「東京右半分」焼き芋論/戌井昭人

 東京都が焼き芋だとします。形も似ています。その右端をつまんでもぎ取った部分が東京右半分です。口にすると甘くてホクホクですが、小さな石コロが混じっていたり、焦げていたり、突然苦かったり、火傷をすることもあります。
 つまんでもぎ取った部分、右半分は、残った焼き芋に比べると、ぶっきらぼうで、独特で、変テコで、むき出しだったりします。取り繕っていません。もしくは取り繕っていたとしても、見当違いの方へ行ってしまっている。こんな印象があります。
 右半分で、下町情緒や老舗を意識せず、そんなの関係ないと思っている人間やコミュニティー、資料館、飯屋に飲み屋にギャラリー、健康ランドにフィリピンクラブなどは、脈絡がないようで、どこか繋がっている感じがします。
 気取りがなく、落ち着いた雰囲気や、まったりした感じも皆無で、無駄を捨てて、いい感じのデキる人間になろうなんて驕った考えはなく、拾い続けていたら無駄だらけになってしまっている有り様です。
「なんで、こんなことになっちゃったの?」
「この人だいじょうぶ?」
「どうしてそんなこと考えちゃってるの?」
 このような疑問が、本書を読んでいると浮かんでくるかもしれませんが、そんな疑問は無意味なので直ぐに止めましょう。
 なんでもありなので、カオスが渦巻いているのですが、都築さんはスカッと爽快に、「カオスなんてどーでもいいんじゃないの」といった感じで、右半分を紹介してくれているので、それに便乗しちゃいましょう。
 物事には流行りすたりがありますが、その流れに乗り遅れないために躍起になっている人間や街を横目に、右半分は好き勝手に、そして独自の方法を見つけながら流れているのです。
 アンダーグラウンドな面もあるし、閉鎖された感じもあるのですが、オープンにして突っ込んでいくのが都築さんの醍醐味で、読んでいるコッチも一緒に突っ込んで、受け入れられた気分になってしまいます。
 自分は、右半分の合羽橋辺りに住んでいたのですが、その頃は、やたら街を歩きまわり、目的もなく自転車をのりまわしたりしていました。だから本書には、行ったことのある場所や通っていた店も登場します。でも知らないところも多く、情報量が半端じゃないので、近くにこんな場所があったのかとか、街でよく見かけた婆さんは競馬が好きだったのかとか、不思議な店名の看板を掲げてる店の実態とか、驚きがたくさんありました。
 恐るべし右半分。恐るべし都築さんのフィールドワーク。自分はあれだけ街を散策していたつもりだったのに、奥はまだ深かったのです。奥には奥があって、またその奥がある。表面ではなにもわからないけれど、エネルギーは準備万端で、マグマがフツフツしている。
 これが都築さんいうところの「現在進行形の東京」かもしれません。ハリボテ東京ではなく、熱々の焼き芋東京です。
 本書では、右半分で独自に活動をしている人が多数紹介されていて、都築さんは、クリエイティブなパワーバランスが確実に東、右半分に移動しつつある、と言っています。
 真ん中あたりのミッドタウン、洒落た場所(どこが洒落ているのかよくわからないけれど)にしがみついて、イモな生活をしたいのならば別ですが、軽やかに洒脱に、そしてエネルギッシュに生きたいのならば、やはり右半分なのだと思いました。
 右半分にはエネルギーをもらったり、放出したりする場所がたくさんあります。パワースポットとかいう安っぽくて滑稽な場所ではなく、人間が放出する、わけのわからないパワーをもらえる場所なのであります。
 スカイツリーもオープンするので右半分にやってくる人が増えるでしょう。でも、のぼってばかりではなく、その下に広がる右半分を体感し、街のソウル(魂)を垣間見ながら、散歩したらいいと思います。そのときこの本は素敵なガイドブックになるでしょう。もしくはこれからの人生を考える指南書になってしまうかもしれません。
(いぬい・あきと作家鉄割アルバトロスケット主宰)

『東京右半分』 詳細
都築響一著

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