筑摩書房

　アレントの思想は、現代世界への強烈な危機感のなかで構築されたものである。いかにして近代社会は全体主義へと導かれたのか？　人間同士の対話にもとづいた公共領域を取り戻すことはできるのか？　こうした問題意識に応えるべく、主著『人間の条件』は、人間の基本的行為（労働・仕事活動）を分析する。しかし、ここで面白いのは、彼女が「古典古代」に範を採ったことだ。それはちょうど、我々が自分自身をかえりみるとき「古典」を必要とするのに似ている。（A）

　著者は、これまで常識とされてきたさまざまな日本史理解を覆しました。とりわけ注目されるのは、独自のネットワークを形成し、各地を自由に往来した非人・河原者・遊女などの職能民、また悪党や海賊などをクローズアップしたことです。
ここから、隆慶一郎の時代小説の魅力ある登場人物も生まれました。いや、本書自体が、これから書き替えられるべき日本通史をテーマとした壮大な物語へのプロローグといえるでしょう。（ I 1）

　大衆社会論の嚆矢、二十世紀の古典です。本書の予言と警世は、八十年の時を経てますます切実になっている感があります。大衆とは自己完成への努力をせず、優れた者（著書のいう「真の貴族」）の声に耳を貸さず、与えられた豊かな環境に慢心し、権利のみを主張する存在で、その大衆が社会的権力の座を占めたところに現代の危機があると著者は喝破しました。さて今の日本、どうでしょう。私、どうかな……。今への視座を与えてくれるのが真の古典ですね。（M）

　加藤周一氏の没後、大江健三郎氏は講演で「加藤さんは日本にありえたインテレクチャルライフ（知的生活）のなかのもっとも大切な一人」と語りました。自らの桁外れに幅広く深い知識と教養を惜しみなく注ぎ込んだ本書は、著者の代表作。これを読めば、日本の文学・思想・宗教・歴史の流れを掴め、そのダイナミズムを感じることが出来ます。本書は海外でも評価が高く、英・仏・独・伊・韓・中・ルーマニア等の各国語に翻訳されました。（T）

〈情報〉を伝えるとはどういうことか？　自分の〈意見〉を述べるとはどういうことか？　この〈情報〉と〈意見〉の違いをはじめ、いくつかの大原則さえおさえれば、自在に論を組み立て、人を納得させることができる。そんな驚きの体験をさせてくれた一冊です。実践的な技を伝授してくれるのみならず、人にものを伝えることのおもしろさ、大切さにまで気づかせてくれる名著。社会人も大学生も、レポートを書くときはぜひ片手にこの小さな一冊を！（H）

　複雑な人間関係について考えるときには、必要な要素だけを取り出して、うまい「モデル」を作れるかどうかが肝心だ。フォン・ノイマンとモルゲンシュテルンは数学を道具に使って、「協調」や「結託」といった人間行動さえも数学的に記述できる「ゲームの理論」を確立してしまった。稀代の天才がこの世の中をどうやって切り取って、数学の世界へと昇華させていったか、その発想の妙を存分に味わってください。（E）

「小教程」は知っていますか？　山本義隆氏に教えられたのがこの本でした。長大になり過ぎた「大教程」入門書としてランダウ自らが再構想した伝説の物理学教科書です。学問の背景や醍醐味、また想像を絶する人間ドラマまで情理を尽くして描きこまれた山本氏の文庫版「解説」は、ランダウ=リフシッツに魅了された氏ならではのもので、この味わい深い解説だけでも本書の価値はある、と確信しています。文系の方にもお勧めです。（ I 2）