「歴史」ということばの裏側には、常にぴったりと“事実”というものが貼りついていることをしっかりと理解しなければ、歴史を正しく知ったことにならない。たださらーと歴史の表層をなでまわしたことにしかならない。
史料をもって語らしめよ、という言葉の意味深いところはそこである。
この『昭和史探索』全六巻は、その「史料をもって語ってもらおう」ということを基本にして編まれたものである。専門的・学術的にはもっと貴重な、数多くの極秘資料もあることであろうが、まずは比較的手に入りやすいものによってこれを構成した。それでもできるだけ第一次史料によって。それでもかなり大部なものとなった。それだけ戦前の昭和は複雑な流れを辿った歴史であったといえることであろう。
これを編んでまたまた思うのは、国民を守るための国家が、国民を容赦なく多数殺してまで国体を守ろうとしたあの戦争の非情さ、無惨さということである。そして作業しているわが耳に聞こえてくるのは、国家とは何か、日本人とは何か、十死零生の特攻とは何であったのか、人間の生と死とはどういう意味をもつのか・・・・・・と、理不尽な命令のもとに斃れた人々のそんな問いかけの声である。うめきである。私たちはそれにたいする答えを、いまだに出せない情けなさのなかにいる。
(半藤一利「はじめに」より)
昭和十七年(一九四二)
楽天的な要地占領の日程/白紙の第二段作戦計画/ミッドウエイ海戦の大敗北/ガダルカナル島への米軍上陸/ガ島をめぐる六つの大海戦
昭和十八年(一九四三)
ガ島撤退後の目を覆う戦力消耗/山本五十六長官の死/「絶対国防圏」の構築/出陣学徒壮行会と大東亜会議
昭和十九年(一九四四)
無謀なインパール作戦/サイパン失陥と東條内閣の倒壊/栗田艦隊反転の謎/統率の外道・特攻
昭和二十年(一九四五)
“戦う大元帥”の憂愁/主要都市はすべて焼野原/鈴木内閣の成立と「大和特攻」/和平への突破口が・・・/大日本帝国降伏す
ベストセラー「昭和史」の著者である編著者が長年の昭和史研究の中で選び出した史料。さらにその中から一般の読者にもわかりやすい著作を抜粋、編集し、その史料の背景に横たわる時々の情勢、時代の空気を一年ごとに書き下ろしで解説する。生の資料でたどりつつ名調子の解説で探索する昭和史。
6巻で1926−45年、戦前の昭和史を探索する。