セイゴオ流気体的達人指南書/中村 昇

 今日は、小細工をせずに淡々と(?)お話ししましょう。松岡正剛さんについて書くんだから、素直にいかなければ。憧れの人だからね。ほかの本にも書きましたが、松岡さんには、10代の終わりにであって、ずっと影響を受けていました。最初のころは、彼がだす本をぼろぼろになるまで全部読んでいたような気がします。
 この文章書くために、本棚を探ってみたら、でてくるでてくる。『自然学曼陀羅』(銀色のカヴァーが、白くなってしまっている)、『二十一世紀精神』(津島秀彦さんは、いまいずこ?)、たくさんの『プラネタリー・ブックス』(これは、「遊学する土曜日」の記録ですね)、そしてセイゴオ・マーキングがすでに入っている対談本『遊学の話』。とどめは、もちろんご存知『存在と精神の系譜』(雑誌『遊』の特集号)ね。これは、いまは『遊学』というタイトルで中公文庫から出ています。
 いや~、ほんと好きだったんですよ。『17歳のための世界と日本の見方 セイゴオ先生の人間文化講義』とか『白川静 漢字の世界観』(これは、名著!)とかが、とても売れているらしいけど、なんか「ざまぁみろ」っていいたくなりますね。なんでしょうね、これ。「時代は、ドゥルーズのものになるだろう」っていうフーコーの言葉がありますが、「時代は、セイゴオ先生のものになるだろう」って、30年以上前に考えていたからですかね。
 いかんいかん、ただのおやじの昔話になってますね。真面目に、もっと淡々といかなければ。それでは、すこし、ちゃんと書きますね。気持ちをいれかえてっ、と・・・・・・。
 なぜそんなに松岡さんに影響を受けたかというと、この人が、いままでのだれとも似ていなかったからです。たとえば、吉本さんとか、小林秀雄とか、南方熊楠翁(この人も、松岡さんも同じ漢字が、氏と名にそれぞれ入っていますね、どうでもいいけど)とか、いろいろ好きな人がいたけれども、どの人ともちがう。西洋の学者とも似ていない。
 松岡さんは、ただの博学多識でもなく、もちろん趣味人でもなく、文学者でも芸術家でもない。なんでも知っているし、文才も理系のセンスもすごくいいものをもっているけど、どこにもとどまっていない。真の意味での「自在」を体現している。何にいちばん似ているかというと、おかしなたとえだけれど「気体」です。
 どんな分野でも、気体のようにすっと入っていき、その最も中心のところを何の苦労もなく手にいれてしまう。そんな感じなんですね、セイゴオ先生は。これは、だれにもできることじゃない。ひとつの専門だって、その「中心部」をつかむには、相当時間がかかるし苦労する。だから、松岡さんの「気体」的あり方が、とても不思議だったんです。どうしてこの人は、こんなことができるんだろう、って。
 今度でる『多読術』を読むと、その秘密がね、わかりますよ(笑)。今までだって、いろんな本に少しずつ書かれていたし、「遊学する土曜日」やほかのところで話されていたことも入っているけれど、こんなに松岡さんの方法論がすべて開陳されるのは、初めてです。これを読むと、松岡さんが、「方法の人」だということがとてもよくわかります。闇雲に何かをするのではなく、方法をとても大切にしている。だから、ものすごく(!)参考になります。
 この本が刊行されて以降、これを読まないで本を読む人は、鼻で字面を嗅いでいる(?)ようなものになるでしょう(うまい比喩が見つからなかった。いいたいことは、「まったく本を読んでないに等しい」ということです、念のため)。それに本書は、松岡さんの自伝としても読めます。だからお買い得。意外だったのは、いろんな意味で、セイゴオ先生が、晩生だったということです。これは、びっくりしました。
 こうして、『多読術』を読み、感想を書けるなんて(涙)。松岡正剛という人と同じ時代を生きてきて、本当によかったとしみじみ思います。これじゃ、まるでラヴレターだね(笑)。でも、しょうがないじゃん、ほんとのことなんだから。
(なかむら・のぼる 中央大学教授・西洋現代哲学)

『多読術』
松岡 正剛
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