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9/10開講「大人のためのメディア論講義 第1回」講師:石田英敬先生(東京大学大学院総合文化研究科教授)

第1回 そばがき 2016年6月18日

そばは最初、そば粉をお湯で練ったそばがきやそば餅にして食べられましたが、室町時代末になると、文献に、現在の麺状のそば「そば切(そばきり)」の名前が現れます。

ゆがいて水でしめて、というのが現在の調理方法ですが、当初はさっとゆでて蒸籠で蒸し、大平碗や茶碗に盛って出されていました。その後、調理に使っていた蒸籠を器にして客に出す店が現れ、もりそばを「せいろ」とも呼ぶようになります。また「ざるそば」は、深川洲崎にあった伊せや伊兵衛が小さな笊に盛って出したことから生まれました。

味付けは当初は味噌と辛味大根。これが、関東で濃口醬油の製造が盛んになると、かつおをきかせた醬油味のそば汁に変わってゆきます。

江戸時代のそば屋は今と同じで、庶民的な店と高級な店にわかれていました。後者からたとえば藪蕎麦など、今日までつづく老舗が出てきます。そば屋の名前に「○○庵」という名前が多くみられますが、これは道光庵という寺で出していたそば切が評判だったためです。

今、そば屋に入ってメニューを見ますと、そば粉百パーセントのものが十割そば、小麦粉をつなぎで使っているものが二八そば、ということになっていますが、江戸時代の「二八」は原料の割合ではなく、値段を示す言葉でした。掛け算の九九で値段を表すことが流行っていて、二八は2×8で十六文を示しています。

今日は、そば切誕生以前の、そばがきをたのしんでいただきます。調理済のものも用意しましたが、そば粉とお湯を用意しましたので、練りながら、そばがき作りに挑戦してみてください。

<献立>
  • 山掛け鮪 山葵 青海苔
  • 蕎麦がき 二種
  • 薬味(山葵 海苔 刻み葱 卸)
  • 蕎麦出汁
  • 外付け 上生菓子、お薄
第2回 そば前 2016年6月25日

そばを食べる前に肴で一杯やることを「そば前」といいますが、この言葉は江戸時代にすでにありました。そば屋には必ずと言っていいほどおいしいお酒が置いてあり、当時の版本を開きますと、そば屋酒を愉しんでいる風景がよく見られます。

江戸時代のそば屋に置いてあった酒は、日本酒度+11~18度という超辛口の酒であったことがわかっています。今日はこの超辛口の酒を用意しています。飲んでいただければわかると思いますが、超辛口の酒はお燗をつけるとうま味が出て、美味しくなります。ですので、江戸時代のそば屋では燗酒が愉しまれていました。

そば屋の肴に定まったものがあったのかどうかははっきりしていませんが、豆腐や海苔、どじょうや穴子、鶏などの小鍋立て、蛸や芋の煮物など、様々な肴が出されていたようです。「つかみ料理」といって即席料理を売りにするそば屋もありました。

料理長のアイディアで、そばの実と、そばの黎明期に味付けに使われていた味噌を用意しています。味噌玉にして味をみてください。

<献立>
  • 焼き味噌(大根 胡瓜) 出汁巻 浸し
  • そば切り
  • 鴫焼 厚揚げ はじかみ 大根味噌漬
  • 蕎麦出汁
  • 外付け 山葵 刻み葱 生姜卸 味噌玉 酒
第3回 うなぎ 2016年8月27日

さまざまなアイディア商法によって客を獲得していった江戸の外食産業ですが、その中で「江戸前」を売りにすることを最初に思いついたのは蒲焼屋でした。

当時は実際に隅田川や深川で鰻が獲れていました。江戸前の名前が文献上最初に見られるのは鯰、続いて鯵ですが、蒲焼屋は、それを看板にすることを思いついたわけです。入り口の障子や行燈に「江戸前 大蒲焼」と大書していました。消費者のほうも江戸前で獲れたうなぎを一番とし、他の土地で獲れたうなぎは「旅うなぎ」と言って下に見ていました。

いまでこそご飯が付き物のうなぎですが、最初は酒の肴として楽しまれていました。ですので、そば屋同様、蒲焼屋にもいいお酒が置いてありました。また、江戸の頃から、蒲焼屋では、お新香にも気を使っていました。

土用の丑にうなぎを食べるのが始まるころに、蒲焼に茶碗のごはんを添える「付けめし」がはじまります。ご飯のおかずになることで、女性や子供も蒲焼屋の客となりました。蒲焼をご飯の上に載せるうな丼が生まれるのはその後のことですが、ほどなくして江戸の名物となり、「どんぶり」といえばうな丼のことを指すほどまでになります。

蒲焼には山椒が付き物ですが、室町時代の料理書にうなぎに山椒味噌つけて焼く方法が書かれています。うなぎに山椒があうことは早くから知られていました。

ちなみに江戸時代では、尻尾の部分が一番おいしいとされていました。当時の版本を見ますと、わざわざ尻尾のほうをすすめている場面がよく登場します。ただし当時は蒸していませんので、今の蒲焼のとは風味が異なります。

ここのところずいぶん値上がりしていますが、今日は歌舞伎座さんが頑張ってくれまして、ずいぶん鰻が入っているようです。

<献立>
  • 鰻巻 鰻ざく(胡瓜 土佐酢)
    蒲焼もどき カリフラワー 奈良漬
  • 印籠煮 焼豆腐 高野豆腐 楓麩 青味
  • 鰻蒲焼 勢田豆腐 はじかみ
  • 鰻と長芋 胡瓜 実山椒 酢飯 焼海苔
  • 鰻茶碗蒸 胡麻豆腐 銀杏
  • 山椒御飯
  • 外付け 吸い物

※第4回以降のスケジュールが決まり次第、HPやメールマガジンでお知らせいたします。

過去の講座風景

  • 2016/6/18開講 歌舞伎座×ちくま大学「江戸食文化紀行」 講師:飯野亮一先生(服部栄養専門学校理事・講師)
  • 21世紀の資本主義を考える ーピケティブームを超えて 講師:仲間浦達也先生(中央大学名誉教授)
  • 9/10開講「大人のためのメディア論講義 第1回」講師:石田英敬先生(東京大学大学院総合文化研究科教授)
  • 6/27開講「メディアではわからないグローバル経済の実態」講師:福田邦夫先生(明治大学商学部教授)