対談集なんてつながってりゃいい?/三島邦弘

『橋本治と内田樹』――。ずばっとお二人の名前を冠した本書、中身も贅沢なくらい充実の面白い対談集だった。
 構図としては、作家・橋本治と「橋本治ファン」内田樹が対談したもの。まさに「作家とファンの夢の対談」。といっても、読者抜きな放談では決してない。真逆だ。「『桃尻娘』以来四半世紀に及ぶ橋本先生のファンなんです」(内田)。冒頭のこの一行で読者も橋本ファンになった気分になる。そして公開ラジオ対談の「観客」として、二人の息遣いなんかを感じつつ、以降十時間ほど続く、濃ーいライブに時を忘れることになる。
 とはいえ、最初は何がなんだかわからない。それもそのはず、話者の一人は「ピンクのゾウリムシ」みたいな「公共性の化け物」であり「左肩に性感帯がある」人なのだ。一筋縄でいくワケがない。けれど、「なんだかよくわからないけど面白い」という感覚だけは漂っている。なにせ、観客も内田氏同様ファン化しているのだから。もっとも実際にはそれも、橋本氏の「話芸」に魅せられているからにほかならない。たとえば、本文にこんな記述がある。「八〇年くらいから「すいません」という人間はいないな、というのは知っていました」(橋本)。で、すぐ次のページでは、「八〇年代になってから「ごめんなさい」「すいません」という人は増えたという気はあるんですよ」(橋本)と言っている。大真面目に! これには内田氏もすかさず突っ込みをいれ、「さっきと話が全然違うじゃないですか(笑)」と観客を巻き込んでの爆笑を誘う(もちろん橋本氏のオチはちゃんとあるので、詳しくは本書を)。とにかく、万事がこの調子でお客を傍観者にはさせてくれない。「対談集なんてつながってりゃいいとしか思ってない」と言いつつも、「芸人はお客さまのため」と語る橋本氏の高度な芸が、そこここで炸裂し、いつしかお客を巻き込みつつ魅了しているのだ。
 一方の内田氏は「僕ね、対談うまいんです」と自称するほどの対談名人。こんな二人が話をすれば、どんな話題だって面白くなってしまうのも理(ことわり)というものだ。事実この本が扱うテーマはあまりに多岐にわたっている。ざっと列挙しても……全共闘、桃尻娘、タイトル付け、中村伸郎、「、」と「………。」のタメについて、レヴィナス、メルロ=ポンティ、小説の主人公になる人、小林秀雄、伝説のおばさん、ファッション、タバコ、三島由紀夫、官討(かんうち)・位討(くらいうち)……と、きりがない。もっともこれもほんの一部で、もしかすると扱っていないテーマを挙げる方が簡単かもしれない。いずれにせよ、こうした個々のテーマがいちいち面白く、役立つ話ばかりなのだ。しかもそれだけで終わらないのが、本書のすごいところ。橋本治ファンかつ学者であり稀代の批評家でもある内田氏の「眼」を通して、「天才解明」という大事業の恩恵に浴することができるのだ。「プライベートな部分ぜんぜんない」橋本氏はどうしてできたのか? どういう本の読み方をするのか? どんなふうに小説を書いているのか? あの「スピード感がある」文体はいかに可能か? こうした本質的疑問の一端が本書で明らかにされている。たとえば、「説明するものがない小説は、自分のことを語るだけになってしまう……(小説は)説明するディテールをいっぱいとったものの方が勝ち」という指摘は、書くことを本業にしていない人にも有用だろう。また、「ちゃんとした紹介が最大の批評」「経営者であることの誇りとか、実力とか、美しさとかみたいなものに、何かもういっぺん立ち返るしかない」といった言葉に身につまされる人も多いはずだ(事実私がそうだった)。
 これまで誰も批評しなかった(し得なかった)橋本治という人がぐっと近くに感じられる、「橋本治研究」の貴重本であると同時に、「この本には「重要なこと」なんかろくにない」と言う橋本氏の心配をよそに、重要な示唆に富んだ本でもある。お二人のファンの方はもちろん、全く知らなかったという人にも読んで欲しい。優れた芸と批評眼に担保された本書は、そんじょそこらの対談本とは深みも奥行きも面白みも全く違いますから。
(みしま・くにひろ 株式会社ミシマ社代表、編集者)

『橋本治と内田樹』
橋本治/内田樹
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