穂村さんおもしろい/南 伸坊

 私は、あんまり本を読まない方である。これは私が本を読むのがヘタなせいだ。とっても時間がかかる上に、長続きしないので、なかなか読み終わらない。
 ところが、時々めざましくハカのいく読書というのもある。どういうときかというと、読んだ本がおもしろかった時だ。
「おもしろいなあ」
と思うと、本はどんどん読めるのである。
 これを要するなら、私はおもしろい本が好きだ。おもしろい本ならずんずん読める。おもしろいなら小説でも短歌でも好き。
 さて、私はこの穂村弘さんの対談集の紹介文を頼まれたことで、私のいままでのこういう読書に対する自分の態度をちょっと反省した。
 私は編集部から、この稿の依頼を受けた時、次のように応えたのである。
「オレ、あんまり本読まないし……小説とかも読んでないし、短歌、苦手だし」
 つまり、その役はほかの人なんじゃないの? と言った。このこと自体は今も反省していない。やっぱり、本を紹介するのは、たくさん本を読んでいる、いろんなことがわかってる人がした方がいい。
「ああ、でも……」と編集部は言った。
「穂村さんて、おもしろいですよ」
 え? おもしろいのかよ。と私は思った。
 おもしろいんなら好きだからね。で、編集部はPR誌「ちくま」の7月号を送ってくれた。
「どちらも本当の私ではない」ってフレッド・ブラッシーが言ったって話がのってる号。
 私は原稿を引き受けた。穂村さんはおもしろい。それで最近出た『にょにょっ記』って本も買ってきて読んだ。
 ズンズン読了してしまった。
 おもしれえなあ、と思って『整形前夜』って本も買ってきてこれもツルツルっと読んでしまった。
 そうして、反省したのである。穂村さんがおもしろい、っていうのは、きっと世間では常識だったはずだ。で、本も沢山出ていた。
 それを知らないままでいたっていうのは、「おもしろいものなら好きだ」って言ってる人間としていかがなものだろう。
「そんなに好きじゃないんじゃねえの?」といわれてもしかたない、と思った。
 でも、好きなんですよ、おもしろいのは。
 さて、それで、この穂村弘さんの対談集ですが、どうだったか? っていうと、
「ものすごくおもしろかった!」
 わけではない。なんか、妙におもしろかった。
 何がいいたいのかというと、これは穂村さんを私よりも沢山読んでいる人、それから、穂村さんと対談をした人々の本も読んでいて、話題にされてる「小説」や「短歌」が好きな人なら、もっともっとものすごくおもしろいだろうっていうことだ。
 私が読んだ、穂村さんの二著『にょにょっ記』『整形前夜』のおもしろさと、この対談集のおもしろさというのは違うものだ。二冊の本を読んだことで、私はこの対談集もおもしろかった。
 こんなふうに妙なことに気がついたり、考えたりする人が、こんなに深刻に真剣に思いつめたりしてたのか。
 なぜ書くのか、書くっていうのはどういうことなのか、と、そんなことを考えながら書いていたんだなあ、という、なんていうのか感慨がありました。
 穂村さんがまじめだからもあるけれども、対談をしたそれぞれの人も、ちゃんとそれに応えて、まじめに対応して、プロ同士の会話をされている。
 読者にうけようっていう対談じゃない。こういう対談って、「小説好き」や「短歌好き」や「読書好き」にとったらもう、もんのすごくおもしろいんじゃないだろうか。
(みなみ・しんぼう イラストレーター)

『どうして書くの? 穂村弘対談集』
穂村弘ほか著
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