氷
「見たこともないような美しく冷酷なものに、からめとられる」――川上弘美(解説)
氷が全世界を覆いつくそうとしていた。私は少女の行方を必死に探し求める。恐ろしくも美しい終末のヴィジョンで読者を魅了した伝説的名作。
異常な寒波のなか、私は少女の家へと車を走らせた。地球規模の気候変動により、氷が全世界を覆いつくそうとしていた。やがて姿を消した少女を追って某国に潜入した私は、要塞のような“高い館”で絶対的な力を振るう長官と対峙するが…。迫り来る氷の壁、地上に蔓延する略奪と殺戮。恐ろしくも美しい終末のヴィジョンで、世界中に冷たい熱狂を引き起こした伝説的名作。
2020.6.25 魚座の男
光が乱反射したような美しい描写と現代社会を反映したような描写、戦争を予兆せせるような場面が、夢と幻覚の交錯したような文体で展開されていきます。唯一無二の小説です。
2015.4.15 芳さん
原作「Ice氷}は1967年に発表され、同年度ベストSF長編に挙げられていることを知った翻訳者山田和子さんが1985年、サンリオSF文庫で訳出、2008年、バジリコ株式会社から復刊、2015年、ちくま文庫から刊行されました。
翻訳者、山田和子さんのファンでしたが、何故か「氷」に辿り着くまで時間が掛かってしまいました。
翻訳者は、「カヴァンの英文はきわめて凝縮度が高い」と言っています。もったいぶった表現や、曖昧さがありません。原作者は精神内面の観察に鋭いのだろうと思います。
翻訳語の選択に細心の注意が払われていることが伺えます。そのお蔭で、強い力で、真直ぐにSFの世界に引き込まれます。
核兵器での武力侵攻があって、極地の大々的な気候変動で地球全体の温度が下がる。
作品発表から47年後の今、2015年への警告です。
寒さに震えていた少女と「私」が、「氷と死の超絶的な世界」から「逃亡できるかの様に身を寄せ合う」情景は美しいです。
新しい古典を手に入れて満足です。
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