物理の歴史
ノーベル賞に至る道
湯川秀樹のノーベル賞受賞。その中間子論とは何なのだろう。日本の素粒子論を支えてきた第一線の学者たちによる平明な解説書。
【解説: 江沢洋 】
- シリーズ:ちくま学芸文庫
- 1,540円(税込)
- Cコード:0142
- 整理番号:ト-12-1
- 刊行日:
2010/04/07
※発売日は地域・書店によって
前後する場合があります - 判型:文庫判
- ページ数:448
- ISBN:978-4-480-09285-4
- JANコード:9784480092854
- 在庫 ×
敗戦後の日本に大きな希望を与えた1949年の湯川秀樹のノーベル物理学賞受賞。その難解な中間子論を理解するために渇望された啓蒙書のひとつが本書である。素粒子論に至る必要な概念を、運動と力、電磁気、光、量子論、原子核・素粒子と物理学の発展の歴史に沿って解説していく。編者の朝永振一郎も1965年に同賞を受賞し、執筆にあたった高林武彦や中村誠太郎も日本の素粒子物理学を支えた。
第1章 運動と力(運動と力を測ること
天上の運動 ほか)
第2章 電磁気(静電気と静磁気
電流 ほか)
第3章 光とはなにか(エーテル
光の微粒子説・波動説・光の速さ ほか)
第4章 量子論(古典論の困難
状態の不連続性・光の粒子性と遷移 ほか)
第5章 原子核と素粒子(原子核の探究と原子力
宇宙線・陽電子と中間子の発見 ほか)
2010.6.01 牛田 憲行
高校時代図書室にあった毎日ライブラリー「物理の歴史」は一番ひきつけられた本だった。その後手に入れた。とくに高林武彦先生の量子論のところは一番大部で高校生には理解できないところだっかたけれども、高林先生の筆致はもっとも印象に残った。高林先生は脚注が多くこれがユニークさを表しておもしろく記憶に残った。わかりやすかった?のは中村誠太郎先生の原子核と素粒子で、当時すでに原子物理学のジャーナリステックなライターとして名高かった中村先生の筆致は生き生きとしていた。難しいことはわからなくても20世紀の原子核・素粒子の研究の様子が読み取れた。私が素粒子・原子核の研究に携わるようになった最大の動機がこの「物理の歴史」と、かの有名な「ガモフ全集」にあったが、このことはおそらく他の方々も似たようではなかっただろうか。量子論の中で理論の枠組みの話よりも(難しくて高校生には理解は無理だったが)脚注で、たとえば、ドイツを取り囲む小国が物理学に寄与しているくだりなど強い印象をうけた。ともかくこの本は何度読んでも古臭さは微塵もなく、高林先生と中村先生の精魂込めた筆致が生き生きとしていておもしろい。高林先生の量子論の項はその後中央公論社から自然選書「量子論の発展史」として大幅に改定増補されたが、最初の毎日ライブラリーの量子論のところが一番印象に残る。縦書きの妙だろうか。もっとも文庫の復刻版は横書きだけれど。(中村先生の書く、インドの理論物理学者バーバーをブハブハと書いてある所など思わず笑ってしまうが)今回すぐれた名著を復刻してくださっている筑摩学芸文庫がこの「物理の歴史」を文庫本として復刊してくれたことを心から喜び、あらためて全ページ精読、味読するきっかけを与えてくれたことはおおきな喜びである。それにしても、ランダウの小教程やワイルやパウリの名著、秋月先生の名著など最高の名著を文庫本で復刻していることはすばらしい。いま思いつくぜひ復刻してほしい本として、小堀 憲先生の「数学史」朝倉書店 をお願いしたい。こんなわかりやすくてみごとな数学史の本はない。小堀先生のすばらしいお人柄を思い出してなおさらである。
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