コラム〈上級〉学習が目指すもの

#4 『英語のハノン/フレーズ編』

横山雅彦(2022年9月29日 更新)

 『英語のハノン/フレーズ編』が、無事、9月5日に入稿されました。中村佐知子先生のグランドデザインによるまったく新しい英会話のテキストです。実は、「初級」の執筆中に、すでに中村先生からは、具体的に「フレーズ編」というタイトルで、この本の必要性を伺っていました。

 おそらくみなさんは「フレーズ」という言葉から、いわゆる「口語表現」(colloquialisms)を連想されるのではないかと思うのです。しかし、本書でいう「フレーズ」は、そうした意味での「フレーズ」ではありません。中村先生が書かれた「本書の使い方」によれば、その定義は、こうです。

1. 「かたまりの表現」として使えるようになっておくべき表現

2. 一般的な文法ルールからはずれた表現

3. 補足的な文法項目を用いた表現

4. 表現の幅を広げるための表現

5. 会話のいきいきとしたフロー(流れ)の中で身につけるべき表現

 すなわち、「品詞」と「5文型」という英文法の大きいフレームワークからこぼれ落ちてしまった表現を総称して「フレーズ」と呼んでいるのです。「初級」から「上級」までと大きく異なるのは、全20ユニットのすべてに中村先生オリジナルのダイアログ(会話文)が用意され、ロールプレイング(パート練習)が入ることです。そのダイアログの中から5つずつ「フレーズ」を抜き出し、それぞれに「ハノン」独自のドリルを用意しています。

 今回、僕はこのドリルの一部をお手伝いして書かせていただいたのですが、「初級」以来、一貫してわれわれが固く心に決めていることは、すべての英文を自分たち自身の手で書くということです。ネイティブに発注し、書いてもらうことは簡単です。しかし、それをしてしまうと、著者はネイティブが書いた英文の「解説者」に成り下がってしまいます。全体の流れ、その中での伏線と回収、英文の長さ、難易度、練習してほしい英音法、英文に込めた著者の思いなど、どれほど細かく注文しても、他人任せでは、必ず「帯に短し、襷に長し」の例文になってしまうのです。

 しかし、これは非常に難しいことです。たとえば、「強調による含意」をコンセプトにドリルを作りたいとします。“It’s my umbrella.”に対して、“It’s MY umbrella.”と、MYを強調して応答すれば、「それは(あなたのではなく)私の傘です」という意味を含意させることができます。では、次のようなやりとりはどうでしょうか。

Do you want crispy chicken or grilled chicken?

クリスピーチキンかグリルドチキンのどちらが欲しいですか?

I want crispy chicken AND grilled chicken.

(どちらかではなく)クリスピーチキンとグリルドチキンの両方が欲しいです。

 理論上は、orとandを対比させ、ANDを強調することで「どちらかではなく両方」という意味を含ませることができています。さらに、「I wantやchickenは省略して“Crispy AND grilled.”と答えてもいい。場合によっては“AND”だけで十分」とでも説明すれば、「このコンセプトの為の」例文としては完璧です。しかし、実際には、ネイティブがそんな英語を使うことはなく、「どちらもほしい」のなら“Both”とだけ言うでしょう。このように、コンセプトにこだわるあまり、日本人が書くと、「為の」英文になってしまいがちです。「欲しい説明の為の」英文、「欲しいドリルの為の」英文になってしまいがちなのです。

 ドリルのコンセプトを貫きながら、同時に英文の自然さを担保する。この至難事を可能にしてくれたのは、校閲者のマイケル・モリソンさんです。ふつうの英語学習書での英文校閲では、英文が多少不自然でもpassableでさえあれば、黙っているものです。しかし、モリソンさんは、コンマ1ミリも妥協することなく、少しでも違和感があるもの、気になる表現は、容赦なく指摘してくださいました。われわれに付き合ってくださった時間は、なんと毎週1回で17週、しかも1回4時間です。

 『英語のハノン/フレーズ編』は、こうした著者たちとモリソンさんの「思い」や「こだわり」の詰まった本です。解説や例文のどこを切り取っても、そこには「みなさんに英語を好きになってほしい、英語が話せるようになってほしい」という「一心」が込められています。この本を手に取っただけで、英語が好きになり、英語が話せるようにならないではすまない。そんな唯一無二の本になったと自負します。

 どうか、ご期待ください。

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