ちくま大学 TOPへ戻る

21世紀の資本主義を考える ーピケティブームを超えて 講師:仲間浦達也先生(中央大学名誉教授)

事務局より、こんな講座です

<2015.06.05>

第一回目は日本経済の現状を確認しました。戦後、『経済白書』の中で、何度も「経済成長」をとなえてきた日本は、年々GDPを増加させ、2014年には世界第4位に。しかし、厚生労働省や内閣府が行っている生活満足度の調査では「苦しい」と感じている世代もまた増え続けている。その背景には何があるのか。経済格差を示す「ジニ係数」を見ると、年々格差が拡大しているのが確認できます。また、「相対的貧困率」や「子どもの貧困率」も同様です。世界トップクラスの経済大国は今、経済格差や貧困に蝕まれている状態にあるのではないでしょうか。

<2015.07.03>

第二回目は世襲財産の自己増殖を批判して注目を浴びたトマ・ピケティ『21世紀の資本』の読解。特に重要なグラフ20点を抜粋し、一握りの富裕層に富が集中し、不労所得の伸び率が労働によって得た所得の伸び率をはるかに上回ることを確認しました。一方でピケティの説く「r>g」の式は実態通りではあるもののピケティ自身の理論からは導き出されないことを近代経済学の数式を示して解説。とはいえこの本の意義は大きいので、経済理論の本としてではなく、データ集として活用することを提案しました。経済学をふたたび分配を扱う学問に戻そうとした姿勢は十分に評価すべきでしょう。

<2015.08.07>

第三回目は経済格差をはかる方法を紹介しました。ピケティが問題にしたのは、一握りの富裕層へ富が集中することでした。しかし、日本の現状はというと、貧困層の拡大が重要な問題で、下位所得層の実態に目を向けることが不可欠となります。その際に有効なのが、第一回にも触れた「ジニ係数」や「相対的貧困率」、「子どもの貧困率」などの指標。日本のジニ係数は年々悪化し、相対的貧困率はOECD34ヵ国中29位、子どもの貧困率は25位、さらに母子家庭・父子家庭の相対的貧困率は最下位という状況。金融資産を保有していない世帯は2014年で30.4%に達し、下位90%の人々の平均所得は2010年で約150万円。生活保護受給者は1995年以降増え続け、非正規雇用者の人口も年々増加しています。この背景の一つには、経済を専門とする人々の頭の中が「経済成長」一辺倒になったことが考えられます。かつて経済学では、所得の分配が重要なテーマでしたが、ライオネル・ロビンズが経済学を「サイエンス」として確立しようとした時から、経済学は所得の分配にかかわらなくなっていきます。所得の分配によってそれぞれの人が享受する利益の効用を科学的にはかることはできない、という判断からです。そこで経済学は底上げをはかる経済成長に目を向けることになっていきます。

<2015.09.04>

第四回目は経済格差とともに重要な、世代間格差を取り上げました。90年代以前、日本は15~64歳の生産年齢人口が人口の7割以上を占めていましたが、年々高齢化が進み、現在は人口の25%が65歳以上という状況。総人口は2008年の12,808万人をピークに年々減少し、2050年には1億人を切るという試算もあります。日本の税率はおおむね低く、政府の租税収入はOECD加盟34国中33位、財政収支は1965年以降毎年赤字で、2014年には最下位。国と地方をあわせた借金の額は財政破綻したギリシャを超え、4兆円と世界ワースト第一位。こうした状況の中、現在の社会保障を維持できるかといえばそんなわけはなく、年金・医療・介護全体の生涯純受給率は年々低下傾向に。若年層へ負担が重くのしかかるという世代間格差の実態があります。こうした状況を変えることはできないのか。日本人が税金の負担感をどう感じているのかという調査をみると、中所得者では60%超が、低所得者層では80%近い人々が「重い」と感じているのに対し、高所得者層では60%を超える人々が「軽い」と答えています(佐藤滋・古市将人『租税抵抗の財政学』)。ポイントは、税率と、社会保障の質とのバランスにありそうです。実際に高税率で高福祉の北欧諸国などの中所得者層を見ると、税負担を重いと考える人々と軽いと考える人々の割合は拮抗しています。

過去の講座風景

  • 2016/6/18開講 歌舞伎座×ちくま大学「江戸食文化紀行」 講師:飯野亮一先生(服部栄養専門学校理事・講師)
  • 21世紀の資本主義を考える ーピケティブームを超えて 講師:仲間浦達也先生(中央大学名誉教授)
  • 9/10開講「大人のためのメディア論講義 第1回」講師:石田英敬先生(東京大学大学院総合文化研究科教授)
  • 6/27開講「メディアではわからないグローバル経済の実態」講師:福田邦夫先生(明治大学商学部教授)