典』(保坂弘司 編、学燈社、昭和二十八年刊)という書が先にあったためである。
 この『新編現代文事典』は、ボリュームの異なる二つの部分に分かれている。頁数で大部分を占めるのが、第二部「わかりやすい現代文重要語の解説」である。これは、一般の国語辞典にある説明だけでは理解しにくいが、現代文を読むのに必要な語句を、意味だけにとどまらず、語のニュアンスや「年輪」(歴史)、文中で使われる時の型など、六百以上の頁を割いて解説したもので、近年市場を賑わしている現代文単語集の嚆矢となるものである。
 これに対して第一部「現代文の読み方」は、現代文を読むのに必要な着眼点や考え方を六十頁にまとめたものである。そしてこの部分を元に、教科書でもおなじみの「易しい」文章を例題文として集め、解説をより詳しくすることで、高校初年生向け、つまり中学を出たばかりの人のために作り直したものが本書『現代文解釈の基礎』(初版は昭和三十八年三月に刊行)である。

 本書の特徴であり、利用する際に注意が必要な点は、この書が学習参考書によくある、まず短い例題文と問いが提示され、それに解答と解説が続くタイプの問題演習書ではないことである。多くの参考書は、テスト問題に正解することを目標に、読者にとにかく問題を解くことを求めるが、これに対して本書がめざすものはもっと先に、あるいはすぐ「手前」にある。すなわち目の前にある文章を、内容のみならず表現についても、そしてその表現を選んだ著者の感性や想像力までも、正確に読むことができるようになることこそ、本書が求め、目指すものである。
 そのため本書は、何よりまず例題文を読むことを読者に求める。
 着眼と考え方シリーズに共通する構成として、例題文に先立って、何に着目してどのような思考手順を踏んで読んでいけばいいかを「着眼」として提示される。その後、「実践例題」として、要約部分まで含めれば作品全体を鑑賞できるように提示された、かなり長い例題文を読むことを求められる。そして、例題文のそれぞれの箇所について何を読み取ればいいかを指示する課題に続いて、それに応じた読解と、何故そのように解釈できるのかについて思考過程を併せた解説を読み、読者自身の読解と照らし合わせることが求められる。
 著者たちが目標とする文章理解は、ただ例題文の作者たちが伝えようとした内容を受け取ることにとどまらない。何故その内容を伝えるのにそのような表現を選んだか、そもそも作者はどのような思想の持ち主であり、何故その内容を選んだかまで分析は進む。
 本書は文章をどのように読めばいいかにとどまらず、文章を読むこととは、書かれた言葉の何に注目し、拾い上げ、結びつけ、考えていくことなのか、を実演を通じて示し、読者にも同様のことができるよう導こうとする。
 『基礎』の著者たちが求める文章読解の水準を言い換えれば、文章を生み出す書き手の思考を、読み手が再現し再体験できることである。『基礎』の著者たちもまた、自身の思考過程を、この本を使って現代文を学ぶ学習者にも再現/再構築できるよう、言葉を尽くして導こうとする。
 本書は、現役の学生たちが国語(現代文)のテストで良い点を取ろうという目的を遥かに超えている。これまで自分が読むことに十分な注意を払い、訓練を積んできた読み手さえも、日本語文の読み書き能力について格段に高めることができる教本である。
 加えて、この本の読者は、正確に深く読むことができることが、そのまま文章を書く力を底上げすることを体験できるだろう。書き手に回った際にも、何をどれだけ、どのように書くのかについても深い認識が得られることは疑いない。
 そうした意味では、本書は他の学習参考書とではなく、ディキンソン『文学の学び方』やナボコフ『ナボコフの文学講義』などと引き比べられるべき、またそれらのプレテキストとして用いられるべき書物であるとさえ言える。まさしく教科としての現代文を超えて、我々の常に必要なスキルとしての現代文を学ぶための書物なのである。

 学習参考書には時代の刻印が押されている。
 進学率が変わり、学習指導要領が変わり、入学試験の難易度が変わり、出題傾向が変わり、求められるニーズが変われば、かつての名参考書も「ここまでは不要」と言われ、読まれなくなり、やがて市場から消えていく。
 しかし稀に、そうした変化に伴う浮き沈みを乗り越え、時代を超えて輝きを保つものがある。
 書物は、それを求める人がいる限りなくならない。品切れや絶版、版元の倒産などの憂き目にあっても蘇る。本書『現代文解釈の基礎』はそうした参考書のひとつである。

本文見本

単行本時のA5版をそのまま縮小するのではなく、
コンセプトは活かしたまま文庫版用にデザインしなおした紙面

本文見本 1
本文見本 2
本文見本 3
本文見本 4

目次

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目次 3
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目次 5

遠藤嘉基(えんどう・よしもと)

1905 - 1992 年。 鳥取県生まれ。 京都帝国大学文学部卒業。 京都大学名誉教授。 国語学・ 国文学専攻。 訓点語研究を中心に国語史研究を行った。 専門の著書に、『 訓点資料と訓点語の研究』( 京大国文学会)、『 新講和泉式部物語』( 塙書房)、 高校生向けには、『 現代文解釈の方法』『 古典文法要覧』( 中央図書) などがある。

渡辺実(わたなべ・みのる)

1926 - 2019 年。 京都府生まれ。 京都帝国大学文学部卒業。 京都大学名誉教授。 国語学・ 国文学専攻。 言語表現の立体構造に着目し、 国語学と国文学の境界を超える研究を目指した。 著書に、『 国語構文論』( 塙書房)、『 平安朝文章史』( ちくま学芸文庫)、 高校生向けには、『 現代文解釈の方法』( 中央図書) などがある。

着眼と考え方 現代文解釈の基礎〔新訂版〕 遠藤嘉基/渡辺実 著

遠藤嘉基 渡辺実 著

着眼と考え方現代文解釈の基礎〔新訂版〕

書かれた言葉の何に注目し、拾い上げ、結びつけ、考えていけばよいのか――59の文章を実際に読み解きながら解説した、至高の現代文教本。

ISBN:978-4-480-51073-0/1,650円(10%税込)/480ページ

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筑摩書房の伝説の参考書

古文の読解

小西甚一

ISBN:978-4-480-09273-1/1,500 円(10%税込) /ちくま学芸文庫

新釈 現代文

高田瑞穂

ISBN:978-4-480-09223-6/1,210円(10%税込) /ちくま学芸文庫

古文研究法

小西甚一

ISBN:978-4-480-09660-9/1,980円(10%税込) /ちくま学芸文庫

高校生のための
文章読本

梅田卓夫/清水良典/服部左右一/松川由博 編

ISBN:978-4-480-09642-5/1,650円(10%税込) /ちくま学芸文庫

精講 漢文

前野直彬

ISBN:978-4-480-09868-9/1,870円(10%税込) /ちくま学芸文庫

高校生のための
批評入門

梅田卓夫/清水良典/服部左右一/松川由博 編

ISBN:978-4-480-09440-7/1,760円(10%税込) /ちくま学芸文庫