風邪のときに食べたいものは?/渡辺有子

 近しい人が風邪を引いたって聞くと気になってしまって、「何か出来ることはないかな」と思います。
 子どものころ、上のきょうだい二人は病気がちだったのですが、私はとても丈夫だったので、めったに病気をしませんでした。そのせいか、たまに風邪を引いたりするととても不安で、親にそばにいてもらいたくて大騒ぎをして、「本当に大げさなんだから」と呆れられた記憶があります。
 子どもに限らず、大人でも病気になると心細くなるものです。そんなとき、何か温かいものを作って食べさせてもらったりすると、人がそばにいてくれることもあって、安心するように思います。親と離れて住むようになってからは、具合の悪いときでも自分で作って食べるしかないので、誰かが作ってくれたらどんなにうれしいだろう、と思ったりします。だからこそ、具合の悪い人に何か作ってあげたいと思うのかもしれません。そんな思いが今回の『風邪とごはん』に詰まっています。
 私にとって、料理は人のことを思って作るもの。食べてくれる人がいて、その人のために作るのが料理の原点だと思っています。今回の本で実際に料理を作りながら思ったのは、具合の悪い人のために作るごはんは、相手の体調を考えてその人が食べられそうなものを、シンプルにストレートな味わいで作るのだから、いろいろな意味で料理の基本だということ。そして、体が必要としているものを作って食べることの大切さを改めて認識することができました。
 今回目指したのは、体にしみ込んでいくような、薄味でも素材の旨みが広がる、食べてほっとするレシピです。オリーブオイルで炒めれば簡単なところを、油を使わずにしかも旨みが感じられるように調整して工夫する。クリームやバターを使わずに、いかにこくを出していけばいいのか。そういったことがとても勉強になりました。
 この本には、温かくて甘い飲み物や、スープやポタージュなどの温かい汁物、それに麺類や鍋物といったレシピが多く載っています。こういうものは、食べるとなんだかほっとするものです。体が水分を求めていることや、消化がいいこともあると思うのですが、温かくて体にいいものを飲んだり食べたりすることは、どこか安心したりリラックスしたり、という精神的なことにも繋がっているのではないでしょうか。
 病気のときに限らず、疲れたときに温かいお茶やスープを飲んだりすると、「ああ、おいしい」とつい声が出てしまうのは、温まるのと同時にほっとするから。なんだか、お風呂に入ったときのリラックスする感じに似ていませんか? スープをメインにするお店や、スープ中心のレシピ本が増えているのは、今の時代、みんな癒されたいと思っているからかもしれません。
『風邪とごはん』を作ることになって、その参考にと友人知人に「子どものころ風邪を引いたときに食べさせてもらったもの」「家族が風邪を引いたら作ってあげるもの」は何かを聞いたのですが、人それぞれに違っていて面白かったです。
 うちでは風邪のときは煮魚が定番でしたが、茶碗蒸しが定番だった人、必ずフレンチトーストを食べたという人も。そして、子どものときに食べた風邪のときのごはんを、自然と家族にも作っている。こうして家の味は受け継がれていくんですね。
 最近、「これさえ食べれば絶対風邪を引かない、というレシピはありませんか?」と聞かれたことがあります。そんなレシピがあれば心強いでしょうが、とうてい無理なこと。日頃から自分の体調に気をつけて、バランスの取れた食生活をしていくことが、確実で有効な対策ではないでしょうか。
 食べることは楽しいことです。私たちの体は食べるもので作られるのだから、健康のためにも日頃から食を大事にしていきたいと思っています。(わたなべ・ゆうこ 料理家)

『風邪とごはん ─ひく前 ひいた ひいた後』 詳細
渡辺有子著

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