沖縄メディアバッシングと「賛成派」の虚像/三上智恵

「沖縄とアラブのマスコミは似ている。反米、反イスラエルでそれ以外は出てこない」。沖縄担当・防衛大臣も務めた小池百合子さんの発言だ。「沖縄のメディアは県民を全て代表しているとは思わない」。政府の沖縄メディア批判は年々あからさまになっている。昨年末、辺野古の基地建設に向けた埋め立てを承認してしまった仲井眞沖縄県知事も、今年四月「県内紙は読んでいない」と衝撃発言をした。公約を破る知事に県民を代表する資格があるのか、と正論を展開する地元二紙の論調がよほど気に障っていたのであろう。
「沖縄のメディアは基地反対の意見ばかり報道する。賛成派も出すべきだ」という批判は常にある。確かに、もしAさんとBさんが争っていたら、メディアは両方の意見を報道すべきだ。しかし基地に反対する県民が対峙するのは、沖縄の賛成派なのだろうか? そもそも、沖縄に純粋な「基地賛成派」はいるのだろうか?
 公正中立を掲げる放送局は、基地容認派を画面に出そうとする。すると、全国の視聴者は「沖縄には両方の意見があるのね。背に腹は代えられないものね」と自身が沖縄に負担を強いる国策を支える一員だという罪悪感から逃れられる。私達が安易に賛成派を描かないのは、問題の構図を見えにくくしかねないからだ。
 敗戦し、米軍に土地を奪われた沖縄。元々、基地建設に賛成する人などいない。いるのは、日米両政府にはとてもかなわないと諦め「基地と折り合う」選択をした人と、初志貫徹で基地に反対する人だ。
 サンフランシスコ講和条約で日本が占領を解かれた後、沖縄は「土地収用令」(一九五三年四月公布)に基づく「収容通告」一枚でブルドーザーに敷きならされた。泣く泣く基地と折り合って生活を立て直してきた人々が、今になって「基地のお金がないと困る賛成派」だと都合よく色づけされるのは不当だ。
 例えば、いよいよ埋め立てが迫る辺野古。辺野古はかつて自分からキャンプシュワブの建設を受け入れたと揶揄する人がいるが、それは違う。一九五五年、米軍は辺野古岳、久志岳一帯の接収を宣告。辺野古区民は震え上がった。当初は反対するが、受け入れないと住宅地も取ると迫る米軍。同時期、那覇市銘苅や安謝も畑や墓まで潰された。伊佐浜、伊江島も逮捕者を出して抵抗をするも家を焼き払われた。当時リーダーだった古老は言う。「とてもかなわない。ならば、ただ取られるより子孫のために命がけで米軍と交渉しよう」。
 電気・水道・雇用。辛くも勝ち取った条件で、キャンプシュワブ周辺は別天地のように賑わった。当時「これ以上一坪たりとも渡さない」と島ぐるみ闘争に入った沖縄では、辺野古の選択を白い目で見る人もいただろう。だからこそ余計に辺野古区民は、国も県も頼れない窮地にあっても堂々と米軍と交渉し実を取ってきた地域のリーダーたちを肯定し、父や祖父の選択に誇りを持とうとした。軍と独自に交流し、もめ事をなくす努力もしてきた。親族の中に必ず米兵と結婚した女性がいるような地域で、基地反対と言い続けるのは難しい。でも、沈黙も、思考停止も、容認も、「賛成」とは違うのだ。
 歴史を見ずに「辺野古区は賛成」等と書くのは暴力的だと地元ジャーナリストは熟知している。賛成・反対の二元対立では基地問題の本質は見えて来ない。
(みかみ・ちえ 映画『標的の村』監督)

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