名画をのこし、近代の夢を描いた青年はコンプレックスまみれの青年だった―

第1章より

 人間である限り、必ずやモーツァルトの音楽は心の琴線のどこかに触れてくる。なぜかといえば、彼が描くのはどんな普通の人でも必ず経験する感情だから。彼の音楽を理解するのに特別な人である必要はない。まさにここにこそ、モーツァルトの音楽の並外れた普遍性がある。モーツァルトの天才は、異様な早熟でも、傷一つない流麗さでも、狂気と薄幸でもなく、「人間が人間であるための条件」を描き尽くしたことにある。ありきたりの人間の喜びと悲しみの間の無限の彩を愛しいと思うこと――これだけがモーツァルトの天才を理解するための条件とすらいっていいだろう。
最後の晩餐
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目次

第 1 章

モーツァルトの比類なさはどこに?

楽しいのに寂しい/強いのに壊れそう/「うつろい」への異常な感性/モーツァルトは特別な人間を描いたりしない

第 2 章

「天才君」の栄光と悲惨

「天才少年」はいくらでもいる?/レオポルト・モーツァルト――世界で最初の教育パパ/教育ビジネスで成功する!/核家族の温かさと息苦しさ/モーツァルト・ブラザーズ結成!/天才子役の宿命

第 3 章

「ある」と「なる」―天才の二つのありよう

庇護があった天才となかった天才/天才は末世に生まれる?/時代に殉じる vs. 時代を開く/天才は「がんばること」を拒否する?

第 4 章

失意は天才少年の宿命

天才、二十すぎれば/モーツァルト、大いに羽をのばす/就活の挫折と母の死/成功するには度胸と計算が要る/たぎる野心と大人の顔

第 5 章

教育パパの呪縛は結婚で断つ

モーツァルトと父親コンプレックス/お父さんは僕の価値がわかってない!/大脱走/婚約/新婚オペラ

第 6 章

「天才」とは何?

職人と芸術家の違い/音楽家はいつから「芸術家」になったか?/カントの天才観/モーツァルトはぶっとんでいる

第 7 章

フリーになるということ

「自分らしくある」ということ/勤め人にならずどう作曲家は食っていくか?/資本主義の黎明期に生まれたモーツァルト/「予約演奏会」は作 曲家の個展だ/ピアノ協奏曲の魅力/世界中の人と友達になる夢

第 8 章

芸術家と実人生

伝記は作品のミステリーを解く鍵?/モーツァルトの創作と母の死/「厳父」の恐怖/女性たちの肖像

第 9 章

美の冷酷さについて

みなぎる創造力と冷笑/ダ・ポンテ三部作と愛への不信/美のサディズム/モーツァルトの喜劇は痛々しい/真善美をあざ笑う

第 10 章

実存の不安と「まあこんなものか……」の希望

芸術家は人間についての科学者だ/明るく前向きの達観/啓蒙主義の時代の男女関係/恋愛結婚は近代のイデオロギー?/モーツァルトの幻滅と希望

第 11 章

「ところで」の奇跡

予告なき改行/モーツァルトは理屈を嘲笑する/生と死の予告なき/舞台転換/幸福は突然見いだされる

第 12 章

流麗さについて ― モーツァルトの作曲レッスンを受ける

モーツァルトのテーマはドミソばっかり?/モーツァルトの名作をいじってみる/モーツァルトはドとソだけで何でも出来た/モーツァルトは名ジョッキー/誰もこんな風には作曲できない……/時間の布を切断する

第 13 章

晴れた日のメランコリー

晩年のモーツァルトはほとんど曲を書いていない?/晴れた青空の諦念/悲しみでも幸せでもない謎の言語/春は巡る/エロスという名の希望

第 14 章

モーツァルトは神を信じていたか?

死は人間の最上の友?/モーツァルトは宗教音楽と相性が悪かった?/宗教音楽は決まりごとが多い/フリーメーソンのための葬送/近代人と時間の恐怖

第 15 章

幸福な阿呆に神は宿る

オルゴールのメロディー/魔法の箱を開けてみる/『魔笛』の奇跡/鈴を振り回す子ども/「あれ!」と叫ぶ子ども/人が神に近づくとき
これだけは聴きたいモーツァルト名演奏
モーツァルト略年表
人名/モーツァルト作品索引
岡田暁生<span>(おかだ・あけお)</span>

岡田暁生(おかだ・あけお)

1960年京都生まれ。音楽学者。京都大学人文科学研究所教授。『オペラの運命』(中公新書)でサントリー学芸賞を受賞。1000年あまりにおよぶ西洋音楽の流れを鮮やかに描いた『西洋音楽史』(中公新書)は高い評価を受け、ロングセラーとなっている。他の著書に、『恋愛哲学者モーツァルト』(新潮選書)、『音楽の聴き方』(中公新書)、『「クラシック音楽」はいつ終わったのか?』(人文書院)、『オペラの終焉』(ちくま学芸文庫)、『西洋音楽史』(放送大学教材)、『リヒャルト・シュトラウス』(音楽之友社)、『クラシック音楽とは何か』(小学館)など多数。

岡田暁生(おかだ・あけお)

よみがえる天才3 モーツァルト

完璧なる優美、子どもの無垢、美の残酷と壊れたような狂気、楽しさと同居する寂しさ――モーツァルトとはいったい何者だったのか? 天才の真実を解き明かす。

ちくまプリマ―新書358/定価:本体920円+税/ISBN:978-4-480-68383-0

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モーツァルト よみがえる天才3

レオナルド・ダ・ヴィンチ よみがえる天才2 書影
レオナルド・ダ・ヴィンチ よみがえる天才2 池上英洋<span>(いけがみ・ひでひろ)</span>
名画をのこし、近代の夢を描いた青年はコンプレックスまみれの青年だった―

はじめにより

ではなぜこれほど未完成だらけ、計画倒ればかりの芸術家が、西洋の美術史を代表する人として知られているのでしょう。〈ラ・ジョコンダ〉や〈最後の晩餐〉ほど広く世に知られた作品は他になく、レオナルドほど誰もが知っている芸術家の名前もたしかに無いのです。(中略)本書では、そうした理由をひとつひとつ追いながら、この不思議を一緒に解き明かしていきます。レオナルド・ダ・ヴィンチを称して「万能の天才」とはよく言われることですが、その「万能の天才」というレッテルでは単純に片付けることのできない、波乱に富んだ一生をおくった、重層的で複雑で、不運と失敗だらけの「偉大なる普通の人」としてのレオナルドの姿が浮かび上がってくるはずです。
最後の晩餐
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目次

はじめに ― 「未完成作」ばかりの芸術家

第1章

ルネサンスと共に誕生した人

どのような家庭に生まれたか/五人の母と一六人の弟妹/芸術家という道/花の都フィレンツェ/ルネサンスという特殊な社会とメディチ家

第2章

若き日のレオナルド

師匠との共作/工房での教育とアカデミア/工房内協働と工学的素養/風景素描と単独デビュー作/〈ブノワの聖母〉が持つ「醜さ」の重要性/未完癖と挫折

第3章

万能性の開花

自薦状/レオナルドの先生たち/パチョーリとの対話/演出家としての成功/画家としての活動/長い法廷闘争/姿を現した壁画/史上最大の挑戦/絶頂と暗転

第4章

その暮らしと人となり

当時の年収とレオナルドの稼ぎ/レオナルデスキたち/愛と友情/レオナルドの顔

第5章

作品を読み解く① 〈最後の晩餐〉 ― レオナルドの試行錯誤を辿る

構図上の試行錯誤/観相学による性格描写/聖数三と波紋/技法上の苦悩/作品の受難の歴史

第6章

放浪の日々

風雲急を告げる半島情勢/転戦の日々/世紀の対決

第7章

科学と思想

飛翔実験に見る近代性/科学的事実と聖書/知識共有のための工夫

第8章

作品を読み解く② 〈ラ・ジョコンダ(モナ・リザ) 〉 ― レオナルドが辿り着いた世界観

証言者たち/現ルーヴル作品はリザ夫人の肖像画か?/状態と様式/アナロギア/描かれた世界観

第9章

晩年 ― 旅の終わり

ローマでの不遇/あったかもしれない二度目の「世紀の対決」/フランスでの穏やかな死
おわりに ― 最初の近代人から学ぶこと
巻末資料① ― 絵画作品リストと解説
巻末資料② ― 年表
池上英洋<span>(いけがみ・ひでひろ)</span>

池上英洋(いけがみ・ひでひろ)

美術史家・東京造形大学教授。1967年広島生まれ。東京藝術大学卒業、同大学大学院修士課程修了。専門はイタリアを中心とする西洋美術史・文化史。著書に『西洋美術史入門』『西洋美術史入門〈実践編〉』(ちくまプリマー新書)、『官能美術史』『残酷美術史』、共著で『美少年美術史』『美少女美術史』(ちくま学芸文庫)、『レオナルド・ダ・ヴィンチ 生涯と芸術のすべて』(筑摩書房)、『恋する西洋美術史』『イタリア 24の都市の物語』(光文社新書)、『レオナルド・ダ・ヴィンチ 西洋絵画の巨匠8』(小学館)など多数。日本文藝家協会会員。

池上英洋(いけがみ・ひでひろ)

よみがえる天才2 レオナルド・ダ・ヴィンチ

家族にも教育の機会にも恵まれず、コンプレックスだらけだった500年前の一人の青年が、なぜ名画を遺し、近代文明の夢を描く「天才」と呼ばれるに至ったか。

ちくまプリマ―新書350/定価:本体980円+税/ISBN:978-4-480-68377-9

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レオナルド・ダ・ヴィンチ よみがえる天才2

伊藤若冲 よみがえる天才1 書影
伊藤若冲 よみがえる天才1 辻惟雄<span>(つじ・のぶお)</span>
私は理解されるまでに 千年のときを待つ──  驚異の超精細画をカラーで満載

第2章より

《雪中錦鶏図》も、お化けがたくさん出てくる絵の一つです。
杉の枝葉に積もった雪が不自然にドロドロと垂れ下がっていますが、画面のそこここで、雪が丸い目、大きな口の生き物のような形になっているのが見えませんか。雪も枝がないところにまでトロ〜ンと伸びていて、どこか生き物めいています。おそらく若冲の目には、私たちとまったく違う世界が見えていたのではないでしょうか。
人と同じものを見ても、どうしてもふつうとは違う形に見えてしまう。若冲はそんな特殊な視覚をもった画家だったのだと思います。
雪中錦鶏図
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目次

はじめに ──謎と不思議の天才絵師、伊藤若冲

第1章

生い立ち──画家としての出発

若冲が生きた時代の空気感/画家たちの個性が花開いた時代/「芸術」がなかった時代の「芸術家」/奇想の芸術/青物問屋の後継ぎとして誕生/孤独癖と、仏教と/絵画への熱中/明清画からのインスピレーション/長崎派の別のくくり/南蘋画風を若冲の世界へ本歌取り/仏教と花鳥画への熱中/初々しさのなかの若冲らしさ/写生は生気まで写し取ること

第2章

《動植綵絵》制作──画家としての名声確立

若冲花鳥画の真骨頂《動植綵絵》/それはどのように生まれたのか?/仏を荘厳する絵画/五〇歳で自分の墓を建立/なぜ花鳥画だったのか/天与の色彩感覚/色彩効果の最大化のために/どこまでも濃密な画面/生きとし生けるものすべてを慈しんだ/〈貝甲図〉に現れたアニミズム感覚/〈雪中錦鶏図〉の不可思議な雪/「神技」の超細密描写

コラム1

若冲は人物画が苦手?

若冲花鳥画の真骨頂《動植綵絵》/それはどのように生まれたのか?/仏を荘厳する絵画/五〇歳で自分の墓を建立/なぜ花鳥画だったのか/天与の色彩感覚/色彩効果の最大化のために/どこまでも濃密な画面/生きとし生けるものすべてを慈しんだ/〈貝甲図〉に現れたアニミズム感覚/〈雪中錦鶏図〉の不可思議な雪/「神技」の超細密描写

第3章

若冲画の世界──その多様さ、おもしろさ

現実に始まり、現実を超えていく目/写実とデザイン感覚の融合/若冲はトランプを知っていた?/赤いハートの謎/ユーモア感覚と、独特の形態感覚/「墜落」という不思議なモチーフ/表現の冒険と幾何形態/水墨画の冒険──鹿苑寺大書院襖絵

コラム2

《動植綵絵》は隠し絵の宝庫?

若冲の謎に迫る科学者たち/画中に隠される相似形/〈芍薬群蝶図〉のなかの隠し絵/新発見の絵にも隠し絵が

第4章

画業の空白期と、新たな若冲像

二〇年の空白期/モノクロームの版画で新境地を開く/若冲はたんなる絵画オタクではなかった!/中国の高僧に、宗教心をアピール/石仏群で描いた釈迦の一代記/若冲が「発明」したモザイク画/升目画のヒントは西陣織?

コラム3

作品にひそむ科学の視点──フラクタルと進化論

描かれたフラクタル/北斎やダリも知っていた?/表現された突然変異

第5章

激変した生活──最後まで画家であり続けた晩年

大火事で家もアトリエも失った/私と若冲との最初の出会い──西福寺襖絵/金一色に主題だけのシンプルな画面/アメリカ人コレクター、プライスさん/米一斗の画家/工房制作への切り替え/奇想天外なモザイク屏風/若冲の「四の字嫌い」/老いてなお、ほとばしる生命力/大胆奇抜な〈象と鯨図屏風〉/最後まで画家であり続けた

コラム4

精神医学からみる若冲の絵画表現

計画性と細部へのこだわりが同居/モザイク屛風は写経と同じ?/ASが多重視点を生んだ/若冲の性格もASに合致
あとがき/若冲年表/参照文献
辻惟雄<span>(つじ・のぶお)</span>

辻惟雄(つじ・のぶお)

1932年生まれ。美術史研究家。若冲復活の立役者として名高い。千葉市美術館館長、多摩美術大学学長、MIHO MUSEUM館長などを歴任し、現在東京大学名誉教授、多摩美術大学名誉教授。2017年、朝日賞受賞、文化功労者に選出される。2018年瑞宝重光章受章。著書に『奇想の系譜』(美術出版社 1970年、ちくま学芸文庫 2004年)、『若冲』(美術出版社 1974年、講談社学術文庫 2015年)、『奇想の図譜』(平凡社 1989年、ちくま学芸文庫 2005年)、『日本美術の歴史』(東京大学出版会 2005年)、『岩佐又兵衛――浮世絵をつくった男の謎』(文春新書 2008年)、『辻惟雄集』(全6巻、岩波書店 2013-14年)など多数。

辻惟雄(つじ・のぶお)

よみがえる天才1 伊藤若冲

私は理解されるまでに1000年の時を待つ──
江戸の鬼才が遺したこの言葉はどのような謎を秘めているのか?
天才絵師の情熱の裏側に迫る。最新の研究と色鮮やかなカラー図版満載。

ちくまプリマー新書349/定価:本体1000円+税/ISBN:978-4-480-68374-8

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伊藤若冲 よみがえる天才1

今後の刊行予定

以下、不定期刊行予定

澤田典子
『アレクサンドロス大王』
高橋憲一
『コペルニクス』
長谷川眞理子
『ダーウィン』