ちくま大学 TOPへ戻る

6/27開講「メディアではわからないグローバル経済の実態」講師:福田邦夫先生(明治大学商学部教授)

  • 講師のオフレコトークに思わず笑いがこぼれます
  • ちくま大学は少人数講義。講師との距離も近いです
  • 受講者の質問で教室は白熱状態に!
  • 世代を超えて真剣に学び合う、非日常の空間

 ちくま大学第一弾「メディアではわからないグローバル経済の実態」は6月27日(金)19時より開催されました。たくさんの受講生の方がいらしてくださるなか、福田先生の講義にも熱が入り、受講生の方からの質問も相次ぐ大盛況となりました。講義にいらっしゃることができなかった方や、今後ちくま大学への受講を検討される方のために、講義の内容の一部を紹介します。

 グローバル経済の歴史を、個々の商品が誕生し、世界に広まっていく過程をもとにひもといたケネス・ポメランツとスティーブン・トピックの『グローバル経済の誕生』ですが、国境を越える世界商品の誕生は、そんなに古いことではありません。コロンブスが1492年に新大陸を発見して以降のことです。
 そもそも、コロンブスの時代では、ほとんどの人が生涯に移動した最長距離は、24キロメートルぐらいだったろうと言われています。ですから彼らは国境をまたげるわけがない(ミルトン・メルツァー、渡会和子訳『コロンブスは何をもたらしたか』ほるぷ出版、1992年)。
 しかし、そうはいっても、コロンブスという存在を生む、伏線となるような世界商品はあった。クレオパトラに献上するために切り出されたアルプスの頂上の氷です。クレオパトラのもとに届くころには、ほんとに小さくなっていましたが、届けた商人は莫大な謝礼を受け取った。商人の誕生です。
 商人についてジャック・アタリはこう述べています。
知識人である商人は書物や地図が読め、地理、気象学、宇宙形状誌、言語、数学を知らなければならない。冒険家である商人は不正行為をしたり、ごまかしたり、必要とあらば殺人を行うこともあえてしなければならない。」(ジャック・アタリ、斎藤広信訳『1492 西欧文明の世界支配』ちくま学芸文庫、2009年)。
 こうして、コロンブスのような人物が現れ、国家の軍事力の庇護のもと、世界をかき回していきます。砲艦外交という言葉がありますが、資本主義経済は初期のころから、強力な軍隊を必要としていきます。
 後で述べますが、2度の世界大戦は、各国が市場を拡大しようとして衝突し、引き起こされた惨事といえます。

(中略)

『グローバル経済の誕生』に、ブラジルにやってきたポルトガル商人に、土地の長老が問いかけた言葉が収録されています。
あなた方は大いに気がふれている。あなた方は,海を渡り,困難を乗り越えてはるばる遠方からここにやって来てつらい仕事をして富を蓄えようとしているが,それは子供や相続人に富を譲るためなのか? あなた方の国には,食べ物を恵んでくれる土地がないのですか? われわれにも愛する父や母,それに子供がいるが,私が死んでも,生きていくための大地を残して逝くので,その大地で子供たちは食べ物を得ることができる。富を蓄えて残すなどいうことは,心配していない」(K・ポメランツ、S・トピック 『グローバル経済の誕生』)。
 自然を大切にし、大地の恵みで暮らしていた人々の地に、「大いに気のふれた」商人がやってきて、商品になる一次産品を手に入れ、収奪する。これが現在も続く資本主義の基本の姿ですね。
 マルクスが要約しています。
自分の生産物の販路をたえず拡張していく必要性にうながされて、ブルジョアジーは全地球上を駆けまわる。彼らはどこにでも腰をおろし、どこにでも住みつき、どこにでも結びつきをつくらなければならない。
 ブルジョアジーは、世界市場の開発をつうじて、あらゆる国々の生産と消費を全世界的なものにした。産業の足元から国民的な基盤をとりさって、反動家どもをいたく嘆かせた。古来の民族的な産業は滅ぼされてしまい、なおも日々に滅ぼされていく。それらの民族的な産業は新しい産業によっておしのけられ、これらのあたらしい産業を導入することがあらゆる文明国にとって死活問題になる。それはもはや国内の原料ではなくて、はるか遠い地域で産出される原料を加工する産業であり、これら産業の製品は、自国内だけではなく、同時にあらゆる大陸で消費される。国産品で充足されていた昔の欲望に代わって、はるかに遠い国や地域の産物でなければ満たされない新しい欲望が現れてくる
」(大内兵衛、細川喜六監訳「共産党宣言」『マルクス=エンゲルス全集』第4巻、大月書店)。
 この構造は現在も変わりありません。さらに、今日においては企業、金融資本が国家より上部に位置し、国民の命運を決めるようになりました。
 経済界は、「国内雇用をつなぎとめるために」「国際競争力を高めるために」といった文句をよくとなえます。しかし、一度大きくなった資本は、国民のほうは向きません。どんどん非正規雇用が増えて、あげくの果てには賃金の安い海外に生産拠点を動かす。国の政策もそうです。代表的なのが、アメリカのレーガン大統領時代ですね。所得の最高税率が72%から30%に引き下げられ、社会保障が切り捨てられました。

(中略)

 さて、ここ数年、日本は貿易赤字国に転落したとメディアは危機感を持って報じています。特に昨年からは、「原発が停止したことによって輸入する燃料が増え、経済を圧迫している。原発の再稼働が、日本経済を立ちなおす道だ、雇用を守る道だ」と言っています。果たしてそうでしょうか。
 日本の経常収支を見てみましょう(JETRO「日本の国際収支状況(経常収支)」、引用先は単位100万ドル)。確かに貿易収支は赤字を計上しています。80年代以降、日本は毎年10兆円前後の黒字を上げ続けていましたが、2011年度には、貿易赤字総額が約1兆6000億円に転落しています。3.11の影響で輸出が減ったことも否定できません。また火力発電に必要とされる燃料輸入が増大したことも否めません。
 しかし、トータルでみれば、2010年度の所得収支は約14兆円の黒字です。これは同年度の貿易赤字額の9倍に近い額です。所得収支とは、日本の企業が、海外で稼いだ営業利益、受取利息、株の配当で稼いだお金を日本に送金した総額。直接投資、海外企業の買収等で稼いだお金です。だけれども、海外で稼いだお金をすべて日本に送金しているわけではない。海外で株を買ったり、再投資したり、工場を建設したり、買収したりしている。また、ケイマン諸島などのタックスヘイブンにも移している。
 日本企業の海外現地法人は約2万社(製造業1万社、非製造業8000社)近くになります。日本の巨大資本は、賃金の安い海外に拠点を移してモノを作り日本に輸入し、さらに世界中に売りさばいています。そうであれば日本の貿易収支が赤字になるのは当然です。日本の中枢企業は貿易で稼ぐことなど眼中にない、という分析が正しいのではないでしょうか。
 今後、企業はどんどん安い労働力を求め、海外をさまようでしょう。また、製造した商品を売るための市場をどんどん開発していくでしょう。資本の自己増殖と、それになんの抑制策も設けない一握りの人びとに、われわれは、グローバル経済の誕生の時から、かきまわされ続けてきた、それが、実情ではないでしょうか。

過去の講座風景

  • 2016/6/18開講 歌舞伎座×ちくま大学「江戸食文化紀行」 講師:飯野亮一先生(服部栄養専門学校理事・講師)
  • 21世紀の資本主義を考える ーピケティブームを超えて 講師:仲間浦達也先生(中央大学名誉教授)
  • 9/10開講「大人のためのメディア論講義 第1回」講師:石田英敬先生(東京大学大学院総合文化研究科教授)
  • 6/27開講「メディアではわからないグローバル経済の実態」講師:福田邦夫先生(明治大学商学部教授)