そして大人は「少女」になる/辻内千織

 青春とは、甘酸っぱくてどこか気恥ずかしいが若いパワーにあふれているものだ、と、したり顔で大人たちは言う。青春は、若かりし日々を思い出すときに生じる、青春期を過ぎた大人が持つ概念なのだと私は思っている。
 大人たちが「青春」と呼ぶその日々は、私にとってはとにかく窮屈だった。女子中学生、女子高校生という枠組みの中、「きみたちは今、人生でもっとも輝かしい時期を生きているんだよ!」と笑顔で諭され、物事の善悪は大人が勝手に決め、私たちはテストの点数と運動神経だけで評価されていた。誰もわかってくれない、と苛立ちながら、いつもどこか孤独で不安だった。
『“少女神”第9号』に書かれているのは、きらきら輝く青春の姿。窮屈な青春生活を送っていた私たちの憧れそのものだ。とびきりキュートな未知の世界。ここに登場する少女たちはみんな、めちゃくちゃカッコイイ。彼女たちはたとえば、自分が好きなものが明確にわかっていて「少女神」というZINE=同人誌でそれを表現できる。ロックやヘビメタに夢中になれる。たとえば、高校最後の日にボーイフレンドとゴールデンゲートブリッジをドライブして渡ることができる。自分の魅力を十分にわかっていて素敵な男の子がいればすぐに落とせてしまうし、自分の父親を探しにひとりでアメリカ大陸を横断してハリウッドにまで乗り込む行動力を持っている。彼女たちは親友に恵まれていて、おしゃれでダンスがうまくて、突飛で陽気で自由だ。一行ごとに彼女たちの内側からあふれるポップでキュートな生命力が、弾けてきらめき、私たちを魅了する。
 それでもやっぱり、それだけじゃないのが青春だ。『“少女神”第9号』においても、そう。かっこよく見える少女たちの中には母親が自殺している子もいれば、父母ではなく母親がふたりいる子もいる。異性を愛せない少年に恋をする少女もいれば、卒業して親友と離れることを悲しがったり、ボーイフレンドの肌の色を悪く言う友達の言葉に傷ついたりする子もいる。一見、自由奔放に見える彼女たちの行動は、実は窮屈さから逃げ出そうともがいている、どこにでもいる若者の姿なのだ。ポップでキュートな彼女たちは雲の上の存在ではなく私たちそのものなのだと読み進めるうちにわかってくる。誰もわかってくれない、と彼女たちが叫ぶ時、『“少女神”第9号』は私たちの良き理解者へと姿を変える。セックスもドラッグも死も内包する、異端の(そしてそれが故に真の)理解者になる。
 私の一番のお気に入りは「レイヴ」で、これは本書を象徴するような、短いながらも完成度が高く、とにかく美しくて淋しい作品だ。語り手の少年の目から見たレイヴという最高にクールな少女を描いている。彼女はその美貌で、ライヴ後の楽屋に入り込みロックスターとのセックスとドラッグを味わい、翌朝はそいつのリムジンに乗って登校してくる恐るべき十五歳。語り手のぼくは刹那的で自傷的なレイヴの脆い美しさを真摯に見つめ続ける。恐らくは何かしらの事情を背負っているレイヴの姿は、程度は違えどもそれぞれにやはり何かしらを抱えている青春期の私たちの姿でもあって、不器用な彼女の生き方を受け入れ肯定する少年の視線を通して私たちは自分自身を許し、受け入れる。
 さて。青春期を過ぎた大人諸氏、大人になってあなたは自由になった? 私は、青春期から全然変わっていないなあと感じる。物事の善悪は世間が勝手に決め、見る目のない上司と支払われる給与だけで評価されて、誰もわかってくれないと今も心の隅であの頃の私が叫んでいる。だから『“少女神”第9号』は今も私の親密な理解者だ。たぶんこれからもしばらくそうであり続けると思う。こんな素敵な理解者に出会えたことに、私は心から感謝している。
(つじうち・ちおり 書店員)

ちくま文庫
フランチェスカ・リア・ブロック著/金原瑞人訳860円+税

    2008

  • 2008年1月号
  • 2008年2月号
  • 2008年3月号
  • 2008年4月号
  • 2008年5月号
  • 2008年6月号
  • 2008年7月号
  • 2008年8月号
  • 2008年9月号
  • 2008年10月号
  • 2008年11月号
  • 2008年12月号

    2007

  • 2007年1月号
  • 2007年2月号
  • 2007年3月号
  • 2007年4月号
  • 2007年5月号
  • 2007年6月号
  • 2007年7月号
  • 2007年8月号
  • 2007年9月号
  • 2007年10月号
  • 2007年11月号
  • 2007年12月号

    2006

  • 2006年9月号
  • 2006年10月号
  • 2006年11月号
  • 2006年12月号

「ちくま」定期購読のおすすめ

「ちくま」購読料は1年分1,000円です。複数年のお申し込みも最長5年まで承ります。 ご希望の方は、下記のボタンを押すと表示される入力フォームにてお名前とご住所を送信して下さい。見本誌と申込用紙(郵便振替)を送らせていただきます。

電話、ファクスでお申込みの際は下記までお願いいたします。

    筑摩書房営業部

  • 受付時間 月〜金 9時15分〜17時15分
    〒111-8755 東京都台東区蔵前2-5-3
TEL: 03-5687-2680 FAX: 03-5687-2685 ファクス申込用紙ダウンロード