それなりに生きて、それなりに死んで/しりあがり寿

 群さんの『それなりに生きている』を読んだ。
 むしょうにペットを飼いたくなった。今までペットを飼うとかあまり縁がなかったのに、群さんのエッセイを読んでなんだかホントにペットを飼いたくなった。
 うーん、群さんみたく猫でも飼うか、しかし猫ってのはなんだな、ふてぶてしそうだな、こっちが餌をくれてやって当然だと思ってるふしがある。ボクも何度か友人の家で飼われている猫を見たり、路上生活猫などしょっちゅう見かけたりするが(仕事場の近くに猫の多い道があるのだ)、どうも、奴らは人間に対する尊敬というものに欠けている。要求はしっかりするくせに、人さまに何かを与えようという気遣いがまるでない。奴らが猫でよかった、人間だったらしつけがなってないだの、協調性にかけるだの、通信簿の連絡欄は最悪で、みんなから親の顔が見たいとか言われるタイプだものな。
 カメはどうだ? カメはいいぞ、飼うのが楽そうだ。水槽とかに入れておけば大人しくしてるし、けっこうでかくなるし、ウチの弟がカメを飼っていたが五センチくらいの子ガメがいつのまにか三〇センチとか超えててビックリした。あれは手がかからなくて楽そうだった。見たところいつもキャベツとか食わせてたものな、食費もかからない、音もしない、匂いもしない、これはいい。でも、ちょっと物足りないんだよな、だって一緒に散歩とかできないものな。坂の下のコンビニまで行くのにカメと散歩してたらいったい何時間かかるんだろう? 散歩だけじゃなく、頬ずりとかできないのがイヤだな。みんなペットに頬ずりするでしょ。でもカメはダメだ。肌が甲羅ですり傷だらけになる、それでもなお「カワイイでちゅねー」をやったら肉がこそげ、自分もカメも血まみれになるものな。
 他にもペットといえばウサギや小さなサルや大きな蛇やいろいろあって、なんなら自分が女王様のペットになるなんて特殊な選択肢もあるにはあるかもしれないが、あっちはあっちでそれ相応の素質や努力が必要とされそうだ。
 そうだな、そうすると飼うとしたらやっぱり犬かな、あいつら人間様に従順みたいだしな。でもチッチャイ室内犬はなんかキャンキャンいいそうだし、犬っぽくないからパス。それからシェパードとかシベリアンなんとかみたいに強そうなのはどっちが御主人さまか分からなくなりそうなのでパス。そうするとやっぱり柴犬とかあーゆー中くらいの凜々しい犬がいいな。
 犬かー、ホントに犬飼おうかなー。
 うーん、実は犬については大昔、飼ってたことがあるのだ。
ボクが小学校のころ、黒のスピッツで確かミッキーという名前だった。僕たちがかまってやらないせいか、ちょっと近寄るとすぐじゃれついてきた。小さい子供のころはそれがなんかうるさかった。
 毎日ちゃんと散歩に連れていく人間もいないので、いつのまにか首輪のところがすれて傷になっていた。結局世話は親まかせ、死んだ時もめんどうを見なかった。
 昔、一匹の犬をちゃんと飼うことができなかった、もしかするとそんな思いがボクをペットから遠ざけていたのかもしれない。
 幼いころは生き物が「死ぬ」ということを素直に受け入れられなかったのかもしれない。
 だから生きている犬のミッキーよりもオモチャのゴムの蛇で遊んだし、成長してからも、もっぱら育てたのはゲームの中のペットやキャラクターだった。
 でも群さんの本を読んでいると「老いる」ことや「死ぬ」ことが自然に受け入れられるような気がしてくる。自分の親は、誕生や成長が見られず、自分の子供はその死を看ることができない。その点、ペットは自分の目の前で成長し、そして死んでゆく。生の始めと終わりを看ることができる。
 彼らはみな超人的な生や完璧な生を送るわけではない。ぼやいたり、失敗したり、ボケたり、皆「それなりに生きている」のだ。おそらく、それは人間だって少しも変わらない。
 ボクも、「それなりに生きそれなりに死ぬ」、それを受けいれなくちゃな。受け入れられる歳に自分もなっていることに気づいた。……そうだな、もう一回犬を飼ってみたいな。ボクに飼われる犬は可哀そうかもしれないけど。(しりあがり・ことぶき 漫画家)

『それなりに生きている』 詳細
群ようこ著

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