私塾による戦い


 齋藤さんと私は、そんな日本社会の閉塞状況に危機感を抱いている。特に、大人たちが発する何気ない言葉の数々が、子どもたち、若者たちの心を萎えさせ、悪影響を及ぼし、社会全体の活力をそいでいることを問題視しています。
 そして、自ら力強い言葉を紡ぎ出すことで、その現状を打破したいと考えている。加えて、ふだんはあえて穏やかで上機嫌な雰囲気を作り出してはいますが、私たち二人の内面の気性は激しく、「怒り」を起爆剤にしているところもよく似ています。「二人の根っこに共有できているもの」が「福澤諭吉的メンタリティ」だと、齋藤さんが「はじめに」で書かれたのは、そういう意味をも含んでいると思います。
 福澤諭吉が創始した慶應義塾もはじまりは、学ぶ意欲と志を持った若者たちが集った私塾でした。
 ウェブ進化は、すべての人が、不特定多数に向けて自己を表現する可能性を拓いた。ブログはその初期の道具にすぎず、これからその機能はさらに進歩していきます。ウェブは時空の制約を超えるから、どこに住んでいても、また教育を本業としていなくても、志さえ持てば、志向性を同じくする若者たちを集め、自分がこれまでの人生で学んできたことを伝え、良き刺激を与える役割を果たすことができる。それによって、日本社会の「もやーっとした感じ」「朦朧とした感じ」と戦い、現状を打破する起爆剤の一つになれる。多くの良き大人たちが自由にそんな私塾的活動をする未来に、私は期待したいと思っています。
 ところで、戦っている相手たる「まったく同じもの」があまりにも強敵だと冒頭で述べました。日本社会を閉塞させる大きな原因たる「まったく同じもの」は、本書を読んでくださった読者の皆さんの外部にあって批判するものではなく、皆さんの内部に根強く存在している。そしてそれが強敵の強敵たるゆえんなのです。齋藤さんと私は、本書を通して、皆さんに真剣な戦いを挑んでいるのです。
 できればそんな観点から改めて本書を読み返していただき、私たちが発した言葉の裏にある皆さんへの挑戦を、見過ごさずに受けて立ってほしいと思っています。


梅田望夫(「おわりに」より)

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