最終選考会は5月9日、三鷹市の文化施設「みたか井心亭」で開かれた。選考委員である高井有一・柴田翔・加藤典洋・小川洋子の四氏による厳正な選考の結果、受賞作には次の作品が選ばれました。
貧しい貧しい村のはずれの、のんのん峠の小さな庵に、
年取った尼と住む「おきみ」。おきみは一人前の村の女になりたいと思っているが、娘宿でもなかなか相手にされない。彼女の慰めは、会いたい人に会える不思議な絵櫃と、ゴゼンボ(瞽女)の唄だった。
絵櫃を覗いては死んだおっ母さまに会い、聞き覚えのある唄を大きな声で歌う。ある日、旅のゴゼンボが庵を訪れ、おきみにじゃみせんを聞かせてくれた。
「そういや、おきみのおっ母さまも、そがな鳴り物ば、持っとらしゃったば」
庵主さまが言った。
牛追いの作次と好き合った、と思うがうまくいかず、名主のうちから嫁に来いと言われたが舅に手込めにされそうになって逃げ出し、おきみの行く末は見えない。
ある日、庵主さまの昔なじみのゴゼンボが庵を訪れ、おきみにじゃみせんと唄を教えてくれた。おきみは優しいおっ母さまを思って峠に歌う。しかしおきみにも徐々に、知らなかった現実が見えてくる。裏切りも死も見えてくる。ついにおきみは、じゃみせんを手に出奔する。
力強い方言で、ゴゼンボの唄のようなうねりを持って語られる物語。
栗林佐知(くりばやし・さち)
1963年10月22日札幌市生まれ。富山大学人文学部卒業。ガラス清掃、版下製作などを経て、小説を書き始める。2002年小説現代新人賞受賞。
受賞の挨拶をする栗林佐知さん | 太宰治長女・津島園子さんから花束の贈呈 |
2006年度の作品募集には1030篇の応募があり、社内の選考で、
以下の最終候補作品を選定しました。
栗林佐知「峠の春は」
二橋文「ラーメンの好きと、どう違うんだ?」
三木等詠「幻の花」