「第三の縁」を育むコミュニティ/アサダワタル
この度、自宅を無理なく開くことで小さなコミュニティを生み出す「住み開き」という考え方について、書き下ろしました。提唱の背景として、日常生活から生まれる個人の表現、そして現代社会におけるコミュニティのあり方、この二つに対する自分なりの考えをこれから語ります。
僕たちは都市に生きながら、様々な空間に対して無意識に役割を与えている。ここは買物をするところ、ご飯を食べるところ、仕事をするところ、恋人とデートをするところ、友人と遊ぶところ、一人で休むところ……といったように。この役割に対応する空間として、例えばショッピングモール、レストラン、オフィス、公園、カラオケボックス、自宅などがあてられる。ここではその空間における自分の役割も無意識の下につくられ、ある時はサービスを受けるお客になり、またある時はサービスを提供する従業員になったり。例えば、お金を払って飲食しているレストランでは自分で洗い物をしたりはしないだろうし、逆に従業員であればお客に皿洗いを要求することはできないだろう。この場合、お金さえ交換されていれば、お互いが各々の役割を果たすだけで、形式的にはコミュニケーションが成立してしまう。公共施設であっても税金が投入されている以上、市民サービスという名で利用者側と施設側とのコミュニケーションの在り方は大体にして固定的と言えるのではないか。
でも世の中、お金だけが、空間/人間の役割の根拠になっているわけではないはずだ。無縁社会が叫ばれるこんな時代だからこそ、お金に還元されない役割として、小さいながら意義のある活動を社会に投げかけ、他者と他者を繋ぎなおしている人たちもたくさん存在している。そういった人たちが語り合う場では、もてなす側/もてなされる側といった関係性を超えた、フラットなコミュニケーションが発生し、そしてその多くは、個々人の「家」を舞台に繰り広げられていることに気づいた。そう、これが僕が考える「住み開き」という発想だ。
例えば友人たちと気軽に語らい合うホームパーティーのようなよくあるものから、造園プランナーによる自宅屋上農園カフェ、近所の子どもが集う絵本図書館や洞窟博物館、和室二畳分を活用した大学、元カラオケボックスを活用したクリエイターによるアトリエ兼シェアハウスなど。
実は僕自身も、住居マンションの一室を数人でシェアし、異業種交流サロンとして運営していたこともある。開く理由は十人十色だが、共通している点は、無理せず自分のできる範囲で自分の好きなことをきっかけにちょっとだけ開いていることだ。また同時に昭和初期の地域コミュニティにあるような開きっぱなしというのとも違い、彼ら彼女たちの「私」を軸とした「自己表現」として成立しているように思える。しかしただのエゴではなく、その延長線上にはしっかりと様々な人たちが集えるコミュニティが発生している。それは、金の縁ではなく、血縁も地縁も会社の縁をも超えたゆるやかな「第三の縁」を育むコミュニティなのだ。
本書は東京、大阪など都市部を中心に全国三十一カ所の住み開き実践者たちのエピソードを紹介しながら、これまで斬新な社会活動を世に問い続けてきた三組の諸先輩の方々(三浦展、田中恒子、「素人の乱」の松本哉、山下陽光の各氏)との対談、そして取材から見えてきた僕の雑感コラムによって構成されている。取材中には東日本大震災も発生し、よりいっそう、新たなコミュニティ像を社会に提唱する必要性を感じつつ、同時に、とても悩みながら執筆をしてきた。これからの日本の日常生活における自己表現の未来、無縁社会やソーシャルメディア時代通過後のコミュニティの未来をなんとか書き切れたと思う。本書を通じて一人でも多くの人たちが気軽に住み開きを試したり、自分たちが暮らすコミュニティの価値観をユニークに捉え直すきっかけを作れたら本当に嬉しい。
(あさだ・わたる 日常編集家)
『住み開き――家から始めるコミュニティ』 詳細
アサダワタル著
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