内田百(けん)集成 4サラサーテの盤 ─サラサーテの盤
薄明かりの土間に死んだ友人の後妻が立っている。――映画化された表題作のほか「東京日記」「東海道刈谷駅」などの小説を収める。
【解説: 松浦寿輝 】
薄明かりの土間に、死んだ友人の後妻が立っている。夫の遺品を返してほしいと、いつも同じ時刻にそっと訪ねてくるのだ。はじめは字引、次に語学の教科書、そしてサラサーテ自奏のレコード―。映画化もされた表題作「サラサーテの盤」をはじめ不可思議な連作「東京日記」、宮城道雄の死を描く「東海道刈谷駅」など、百〓(けん)の創作を集める。
東京日記
桃葉
断章
南山寿
菊の雨
柳〓〓
葉蘭
雲の脚
枇杷の葉
サラサーテの盤
とおぼえ
ゆうべの雲
由比駅
すきま風
東海道刈谷駅
神楽坂の虎
2009.12.08 牛坂夏輝
「東京日記」。
一見して、整合性や一貫性が欠如しているように思える。でも、違う。このテクストにはそのような整合性や一貫性に対して、そんなものは鼻から無視じゃ!というような気配がある。それが怪奇的で、夢幻的な、どこか不思議な感覚を与えてくれる。
ここにあるのはバタイユのいう「戯れ」に似ているかも知れない。それは先の見えない子どもたちの遊戯である。
先が見えない。だからこそ、面白い。
月並みだけれど、それってちょっと人生に似ている。
でも、その人生は平凡で退屈なものではない。
だから、私は「東京日記」を読むのだろう。
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