イメージ論を経巡る・1 フータモと機械のトポス/石岡良治


 学術書を読むのが困難な理由としてしばしば挙げられるのは、本文と同時に注記や文献表をたどることの煩雑さであろう。この煩雑さは、どの学問にも要求される前提知識を深め、習熟していったとしても完全には解消されない。「本を読む」活動のうちには、本文の論述を明快に理解することだけではなく、異なるオーダーに属する情報源の間を「経巡る」探索行為が含まれるからだ。
 ゆえに、典拠から典拠へと「経巡る」ことに何らかの楽しみを見出すことができるなら、煩雑さの印象は一変する。筆者自身の読書及び執筆の経験をふまえて言うならば、本を読むときにまず「目次」や「あとがき」から入るという、広く見られる実践がすでに「経巡る」行為の端緒である。たとえ同一著者が執筆したものであっても、一冊の書物には幾層ものレイヤーが束ねられており、本文と「あとがき」が異質なオーダーに属することは、まさにその典型であろう。
 このような発想には、一種の誇張的極論が含まれていることは否めない。一人の人間をも「異質な典拠群」の連なりとみなす一般化を伴うからだ。けれども筆者は、近年の視覚文化論にみられる広義の「イメージ論」の展開に接することで、こうした発想をさらに推し進めることができるのではないかと考えている。
 すなわち、エルキ・フータモの『メディア考古学』(太田純貴編訳、NTT出版、二〇一五年)を読むことで、以上の発想が浮かんだ次第である。メディアアートや「映像装置」の研究で知られるフータモのアプローチは、ベンヤミン、フーコー、キットラー等、すでに古典となった典拠群に連なりつつ、『ヨーロッパ文学とラテン中世』で知られるクルツィウスの「トポス」論を換骨奪胎しつつ用いていることが重要だ。フータモの「考古学」の対象には、「ニューメディアの前史」の実証的調査だけでなく、「機械の中の妖精」など、メディア文化に繰り返し現れる「トポス」も含まれる。第4章の「万華鏡のトポス」や第5章の「スロット・マシーンからアーケードゲームに至る系譜」は筆者の関心とも重なり、大きな示唆に富む。
 フータモが「トポス」に静態的な「元型」ではなく、動的な再編可能性を見ていることは、近年の多くのイメージ論の関心とも一致する。このことを敷衍するなら、「イメージ論」の著作群を読むときにも、研究対象であるメディアや「イメージ」の経験と同様の事態を見出すことができるのかもしれない。
 もちろん「イメージ」と「イメージ論」に類似関係はないので、アナロジーの罠には注意が必要だ。けれども筆者が情報源を「経巡る」探索行為を「アーケードゲーム」から学んだように、学術的なイメージ論を読み進めていく行為にも「イマジネーション」の作動を見いだすことができる。首尾よく煩雑さを楽しみへと変換し、論旨の理解と結びつけることができるならば、典拠から典拠への探索行為が鮮明な像を結ぶかもしれないのだ。
 以下、書物は膨大な参照からなるネットワークにおけるひとつの結節点なのだ、という直観を手掛かりに、いくつかのイメージ論を経巡ってみたい。

(いしおか・よしはる 表象文化論)

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