社会不安障害 ─社交恐怖の病理を解く

田島 治

人目から逃げたい!

他者の視線を過剰に意識してしまい、日常生活に大きな支障をきたす病、「社会不安障害」。SADとも略称されるこの病の姿と治療の実際を第一人者が解説する。

社会不安障害 ─社交恐怖の病理を解く
  • シリーズ:ちくま新書
  • 748円(税込)
  • Cコード:0211
  • 整理番号:725
  • 刊行日: 2008/06/09
    ※発売日は地域・書店によって
    前後する場合があります
  • 判型:新書判
  • ページ数:208
  • ISBN:978-4-480-06430-1
  • JANコード:9784480064301
田島 治
田島 治

タジマ オサム

1950年群馬県生まれ。杏林大学医学部卒。同大学大学院修了。医学博士。現在、杏林大学保健学部教授(精神保健学)、医学部精神神経科兼担教授。不安とうつをテーマに現代社会におけるメンタルヘルスについて研究、教育、臨床を行なっている。著訳書に『こころのくすり最新事情』(星和書店)、『薬で治すそうとうつの時代』(ごま書房)、『精神医療の静かな革命』(勉誠出版)、デイヴィッド・ヒーリー『抗うつ薬の功罪』(監修、みすず書房)他。

この本の内容

人間にとって不安とは身近なものである。しかし、それが度を越え、日常生活に支障をきたすまでになった場合、不安障害の可能性が出てくる。とりわけ現代においては、「社会不安障害」(SAD)と呼ばれるものが最も多く、対人恐怖がその症状の典型として現れる。本書は、具体的な症例を紹介しながら、病気としての登場の経緯、治療にあたっての留意点、薬に関する知識などを解説し、この病に悩む人々への一助を提供しようとするものだ。

この本の目次

第1章 社会不安障害とはどういうものか
第2章 病気としての登場の歴史
第3章 症状と診断
第4章 社会不安障害への批判
第5章 社会不安の脳と心のメカニズム
第6章 治療の実際

読者の感想

2009.6.02 ミキ

非常にためになった。

2008.7.11 S.S生

私は読み方の一面であろう、いわゆる、「引きこもり」という視点からこの本を読んでみた。今まで、“「ひきこもり、あるいは「引きこもり(長期化した“大人組”は漢字で書く)」を如何に理解するか”、と云った内容をタイトルとするポピュラー本は随分刊行されてきたし、特にこの問題の当事者を抱える親達は随分と“専門家”と称する先生方の講演を聞いてきたように思う。また、藁をも掴みたい思いで、素人ながら医学雑誌の特集や、さらに英語のネット記事の中にSocial Withdrawal (Hikikomori)というキーワードを必死に捜してきた人の居たことも事実であろう。カバーを見て、タイトルの副題の“社交”の訳語は国際感覚的に適切であり好感をもった。上記Social Withdrawalは日本では“社会的引きこもり”と訳されているが、以降、少なからず混乱を招いていると私は感じている。

この本は「ひきこもり」という精神病理の状態像のコインを裏返しにし、そこにある裏側の病理群の実態を表側とし、特に「社会不安障害(社交恐怖症)」を中心としてコンパクトに、しかも極めてグローバルな俯瞰的視座でまとめたものである。国際基準のICD-10やUSAのDSM-Ⅳ―TR基準によれば、「社会不安障害(社交恐怖症)」などの背景病理が研究や治療の直接的対象であって、「引きこもり」は「不登校」や「床に伏す」、「寝たきり」などのように単なる“状態”の散文的記述なのである。

確か、田島先生のホームページで“書を棄て町に出よう”というスローガンをみたことがあったが、この本では臨床的データを挿入しながら、ごく最近にまでの臨床診断や脳生理学の論文、さらに、歴史などをグローバルな視点から展望し、最先端の知見を集約して分かりやすく紹介されていることに特徴があり、今まで類を見なかったものである。特に脳の画像観測による機能研究についての最新の情報も解説されている。

治療については、いわゆる“SSRIを補助剤とした認知行動療法”を中心にその実態が、その注意点を含めて解説されている。真に効果的・効率的な治療技術は実態の科学的な分析に基礎を置くべきことは言うまでもないが、この書を通じて、その方法論が改良されつつあり、実践データが積み上げられていることを感じた。さらに、製薬業界との関係などにも論及されており精神病理にまつわる俗的世界の複雑さも興味深いところであった。

なお、欧米においても“精神科医・治療反対勢力”というもがあるという。日本でも(個性派的)精神論的に走り、理系的アプローチを短絡的に批判する人達は多い。小宇宙と呼ばれる脳の機構、心の働きの神秘は永遠に続く研究の対象であり続けるであろうが、実証的科学の方法論はその治療法の進歩の一翼としての位置を失うことはないであろう。著者の視点は、必ずしも理系感覚に留まらず、極めて幅広く、冷静・中庸的なものである。ただ、さらに欲を云えば、思春期発症のSADの不幸な末(動態論としての重篤化)のひきこもり15年~20年に及ぶ“大人組み”の隠れた実態とその悲劇性への警鐘の一行が欲しいところであった。

「引きこもり」問題に何らかの関わりを持つ人、特に人間関係育成的実践に携わる支援者の“文系”の方々にもぜひ読んでいただきたい書である。そして、真に包括的な「引きこもり」という“こころ病む人々”への支援システムが、広義の医療と福祉の優れた人材を伴って構築されることを願いたいものである。少なくとも、「引きこもり」とは“怠け者”のことという市井の誤解が、これらの科学的知見の普及で少しでも低減されることを期待したいものである。

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