漱石の変身 ─『門』から『道草』への羽ばたき

熊倉 千之

漱石の文学的アドヴェンチュア

八方塞りの暗い小説として百年もの間誤読されてきた『門』――実は作家への変身を物語る冒険推理小説であり、『道草』はその解決編であることを精密な分析で実証。

漱石の変身 ─『門』から『道草』への羽ばたき
  • シリーズ:単行本
  • 3,080円(税込)
  • Cコード:0095
  • 整理番号:
  • 刊行日: 2009/03/23
    ※発売日は地域・書店によって
    前後する場合があります
  • 判型:四六判
  • ページ数:312
  • ISBN:978-4-480-82363-2
  • JANコード:9784480823632
熊倉 千之
熊倉 千之

クマクラ チユキ

一九三六年盛岡生まれ。サンフランシスコ州立大学卒業。カリフォルニア大学(バークレー)にてPh.D.(日本文学)取得。ミシガン大学、サンフランシスコ州立大学などで日本語・日本文学を教える。一九八八年に帰国後、東京家政学院大学、金城学院大学教授を歴任。現在はフリーの研究者。著書に『日本人の表現力と個性──新しい「私」の発見』(中公新書、一九九〇)、『見つめあう日本とアメリカ──異文化の新しい交差を求めて』(共著、南雲堂、一九九五)、『漱石のたくらみ──秘められた?明暗?の謎をとく』(筑摩書房、二〇〇六)『漱石の変身──「門」から「道草」への羽ばたき』(筑摩書房、二〇〇九)など。

この本の内容

八方塞がりで暗い小説と評されてきた『門』。じつは作家への大変身を物語る冒険推理小説であり、『道草』はその解決編だった。百年間の誤読に真っ向から挑戦する快著。

この本の目次

第1章 『門』の幾何模様(「ぎろり」はどこに?
護謨風船の達磨
『門』の深層構造―幾何模様の構築)
第2章 『道草』―『門』のアンチテーゼ(漱石の「愛着する趣味」
ベルクソンの時間論と伝記的物語『道草』の時間
『こゝろ』から『道草』へ ほか)
第3章 言説の「文字禍」現象(中島敦「文字禍」の主題
東大入試問題文とその歴史観
批評の「文字禍」と言説の日本語)

読者の感想

2009.6.06 櫑子

著者の漱石作品論第二弾、難しさを覚えながら、嬉しく楽しく拝読。『漱石のたくらみ』での『明暗』の「228」発見同様に、『門』の「幾何」模様の解析は見事です。漱石の頭の動きを手に取るように眺めるなんて!こんな凄いことを体験できた実感は、かって経験したことがない幸福でした。
 『門』が、「日の暮れるのを待つ」主人公ではなく、「真っ白な(文学の)山頂を目指す」主人公を書いたことを、描写された言葉や事柄、事実の一つ一つの積み重ねを、解読することによって、解き明かしていて説得力のある分析です。

 「主題を抽出する方法」は、作品のキ-フレ-ズと構造の発見である、とあります。秋日和の日曜日の夫婦が、何気なく描写されているかに見える第一章に、すべてが集約されていることを、使われている言葉や事態を取り上げながら、全体と呼応させる緻密な読みは反論の余地がありません。幾つかの表によって、分かり易く作品の構造理会に繋げています。言葉や事柄の一つ一つが、作品全体に呼応し、作品を形成していることを、具体的に示し、更に作品構造の「幾何」模様の提示によって、作家漱石の小説作りの内側が、まったく見事に明確に解析されています。
 この百年、読者の、研究者の誰もが、このように隠された「漱石のたくらみ」に気付くことのなかった事実の重さが素晴らしい。
『門』や『道草』の「形式」理会は、漱石作品の論理に根ざしたものとして明示され、漱石が一貫して追い続けたテ-マを明確に示してくれました。文学の真価はそこにこそあるのでしょう。
 文学作品を読むということは、どういうことか。それが、どれほど素晴らしい体験であるかを知らせてくれる作品論です。こうした文学理会の方法を、学生や若い世代に広く知らせ、文学作品を読む楽しみを体験させることが、「文字禍」を無くす近道でしょう。出版社はその責務の一端を担うものですから、その良心が、大いに評価されるよう「弘報啓発」を期待します。

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