コラム〈上級〉学習が目指すもの

#6 「ハノン」のパターンプラクティスは文法練習のためだけにあるのか

中村佐知子(2022年10月28日 更新)

 「『ハノン』のドリルで使用する文は、文法練習に集中できるよう修飾語句をもっと減らすべきだ。」

 『英語のハノン』に関して、このようなご意見をいただいたことがあります。

 思わず「そのような視点があったか」と考えこんでしまいました。確かに「文法を使う練習」としては不要な要素である修飾語句は少ない方がよい、という考え方もあるのかもしれません。しかし、実際はそのような文を使うことはまったく想定していませんでしたし、今後そのようにしようとも思っていません。

 『英語のハノン初級/中級/上級』は、文法を口頭で駆使できるようになるための教材ですが、使用されている文は、「文法的に正しい」だけではなく、口に出して違和感のない、また情景をイメージしやすいものにすることにこだわりました。そのため、必然的に修飾語句が多くついたものもあります。もちろん、コロケーション(よく一緒に使われる語の組み合わせ)も多く含まれます。

 「初級」Unit 7.5のドリルを見てみましょう。

Brian will attend the conference in London next month. (question)
→ Will Brian attend the conference in London next month? (When)
→ When will Brian attend the conference in London?

 Yes/No疑問文を作ったあと、さらにWhenを使った疑問文を作るドリルです。修飾語句としてはwhenの情報(next month)があればよいので、in Londonは不要な要素と言えるでしょう。この文から、in Londonを省いてみます。

Brian will attend the conference next month. (question)
→ Will Brian attend the conference next month? (When)
→ When will Brian attend the conference?

 文法の練習としては、こちらの方がよりシンプルになり、やりやすくなるでしょう。しかし、この文にin Londonが付いているのとそうでないのとでは、頭の中での情景の描かれ方が随分違うと思います。このin Londonがあることで、「Brianは飛行機で行くのかな?」「どんな仕事をしているのかな?」とイメージが大きく広がりますよね。そしてなにより、機械的で頭に情景を浮かべにくい文でスピーキングの練習をするのは退屈なものです。

 もうひとつ、「初級」Unit 6.1のこの文でも考えてみましょう。

Lisa ate your pudding in the fridge. (Who)
→ Who ate my pudding in the fridge?

 この文から修飾語句であるin the fridgeを省きます。

Lisa ate your pudding. (Who)
→ Who ate my pudding?

 Whoを主語とする疑問文を作る練習としては、これで十分です。しかし、Who ate my pudding in the fridge?という文の方が「(冷蔵庫を開けたら、楽しみにしていたプリンがない…)一体誰が食べたの?」と、ショックを受けている情景をずっと浮かべやすく、それに伴い感情も込めやすくなります。

 『英語のハノン初級/中級/上級』の主な目的は、文法を口頭で駆使できるようになることですが、同時に「そのためだけ」の教材ではない、ということも強調しておきたいと思います。具体的には

1. 「初級」の音法解説を読み練習する→音法理解・体得

2. 文法解説を読む→文法理解

3. ドリルを閉本でスラスラ言えるようになるまで練習する→文法体得・音法体得・リテンション力の強化

4. 何周も練習することにより(結果的に)ドリルの例文を暗記する→コロケーション体得

 といった目的があります。決して文法のため「だけ」のドリルではないので、その部分「のみ」鍛えられればよい、といった例文を使うことは今までもこれからも決してありません。

 英語学習にはさまざまなメソッドがあります。それぞれのメソッドを「こうあるべき」と狭苦しく捉えることなく、またひとつのメソッドで万事OKとは決してせず、あらゆるメソッドをおおらかに横断的に捉え、よいもの同士を融合させたりさらに昇華させたりしながら、よりよい英語学習を模索していきたいと考えています。

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